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大ヒットNetflixドラマ「地面師たち」「極悪女王」のキーマンに聞く「“日本発”はグローバルに届く」【調査情報デジタル】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年10月19日 8時30分

TBS NEWS DIG

大ヒット連発の裏に…“時代が呼び寄せた”髙橋信一氏

「地面師たち」「極悪女王」、この2つのNetflixドラマが世の中を席巻している。前者は7月25日、後者は9月19日の配信開始だが、ネットでは今もなおそれぞれの記事が毎日のように出現している。エンタメ誌だけでなく、ビジネス誌などでも取り上げられ、これまでのNetflix作品とは明らかに違う広がりを示している。

日本のNetflixコンテンツの中でアニメ作品の豊かさに比べると、実写作品は少なかったように思う。この2作には、今後同じようにインパクトの強い実写作品が続いていきそうな期待を感じる。

「地面師たち」は監督・脚本の大根仁氏、「極悪女王」は脚本の鈴木おさむ氏と総監督の白石和彌氏の力量によるのは間違いないが、私はNetflix側のプロデュースも作品に大きく作用しているのではと感じた。

2作品に携わった髙橋信一氏にインタビューし、それぞれのドラマ作りについてと、Netflix実写作品の今後について聞いた。2020年に映画会社・日活から移籍してきた髙橋氏は、Netflixから日本のクリエイターを世界へ羽ばたかせるために、時代が呼び寄せた人物かもしれないと感じた。(以下、インタビュー。一部ネタバレを含みます)

脚本の段階で興奮した「地面師たち」

 まず「地面師たち」についてお聞きします。大根仁氏の持ち込み企画と聞いていますが、最初はどう受け止めたのでしょう。

髙橋 日本のNetflixではクライムミステリーはまだ未踏で、チャレンジしてみたいジャンルだったこともあり非常に面白いと感じました。ただ会議室で進むサスペンスが、本当に映像エンターテイメントとして面白いのか、ドラマシリーズとして緊張感が保てるかの懸念を率直にお伝えしました。

そうしたら、大根さんがどうしても書かせてくれと2話まで上げてきていただいた脚本が見事で、僕が疑問を呈した会議室のサスペンスの緊張感、テンションの張り詰め方が素晴らしかった。不動産取引の書類の多さ・説明もうまく省略・消化して、没頭できる絶妙なバランスが設計されていました。あまりに素晴らしく、「ぜひやりたい!」とお伝えしました。脚本の段階であそこまで興奮したことはなかったですね。

企画書の想定キャストがそのまま出演

 キャスティングも主要メンバーは当て書きのようにハマってましたね。

髙橋 大根さんの企画書に想定キャストとしてまさにあのメンバーが書かれていました。幸運にもそのまま皆さんお受けいただけてラッキーでしたが、出演を決められたのは大根さんの脚本の力も大きいと思います。

 「地面師たち」は地上波のドラマでは描けない反社会性やアンモラルなセックスシーンも人々を惹きつけました。それは狙いでもあったのでは?

髙橋 反社会性とかヤバさというより、脚本開発が進み、撮影が進む中で見たこともない物語になる感覚はありました。これまでのドラマや映画と、意識せずその過激性を比べていたかもしれないですが、それより彼らが100億円を騙し取れるか取れないかのワクワクするエンターテインメント性に惹かれました。

ハリソン山中の暴力性も、彼の人間性を追求した結果です。セクシャルなシーンもキャラクターの欲望の発露として表現する必要がありました。Netflixじゃなきゃできないと思っていただけたのは嬉しいですが、物語として必要だからああいった表現になったのです。

 キャスティングについて、この人なら視聴数を稼げそうだとか、逆にネガティヴチェックが会社から入ることはないのでしょうか?

