「移民がペット食べる」トランプ発言に揺れる街を取材 嫌がらせや爆破予告も フェイク拡大の背景に“移民への不満”が…多様性の国アメリカの行方は?【news23】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月1日 14時12分
来たる11月5日、アメリカ大統領選挙の投票が行われますが、トランプ氏は選挙戦で「移民がイヌやネコを食べている」と根拠不明の主張をしていました。根拠のない発言の舞台となった町では移民へ嫌がらせや爆破予告が…実態を取材しました。
トランプ氏 ゴミ収集車で民主党を“攻撃”
突然、ゴミ収集車に乗るパフォーマンスを披露したトランプ前大統領。バイデン大統領への“皮肉”を込めて…
共和党 トランプ前大統領
「私のごみ収集車はどうだ?カマラ(ハリス候補)とバイデンに敬意を表しているんだ」
キッカケは「移民問題」。トランプ氏を支持するコメディアン、トニー・ヒンチクリフ氏が自治領のプエルトリコについて「ごみの島」などと発言しました。
トランプ氏支持 トニー・ヒンチクリフ氏
「海の真ん中にごみの島がある。名前はプエルトリコだったかな」
10月29日、バイデン大統領は「私が目にする唯一のごみはトランプの支持者たちだ」と発言したとアメリカメディアが伝えました。
これに対してトランプ氏はごみ収集車で登場。「アメリカ国民を愛していなければ、アメリカを率いることはできない」などと反論したのです。
根拠不明「移民がペットを食べる」で嫌がらせ
「ちょうどこの辺りですね。ずいぶん大きな工場があります」
アメリカ中西部・オハイオ州。大統領選挙の大きな争点「移民問題」で注目されています。自動車の製造や機械産業などが盛んです。
記者
「まもなく午後11時なんですが、駐車場には多くの車が止まっています。24時間稼働するこちらの工場、労働者の多くはハイチからの移民だということです」
こうした工場労働者の賃金は比較的安く、「強いアメリカ」の産業は、海外からの出稼ぎ移民によって支えられています。
オハイオ州南西部にある「スプリングフィールド」。住民の4人に1人がハイチ移民です。
人口減少などへの対策として、移民を積極的に受け入れるこの町が突然、全米の注目を集めました。
共和党 トランプ前大統領
「スプリングフィールドでは移民がイヌやネコを食べている。彼らは住民のペットを食べている」
ハイチにイヌやネコを食べる文化はありません。実際に“ペットが被害に遭った”という報告もなし。根拠は不明で、司会者はその場で発言を否定しましたが、大きなインパクトを残しました。
スプリングフィールドのハイチ料理店では…
ハイチ料理店オーナー
「もう店はつぶれる寸前だ。イヌ料理はあるか?ネコ料理はあるか?という嫌がらせ電話がかかってくる。私たちにはどうすることもできない。分かるだろ」
学校や公共施設には爆破予告。市外からやってきた右翼団体などがハイチ人への嫌がらせや脅迫を続けています。
大学の研究職を諦め、3年前にハイチから来たジーンさんは…
ハイチからの移民 ジーンさん
「なんだか悲しい気持ちです。噂は真実ではありません。これが政治です」
フェイク拡大背景に“移民への不満”
ハイチは、巨大地震の混乱やギャングの暗躍で治安が悪化。アメリカ政府は、移民に「一時保護」の資格を与えています。いわゆる「不法移民」ではありません。
しかし、街の人口が増えた影響で家賃が高騰。アメリカの交通ルールを知らないハイチ人による事故も相次ぎ、不満が高まっているタイミングで“あの発言”が出たのです。
共和党 トランプ前大統領
「移民はペットを食べているんだ。これが私たちの国で起こっていることなんだ。恥ずべきことだ」
州知事も市長も地元警察も、この発言を否定していますが、熱狂的なトランプ支持者は「問題が無ければ噂は立たない」と主張します。
トランプ氏支持者
「住民は起きたことを口にしているだけ」
トランプ氏 移民政策でハリス氏を“圧倒”
トランプ氏は猫などと一緒に映った合成写真を投稿し「ペットを守る大統領」とアピール。
トランプ氏支持 スプリングフィールドの住民
「ユーモアのセンスがすごい。トランプは大好きです」
移民に攻撃的な言動を続けるトランプ氏。移民政策に関する世論調査では、トランプ氏が51%・ハリス氏が38% (YouGovより)と、ハリス氏を圧倒しています。
