さかなクンと考える「外来種」 駆除ザリガニを“えさ”に 外来生物と共存しながら生きるには…【news23】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月5日 15時5分
“赤い悪魔”とも呼ばれる外来生物「アメリカザリガニ」に農家の人たちが頭を悩ませています。ただ駆除するだけではない、生態系を守る取り組みに密着。さかなクンと生態系を壊す外来生物との共存について考えます。
アメリカザリガニ急増で絶滅危惧種がピンチに?
水中に仕掛けたかご。そこに現れたのは、赤いシルエットのアメリカザリガニです。繁殖力の強さで、今年も各地で急増。農家からは怒りの声が…
農家のSNS書き込み
「田んぼのあぜを破壊してくるから腹立ってしょうがない」
「農家の敵。害虫や」
2023年6月に「条件付特定外来生物」に指定され、飼育したものを野外に逃がすなどした場合に、重い罰則が設けられました。
そこで駆除に乗り出したのが、近畿大学農学部の学生たちです。
近畿大学農学部4年 宮部和樹さん
「水草から魚までなんでもかんでも食べるので、池の環境ががらりと変わってしまう」
水辺に生息する絶滅危惧種の調査・研究が専門の彼らが、駆除に乗り出した理由は…
宮部和樹さん
「絶滅危惧種にさらされているニッポンバラタナゴが、さらにもっと絶滅に向かっていくのかなと」
ゼミが保全している絶滅危惧種・ニッポンバラタナゴの産卵を捉えた貴重な映像。メスのお腹から伸びているのは「産卵管」。色鮮やかなのはオスで、右下にいるのは二枚貝です。産卵管を貝の隙間に差し込みオスが精子をかけます。貝がなければ繁殖できないのです。ところが…
宮部和樹さん
「死んじゃって中が空いてしまって。周りがギザギザになっていて」
アメリカザリガニによって貝が無残にも食い尽くされてしまう現状。ただ、学生たちには複雑な思いがあります。
宮部和樹さん
「これ(アメリカザリガニ)を悪者にしてしまうのは良くないことかなと思います。これも命なので、捕って殺して終わりではなくて、捕って殺したあと、何か利用できる段階につなげていけたら」
駆除ザリガニを“えさ”に 外来生物と共存しながら生きる
そこで始めたのが、ペットフードメーカーの協力のもと、駆除したザリガニを魚のえさにする取り組みです。ミキサーにかけ、薄く焼いていけば、特製ザリガニフレークが完成です。
そして10月、完成したえさを試すため自然博物館を訪れました。
橿原市昆虫館 学芸員 辻本始さん
「ザリガニ(のえさ)は一度もない。なかなか、ザリガニが使われているえさがそもそもないので」
まずはドンコという魚にあたえて見ることに。しかし…
宮部和樹さん
「目では追ってはいるんですけど…」
反応は今ひとつのようです。続いて、ニッポンバラタナゴ。繁殖に必要な貝をザリガニに食い荒らされていた、あの魚です。果たして食べるのでしょうか…?
「食べてます、食べてますね」
「よかった、よかった」
次の命へと繋がりました。
宮部和樹さん
「ザリガニも来たくて日本に入ってきたわけじゃないと思うので、たしかに悪いことはしているが、命を無駄にすることなく、別のかたちで利用できることが分かったので、それはすごい良い発見だなと思いました」
外来生物とはいえ、同じ命。共存への模索が続けられています。
繁殖力の強いアメリカザリガニ 最初は20匹が…現在は全国に分布
小川彩佳キャスター:
アメリカザリガニも共存していくということですけれども、素晴らしい魚活用ですね。
TBS SDGs大使 さかなクン:
アメリカザリガニが悪いというわけではなく、やはり持ち込まれてしまったがために、なんです。生き物はみんな一生懸命生きようとする。その力が強ければ強くなるほど、本来そこにいなかった生き物であれば、生態系を変えてしまうことになってしまうわけです。
藤森祥平キャスター:
環境省によりますと、アメリカザリガニは、1927年にアメリカから食用輸入されたウシガエルの餌として、神奈川県鎌倉市大船に輸入されました。最初はわずか20匹ほどだったそうです。しかし現在は、全ての都道府県で生息が確認されています。
学校教材やペット釣りの餌など、事業者が商品として保管していた個体を捨てたり、逃げ出すなどして全国的に分布が広がったと考えられています。
データサイエンティスト 宮田裕章さん:
私が岐阜に住んでた頃はどこにでもいて、まさに小学校の最初に馴染む生物として、教材の中でもザリガニを通して生態系を学ぶ、というようなことがあったと記憶してますね。
小川彩佳キャスター:
最初は20匹だったのがそこから日本全国に広がるという、繁殖力が強いとはいえそんなことが起きるんですね。
さかなクン:
アメリカザリガニは生きる力が強くて、水がかなり汚れても生きますし、水温の変化にも強いです。産卵も一回で200〜1000個産み、生まれた子どもも結構大きいです。
アメリカザリガニの産卵数は実は少ない方で、エビやカニの仲間には何万何十万という卵を持つものもいます。だから、逆に生まれた子どもは大きく、生存率が高いわけです。
小川彩佳キャスター:
日本には天敵もいないんですか?
