現・WBO女子世界スーパーフライ級王者・晝田瑞希 ドラマ初出演『あのクズを殴ってやりたいんだ』で感じた「ボクシングリングとは違う景色」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年10月29日 7時0分
2021年のプロデビュー戦以来6戦無敗を誇る、現WBO女子世界スーパーフライ級王者の晝田瑞希選手が新たなステージに挑んでいる。
現在放送中の火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』で奈緒演じる主人公・佐藤ほこ美がプロボクサーを目指し通う羽根木ジム。その羽根木ジムに所属するボクサー・市原香織役として出演している。
高校在学中にボクシングを始め、2021年にプロテストに合格。翌年には日本王座を懸けたプロ3戦目で初タイトルを獲得、同年、世界王座に挑み、WBO女子世界スーパーフライ級王座決定戦に見事勝利した。以後、二度の防衛戦に勝利し、現WBO女子世界スーパーフライ級王者として君臨している。そんな晝田選手は初挑戦となる演技とどう向き合っているのか。練習で見た奈緒の印象など、華やかなピンクの髪がトレードマークの女子ボクシングの王者が、ボクシングリングとは違う景色を語ってくれた。
ボクシングとの運命的な出会い
――高校からボクシングを始めたきっかけは?
高校のパンフレットでボクシング部が紹介されていて、珍しいという好奇心から「入ろうかな」と母と話していたんです。そんな矢先、制服の採寸を終えて車で帰ろうとしたら、校内で迷子になってしまい…、たどり着いた先がボクシング道場でした。母が駐車場の場所を尋ねるついでに「女子って入れるんですか?」と質問したところ入部できることが分かって。サッカーやバスケなどを選ぶような感覚で、ボクシング部に入りました。それまでボクシングや格闘技に興味がなかったですし、空手などもやったことがなかったので、運命のようにボクシングと出会いました(笑)。
――初心者がハマるボクシングの魅力はどこでしょうか?
現在、アルバイトでボクシングのフィットネスのトレーナーをやっているのですが、皆さんから「きついけど楽しい」「きついけど達成感がある」と聞くことが多いです。一度やってみないと分からないその達成感や、自分にもできたという成功体験がストレス発散になり、自信につながったり、プラスな気持ちにさせてくれると思うんです。そういうメンタル的なところも成長できる、自分のことを好きになれるきっかけになるところだと思います。
ドラマで女子ボクシング?と最初は信じられなかった
――主人公が恋とボクシングに向き合うラブコメ作品に、出演するに当たっての率直な感想を教えてください。
最初にトレーナーから話を聞いたのですが、現実の話とは思えなかったです。普段ドラマを見る機会があまりないこともあって、うれしい気持ちと同時に「どうして、私!?」と驚きました。加えて、日本では男子のボクシングと違って、女子のボクシングは知名度が低いので「本当に女子のボクシングを取り入れるのか?」という疑問も持ったので。「実はうそです」と言われても悲しくならないようにしておこうと、台本を頂くまではあまり信じていませんでした。
――撮影に入るまで何か準備されたことはありますか?
ほこ美ちゃんの後ろでミット打ちやシャドウボクシング、サンドバッグを打つシーンに関してはある程度対応できるところだなと思って心配はなかったです。でも台本を読み進めていくと、香織のセリフがたまに入っているのを見て、その一言のセリフがちょっと怖いなと感じました。そうしたら撮影が始まる前に、皆さんが何回もセリフの練習に協力してくださって準備することができました。
――ボクシング監修の松浦慎一郎さんから、晝田さんが撮影日以外でもスタジオに来て練習されていたと聞きました。
私の撮影が始まる前に、スタジオに行かせてもらったんです。そのときはまだセットも組まれていない状況で、スタッフの皆さんが「ここにリングがあると想定して…」と椅子やカラーコーンを並べて、私がイメージしやすいように環境を整えてくださって。ボクシングもそうですが、私は自信満々で臨むタイプではなくて、自信がないから練習するタイプなので、セリフや演技を何度も練習しました。
――どんな練習をされましたか?
岡崎(紗絵)さん演じるトレーナーのゆいさんに話しかけるシーンは、「ゆいさん」という言葉にも慣れていなかったので、普段一緒に練習をしているトレーナーに置き換えて話すように練習しましたし、家でも鏡や窓に映った自分の姿を見ながら、時には練習終わりの帰路で自転車に乗りながらセリフをぶつぶつとつぶやいて、口になじませていきました。たまに動画を撮って、「前回の練習よりはすこしはうまくなったかも」と見返しても、大根芝居になっていてどうしようと頭を抱えることも…。この反復練習は本当に数をこなすしかないですし、自信がつくまでやるしかないので、とことん練習しました。
奈緒さんに刺激「すごい人と出会えました」
――奈緒さんとマスボクシング(寸止めのパンチでポイントを競い合う競技)をされたそうですが、ボクシングに取り組む奈緒さんの姿はいかがですか?
