ペロブスカイト太陽電池と原発事故被災地の復興<シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月9日 7時0分
次世代の太陽電池として注目を集めるペロブスカイト太陽電池。福島第一原発が立地する町が実証実験を始めた理由とは。「シリーズSDGsの実践者たち」の第37回。
実用化が期待される次世代型太陽電池
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実証実験が国内各地で始まっている。この太陽電池は、ペロブスカイトと呼ばれる特殊な結晶構造を持つ材質を使ったもので、次世代の太陽電池として早期の実用化と量産化が期待されている。
現在主流となっているシリコン型太陽電池と比べ軽量かつ、製造工程が少なくてすむ。薄くて軽いフィルム型と、窓ガラスの代わりに設置できるガラス型、それにシリコンとペロブスカイトを重ね合わせたタンデム型の3つがある。
特にフィルム型は、プラスチックなどに印刷することで製造が可能で、曲げることができるのが大きな特徴だ。フィルム型の研究開発では日本がリードしているほか、日本はペロブスカイトの原料となるヨウ素の生産量が世界第2位を誇ることから、国内の複数のメーカーが開発に乗り出している。
また、実用化に向けた取り組みには国や東京都などが補助金も支出していて、現在は開発しているメーカーが自社の設備などで実証実験を始めている段階だ。
このペロブスカイト太陽電池の実証実験が、2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災地でも行われている。その場所は、東京電力福島第一原子力発電所が立地する福島県大熊町だ。
ゼロカーボンのまちづくりを復興の柱に
大熊町が東芝エネルギーシステムズとともに、ペロブスカイト太陽電池の実証実験を始めたのは2024年5月。役場前には幅30センチ、長さ100センチのフィルム型のペロブスカイト太陽電池を4枚使用し蓄電池も備えたモジュールが設置された。その場でスタンドライトやタブレットなどの充電ができるかを検証するもので、自治体による実証実験は珍しい。
大熊町は福島第一原発の事故により、震災発生翌日から全町避難指示が出され、町民は着の身着のままのような状態で町外に避難した。そのまま長期間にわたって町に戻ることができなかった。
震災から8年以上が経過した2019年4月に、居住制限区域だった大川原地区と、避難指示解除準備区域だった中屋敷地区でようやく避難指示が解除され、住民の帰還が始まった。大川原地区は震災前は人があまり住んでいない場所だったが、現在は大熊町役場や商業施設、公営住宅などが立ち並ぶ復興拠点になっている。
2022年6月には、特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された。ただ、町内には原発事故で放出された放射性物質が除染されていない地区も多く、戻ってきている住民はまだ少ない。
震災前に1万1500人いた住民は、2024年7月末時点で9983人が住民票を置いているものの、町内に住んでいるのは約800人のみ。それ以外に原発関連の業務のため町内に住んでいる約500人をあわせても、人口は震災前の約10分の1だ。
大熊町は帰還が始まった翌年の2020年2月、二酸化炭素の排出を大幅に削減して、2050年に実質ゼロにする「2050ゼロカーボン宣言」を打ち出した。原発事故を経験した町だからこそ、原発や化石燃料に頼らずに地域の再生可能エネルギーを活用することと、再生可能エネルギーを産業として育てることによる、持続可能なまちづくりを復興の柱に据えた。
その一環として、町内の再生可能エネルギーで発電した電気を、住民や事業者に供給する電力会社「大熊るるるん電力株式会社」を町や地元企業などの出資で設立。あわせて、公共の施設では再生可能エネルギーによる発電で電力の100%を賄うことを目指している。
しかし、当初想定した通りには太陽光パネルの設置は進んでいない。その理由は、現状のシリコン型太陽光パネルは重く、木造の施設では荷重に耐えられないほか、建設したものの屋根の形状などによって設置できなかった施設もあるからだ。
役場に隣接する商業施設や木造の宿泊温浴施設も、太陽光パネルを置くことができなかった。また、全国的には木クズなどを使ったバイオマス発電も増加しているが、大熊町では森林がほとんど除染されていないため、地元材を活用したバイオマス発電は導入が難しい。
どうすれば再生可能エネルギーによる発電量を増やすことができるのかを検討しているときに、東芝エネルギーシステムズから提案があったのが、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験だった。
どこでも設置できるペロブスカイト太陽電池に期待
ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽いので、木造建築物の屋根はもちろん、壁などにも設置することが可能だ。しかも、フィルム型は曲げることもできるので、さまざまなスペースを有効活用できる。実証実験でも、問題なく発電ができている。
役場の外に設置された太陽電池とモジュールは、東芝エネルギーシステムズが調整を行うために一旦撤去し、9月以降は役場の庁舎内に設置して屋内での発電に切り替えた。将来的にはガラス型のペロブスカイト太陽電池の活用も視野に入れている。
ペロブスカイト太陽電池の課題は、発電効率を上げることと、耐久性を向上させることだった。実証実験の段階に入ったことでその課題はクリアされつつあり、メーカーによっては2025年中の事業化を目指している。さらに、2020年代後半には、量産化される可能性もある。太陽光発電のあり方が、大きく変わろうとしているのだ。
大熊町は現在、震災前は街の中心地だったJR大野駅周辺で、大規模な再開発を進めている。産業交流施設や商業施設が建設されているほか、宅地や賃貸用住宅も整備され、再開発地区は新たな復興拠点として2025年3月にオープンする予定だ。
この再開発された地区でも、メガソーラーなどで発電された電力が使われる。さらに、ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば、将来的に大熊町全体の電力を再生可能エネルギーで賄うことも現実味を帯びてくる。新たな技術は原発事故被災地の復興にも影響を与えそうだ。
(「調査情報デジタル」編集部)
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。
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