髙橋 映画会社にいた頃は興行収入が何十億いった作品に出ている俳優に出てほしい、というのはあったかもしれません(笑)。しかし、Netflixに来てからそのような観点はなくなり、物語を作る上でベストなキャストであることが重要だと考えるようになりました。

境 「極悪女王」も鈴木おさむさんから提案を受けたのでしょうか?

髙橋 僕が入社するタイミングでたまたま、上司の坂本(坂本和隆氏、日本のコンテンツ統括)が鈴木おさむさんから企画の提案をいただいたそうです。坂本が考えていた開発ラインナップのリストに入っていて、「僕やりたいのでこの企画をください」と奪い取って担当しました(笑)。

「極悪女王」の主役は演技テストも経て決定

 レスラー役はオーディションで決めたと聞きました。ダンプ松本役はゆりやんレトリィバァさんありきで企画したとしか思えませんでした。

髙橋 鈴木さんの企画書にはダンプ松本のキャスティングまでは書いてませんでした。本当にフラットにオーディションでゆりやんさんに決まったのです。当時、彼女がダイエットした直後だったので、筋肉をつけてもらうのは大丈夫ですかと確認し、演技テストも経て決まりました。

 クラッシュギャルズを演じた剛力彩芽さん、唐田えりかさんは華奢で、よくこのお二人に決めたものだと思いました。

髙橋 撮影時は身体を作ってもらいましたが、オーディション時はそれ以上に本当に華奢な線の細い体格でした。でも、お二人から出てくるオーラ、そしてこの役に賭ける思いが滲んでいたので、鈴木おさむさんや白石監督の意見も満場一致でお願いしたいと思いました。

 物語の流れで不思議に思ったのが、松本香はいつダンプ松本になるのか。ずーっと優しい松本香だったのが、全5話の3話目の後半でやっと世紀の悪役、ダンプ松本として登場しました。

髙橋 Netflixの配信において適切なストーリーテリングなのか、僕にとってもチャレンジでした。配信サービスの特性上、途中で見るのを止めてしまえるので、インパクトが強いシーンをどんどん作っていくのは1つの手法ではあります。

でもこの物語で伝えたいのは彼女の心の変遷です。3話の転換までに彼女が何を見て、どう感じてきたか。あんなに優しい松本香がダンプ松本になる瞬間を、お客様に見つめてほしいと鈴木おさむさんや白石監督たちと考えました。泣ける物語として作ってはいませんが、きっと5話まで見ていただいた方は彼女たちの生き様に涙すると思っていました。

ダンプさんたちが進んできた道のりは誰の人生でもあることだと思います。うまくいかなくて、もがいて、理想のゴールと違う方向に行かなきゃいけないこと、その中で生まれる葛藤。その普遍性は入れたかった。

プロレスシーンの安全ケアは1年以上練習を見た長与千種氏が判断

 プロレスシーンの激しさには驚きました。見ているとわかりませんが、安全面でのケアもかなりしていたのでしょうか。

髙橋 プロレス監修に入っていただいた長与千種さんが撮影期間も含めると1年以上練習をずっと見ているので、その子にはここまでの技はできる、ここまではできないと客観的な判断をしてもらいました。

そしてこの作品で初めてアクションチームの中に俳優の皆さんやスタッフの撮影時の安全面だけをチェックする専門スタッフを設けて、アクションシーンの中で俳優の皆さんの体に当たったか当たってないか、当たったならダメージはないのかを、医療班と連携しながらケアしてもらっています。

撮影期間も十分に確保 予算は…

 「極悪女王」の安全面はわかりやすい例ですが、Netflix作品ではすべてに渡って万全だったと関わった人は言っていますね。

髙橋 クリエイターやスタッフの方にそう言っていただけるのであれば何よりです。特に「極悪女王」のイベントで白石監督が「自分が死ぬ前に見たいと思う自作は『極悪女王』だと思う」と言ってくれたのは本作に出演してくれた俳優の皆さんの思いも背負ってくれたコメントで、とても嬉しかったです。