ボクシングの練習の日にジムで初めてお会いしました。小さくてかわいらしい方だなという印象だったのですが、いざ練習の様子を見学させていただいたら、全ての練習に真剣に取り組んでいて。その本格的な練習に思わず、松浦さんに「もうちょっと優しくしてあげてください」と声をかけてしまうほどでした。そんな奈緒さんの何度も繰り返し練習される姿に感動をしていたところで、奈緒さんから家でできる練習方法について質問をされたんです。奈緒さんは自分に必要なことを考えていて、常に自分のベストを尽くす方なんだなと。撮影現場に入ってからは、私がご一緒するシーンはごく一部ですが、きっとしんどいなと思うこともあるだろうに、それでもみんなに優しく笑顔で、努力家で、だから強いんだなと感じて。ボクサーって気持ちがとても大事なのですが、そういった部分はほこ美ちゃんがというよりも、奈緒さん自身がボクサーに必要なものを持っていると思います。
――奈緒さんの姿に晝田さんも刺激を受けましたか?
奈緒さんのようにもっと強く優しくなりたいと思いましたし、もっと頑張れるはずだと自分に言い聞かせました。すごい人と出会えました。
心が動かない…スランプの乗り越え方とは
――現在、WBO女子世界スーパーフライ級王者で、プロデビュー戦以来6戦無敗と記録を伸ばしていますが、ここに至るまでの挫折や忘れられないエピソードはありますか?
アマチュアボクサーとして、ずっと東京五輪2020に出場することを目指していました。オリンピック出場のかかった最終選考で、オリンピックで金メダルを獲得した入江聖奈選手に負けてしまったんです。そのときは心が折れたというか、行きたい場所や食べたいものもない、「ボクシングをやめたら古着屋さんで働きたい」と思っていた夢までなくしてしまった感覚で、きっと心にぽっかり穴が開いたというのはこういう感じなのだろうなと。ですが、そのころ自衛隊体育学校に在籍していたので、自衛官アスリートとしてボクシングをすることが仕事という環境から、心が動かない状態でも毎日ボクシング道場には行き続けていました。今思うと、嫌だなと思ったことでも完全に目を背けなければ、道は切り開けるんだなと。ちょっとは目をつぶってもいいけれど、本当に嫌いなのか分かるまでは逃げないことが大事だなと感じています。
――ボクシングから目を背けなかったことに加えて、プロボクサーを目指そうと思えた出来事は何だったのでしょうか?
家族や、高校のときにボクシングを教えてくれた先生をはじめとした周りの方の応援です。私がオリンピックに出場できなかったことでみんなが落ち込んでいましたし、泣いてくれて。試合に負けてすぐ先生に電話をしたところ、「一緒に夢を見させてくれてありがとう」と言ってもらえて、私だけが夢を見ていたわけではなかったんだなと知ったんです。それにボクシングで幸せになっていないから、ここで諦めるわけにはいかない、ボクシングで幸せになろうと、少しターゲットを変えてプロボクサーになりました。
練習の積み重ねが大切
――晝田さんが、ほこ美のように“夢中になってゾーンに入ってしまい、思いもかけず物事を成し遂げた”経験はありますか?
この試合うまくいったなと思うのは、何度も練習したとき。例えば、スパーリング練習でいい動きをしよう、この練習は勝とうと考える人もいると思うんです。私はいい動きをすることよりも、その時間を使ってたくさん挑戦して、失敗することを大切にしています。とにかく挑戦しないと絶対に成功はこないと思っているので、毎日が挑戦と思って練習を積み重ねていくことで成功する確率が上がっていきますし、その経験が試合でふとしたときに生きてくると思っています。
本作で演技に初挑戦した晝田選手。ボクシングで培ってきた練習の積み重ねは、演技にも通じており、新たな挑戦にも柔軟に対応している姿が印象的だ。ドラマの主人公が持つ「折れない心」や「諦めない姿勢」は、晝田選手自身の強さとも重なって見える。その精神力こそが、彼女が世界王者であり続ける所以だろう。「一芸に秀でる者は多芸に通ず」とは、まさに晝田選手のためにある言葉だといっても過言ではないだろう。
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