さかなクン:
本来、ウシガエルのえさとして持ち込まれましたが、それよりも繁殖力が大きく、田んぼのあぜにも穴を掘ったりして、どんどん分布を広げたみたいです。
小川彩佳キャスター:
それが自然に大きく影響を与えていくことになってしまうわけですね。そこまで考えずに、取り入れてしまいますよね。
さかなクン:
でも実はアメリカザリガニは食べることもできて、食用としても活用されてます。
小川彩佳キャスター:
アメリカザリガニに限らず、こうした外来種にどう対処して解決していていけば良いのでしょうか?
さかなクン:
お魚の餌として活用したり、あとは綺麗な水で美味しいものを食べさせてあげると、アメリカザリガニも美味しくいただくことができるんです。
金魚やワカメ…日本の在来種も海外では「厄介者」に
小川彩佳キャスター:
日本の在来種が海外に出て行ってしまっていることもあるんですか。
さかなクン:
「ワカメ」が海外で増えてしまっています。船の「バラスト水」というバランスを保つための水に、ワカメの胞子などが入ってしまい海外で増えてしまっています。
「だったら食べればいい」と思いますが、海藻を食べてしっかり消化吸収できるのは日本人の体質だからこそなので、なかなか海外では食用として話を広げるのは難しいという面もあるみたいです。
あとは、海外から持ち込まれて日本の海で帰化している、「ムラサキイガイ」。いわゆるムール貝です。実はムラサキガイは外来種ですが、海の水を綺麗にしてくれる浄化作用があります。ムラサキイガイやアサリ、カキなどの二枚貝は水の中の栄養を食べて水質を綺麗にしてくれる役割もあります。
なので一概に悪いことばかりではありませんが、元々いなかった生き物が増えすぎてしまうと、本来そこにいるフジツボや海藻などの生き物も暮らしの場が狭められてしまうということもあります。
あとは身近な魚の「金魚」。大きくなって飼いきれない、など家ではもう飼えなくなり放してしまうと、放された川や湖などで増えてしまって生態系を変えてしまうことになってしまいます。
金魚は長生きで、30~40年生きることもあるからです。大きさも、水槽の中だとかわいらしい大きさですが、自然に放されてしまうとと30センチ、40センチとかなりの大きさになってしまいます。
宮田裕章さん:
やはり人間の都合で害虫や益虫など、それがいいのか悪いのかなどを決めてしまっていることが多いんですが、生態系の影響がすごく大事なんです。
昔、沖縄でも「ハブを食べてくれるのでは」とマングースを入れたら全然そうでなく、生態系を壊してしまい、それを回復するまでに数十年かかったりしました。この「生態系のバランス」という視点が大事なのでは、と思います。
さかなクン:
自然界の中ではすべてバランスなんです。バランスの中で、ある生き物が増えたときに、人にとって良い魚であれば「大漁だ、豊漁だ」と喜ばれますが、ヒトデやクラゲだと「異常発生だ、大量発生だ」と厄介者扱いされてしまうことも多いです。
小川彩佳キャスター:
人に都合がいいからといって、生き物を入れていいわけではないということですね。
さかなクン:
元々いなかった場所に放してしまうことによって、日本の在来生物に大きな影響を与えてしまうことは深刻ですね。
そこにある自然が本当に本来あるべき自然の姿なのか、本来ある生き物なのか、これをしっかり見極めたいです。もしかしたら持ち込まれてしまった生き物かもしれません。
宮田裕章氏:
ぱっと見て無害そうでも、生態系にはすごく影響を与えられるかもしれないということですね。
==========
<プロフィール>
さかなクン
TBS SDGs大使
東京海洋大学名誉博士
宮田裕章さん
データサイエンティスト
慶応大学医学部教授
科学を駆使して社会変革に挑む
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