クリエイターの皆さんが何をやりたいのかと、そこに僕たちが共鳴したときに、それを成し遂げるのにベストな方法を、制約を取っ払って考えられるのはすごくいいことだと思います。

 スケジュールも十分に確保されていたと、出演者たちがラジオなどで語っていましたね。

髙橋 全スタッフ全キャストが人間的に正しく生活しながら作品に向き合うには撮影期間も十分確保する。これは大きいですね。

日本では24時間撮影することも、ある種の美徳のように語られてきた時代もありましたが、僕たちはそう考えません。スタッフの皆さんに気持ちよく仕事してもらうために何が必要なのか、制作環境もですが技術的な要素も、ひとつひとつ積み上げている段階かもしれない。

 予算も上限なく使える、ということでしょうか?

髙橋 当然、経済活動をしている会社ですから適正な投資規模は考えます。ただ全てをデータ上で決められるものではないですよね。クリエイターの皆さんと僕たちが考えた以上の驚きをお客様に感じていただけるレベルに到達したい。そのために基準をどんどん上げていく感覚は必要だと思います。そこに対して挑戦をさせてくれる会社です。

さらに、そのバーを超えられなかった時には、なぜ超えられなかったかもノウハウとして蓄積して、次の作品に活かす。いい意味でデータと直感のバランスを、クリエイターの皆さんと一緒に探しています。面白いと思ったことを実現するために何をすればいいか、作品ごとに積み上げながら開発することができる、その環境はいいなと感じています。

日本のクリエイター、スタッフ、原作、その力はグローバルに届く

 日本の実写コンテンツはこれまで世界に市場を広げられませんでした。Netflixで日本のクリエイターが作品を作ることは世界への突破口になるのではと期待します。

髙橋 日本のクリエイターがもっともっと世界に出てもおかしくないと僕は本当に思っています。それがNetflixに入った大きな理由のひとつです。言語の壁や、経済圏の壁を超えて、Netflixのプラットフォームを通じて作品が届いていくと、クリエイターの力、スタッフの力、そして原作の力もグローバルに届くと思っています。

映像業界の大谷翔平みたいな人が出てきて海外でも活躍してもらう。それが日本のコンテンツ全体を引っ張っていくと思うので、本当にそうなってほしいと強く思います。(インタビュー終わり)

インタビュー後記…日本のコンテンツ業界が持ちはじめた高いところを目指す意志

少し前まで、日本のコンテンツビジネスはアニメの分野で世界へ羽ばたいても、実写は当面無理なのだろうと私は考えていた。ところが『ゴジラ-1.0』がアメリカでもヒットしてアカデミー賞視覚効果賞を受賞した。

同じタイミングで「地面師たち」「極悪女王」が登場したのを見て、実写もいけると確信を持った。この2作を髙橋氏がプロデュースした意義は大きいと感じる。クリエイターとがっぷり四つで組んで、中身を高めるタイプのプロデューサーだからだ。

挑戦できる環境を得た髙橋氏が、クリエイターたちとともに「基準をどんどん上げていく」ことで、日本の実写コンテンツの可能性は無限に広がる。

大谷翔平はWBCで「憧れるのをやめましょう」とチームを鼓舞した。同じように、高いところを目指す意志を、日本のコンテンツ業界が持ちはじめている。

髙橋氏がNetflixにいる立場で、クリエイターたちとそんな志を共有することが、今必要なのだと思う。今後のNetflix作品への期待がいっそうふくらんだ。

髙橋 信一(たかはし・しんいち)氏の略歴
Netflix コンテンツ部門 ディレクター
2020年入社
Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写全般での制作及び編成を担当
これまでの担当作品に『浅草キッド』や『シティーハンター』などのNetflix映画、「地面師たち」「極悪女王」などのシリーズや「トークサバイバー」などのバラエティ作品のプロデュースも担当

〈聞き手の略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催 

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。

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