移民問題に揺れる街では他にも根拠不明の噂が広がっています。
「事実かどうかは重要ではない」
スプリングフィールドの住民
「向こうの公園から野鳥が消えたわ」
「写真が証拠だよ」
“ハイチ移民が公園の野鳥を食べている”という噂です。
こちらが根拠のひとつとされる写真。ハイチ移民が野鳥を食べる為に運んでいる様子だというのです。
記者
「こちらには鳥が多くいます。割と普通に多くいるように見えます」
私たちは、地元住民約50人に話を聞きましたが、ハイチ移民が公園の野鳥を食べているところを見たり、具体的な情報を聴いたりした人はいませんでした。
アメリカメディアも「根拠のないフェイク情報だ」としていますが、専門家は事実かどうかはもはや重要ではなくなっていると指摘します。
ミシガン大学 クリフ・ランピー教授
「特定の人々に対する否定的なイメージを裏付けるような話は、ネット上で大きな話題になりやすい。これは移民が起こしうる問題を分かりやすく示す例でした」
「アメリカは好きですか?」多様性の国 行方は
一方でハイチ移民を支える動きも広がっています。
住民ボランティアによる英会話教室。ハイチの公用語はクレオール語とフランス語で、英語でコミュニケーションできる人は少数です。まずは言葉を理解して摩擦を減らし、地元住民とハイチ移民が共存することを目指しています。
しかし、トランプ氏はアメリカ史上最大の強制送還を掲げていて、先行きは見通せません。
“移民がペットを食べる”などと根拠不明のうわさが広がる、今のアメリカ。ハイチ移民のジーンさんは、実際に相手と向き合い、互いに理解しようとする姿勢が必要だと考えています。
ジーンさん
「これからハイチ料理を味わいますよ」
記者
「白身の魚ですね。おいしい!ベリーグッド」
ジーンさん
「イヌやネコなんて食べるはずないよ」
ジーンさんの目標はハイチで暮らす息子(3)のために教育資金を貯めること。エアコンの部品工場で働き、家族への仕送りを続けていますが、選挙結果に左右される未来が待っています。
ジーンさん
「(Q.アメリカは好き?)ここに住んでいるので、“好き”と言うべきなんでしょう。でも、帰国できるのであれば、国に帰ります」
多様性の国・アメリカは、これからどこへ向かうのでしょうか。
移民問題でトランプ氏攻勢 “意識高い疲れ”?
藤森祥平キャスター:
アメリカ大統領選投票日も1週間を切っていますが、民主党・ハリス氏が伸び悩む一方で、トランプ氏がこうした移民政策などで攻勢を強めている。その内容がかなり乏しい訳ではありますが、いかがですか。
斎藤幸平さん:
根拠のないヘイトを撒き散らしているトランプ氏はひどいですが、逆にこんなにひどいトランプ氏を相手にハリス氏が苦戦してるのに驚きを感じる人も多いかと思います。
やはり移民問題には、民主党の支持者の中にも不満を持ってる人たちが一定数いるわけなんです。
ドイツなどもそうですが、欧米では移民問題や気候変動問題を頑張ってきたけれど、意識高く頑張ることへの疲れのようなものが社会を覆うようになってきていると感じます。
ドイツもウクライナ戦争の後に多く難民を受け入れたが、学校でドイツ語が分からない子が増えて授業に支障が出たり、犯罪が増えたりなど、理念だけでは難しい面があるわけです。
アメリカでも反トランプという繋がりはあるけれども、それ以上の物語をハリス陣営は出せていないですし、仮に今回ハリス氏が勝っても、社会問題も分断もなくならないのであれば、4年後にはトランプ氏よりもっとひどい候補が出てくるのではないかと本気で心配しています。
小川彩佳キャスター:
選挙結果がどうなろうと様々な火種が残っていくことになりそうですし、選挙結果も不透明ですけれども、本当に見えないのはその後のアメリカの行方なのかもしれませんね
藤森祥平キャスター:
どんな最終判断になるんでしょうか?11月5日です。
==========
<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学 准教授 専門は経済思想・社会思想
著書『人新世の「資本論」』50万部突破
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