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【独自】15年ぶりの映画監督 浅野忠信が語る “クリエイターの矜持” 最初の観客は「撮影現場」にいる

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月21日 11時0分

TBS NEWS DIG

俳優として、2011年の「マイティ・ソー」でハリウッド映画初出演を果たし、今年、アメリカの優れた番組などに贈られる「エミー賞」で史上最多となる18部門を制覇したドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」にも出演している浅野忠信さん。

世界で活躍する浅野さんが、「R246 STORY ~224466~」以来、15年ぶりに監督を務めた映画「男と鳥」を含む、オムニバス映画「ミラーライアーフィルムズ・シーズン6」の先行上映イベントが秋田県秋田市で開催されました。

MIRRORLIAR FILMS (ミラーライアーフィルムズ)
「映画づくり」を通じて、クリエイターの発掘・育成や 地方創生に取り組むプロジェクト。発起人は俳優の山田孝之さん、阿部進之介さん、映画プロデューサーの伊藤主税さん。2020年に始動し、日本を代表する俳優・クリエイターらが 次々に参加している。

映画「男と鳥」 監督・脚本 浅野忠信
ゾンビ侍(田中一平)は神から、「この箱を5分後に届けなさい」と頼まれる。男が眠気をこらえながらも進んでいくと、そこへ箒に乗った鳥(阿部進之介)が現れる。箱に関心を示し、男を追いかけ回して奪おうとしてくる鳥だが、鳥がこじ開けようとしても箱は決して開かない。箱をめぐる摩訶不思議な物語。
 


全編「コマ撮り」で撮影された映画「男と鳥」は、どのように誕生し、そこで浅野監督がやりたかった事とは… 日本とハリウッドの両方の映画づくりを知る、浅野さんだからこそ語れる、「クリエイターの矜持」を聞きました。

Q:秋田のこれまでの印象と、実際に来て感じた印象は?

浅野:美味しいものがあったりとか、(秋田)美人な方が多いとか、いろんなイメージはあったんですけど、実際に秋田に来たときに、なんですかね… もちろん雪が降って寒いんですけど、なんか「妙な心地よさ」というか「あたたかさ」というか、そういうのを感じたんですよね…

「なまはげ」とかに対しても、いろんな勝手なイメージもあったんですけど、なんか怖いだけのイメージじゃないな っていうのが何となくわかって、「あたたかいな」という感じはありました。
 

Q:監督・脚本を務めた「男と鳥」。 登場人物のキャラクター、何か発想のきっかけはあったのでしょうか?

浅野:まず、どういう物語にしようかなと思って、男が出てきて、こういうことをして…みたいに書くんですけど、書いていた時に阿部さんと「SHOGUN 将軍」っていう作品で、カナダにいて、もし続編があったら、「ゾンビ侍」っていうのがいたら面白いよね… みたいな雑談をしていたんです。この作品とは関係なく…。

その後、映画に出てくる男を「ゾンビ侍」にしちゃおう…とか、短編映画を「コマ撮り」で撮影することを決めて、「ずっと飛んでいる存在」がいたら面白いので、それはやっぱり「鳥」かなとか… 単純なアレなんですけど、ロケ地が秋田で「なまはげも『ご出演』できそうです」っていう話も聞いていたので、神様は絶対になまはげで!とか…(注:実際「男と鳥」に出演している神様は 秋田・下浜地方の「やまはげ」がモチーフ) だから、本当に偶然が重なって、何かいろいろ試させてもらって…という流れです、はい。
 

Q:脚本(浅野さんは「男と鳥」で監督・脚本を担当)は事前に固めないで、撮影現場で即興的にアイデアを活かしながら撮影したと聞きましたが?

浅野:そうですね、はい。俳優をやっていたおかげで、俳優で普段現場にいると、やっぱり「確実に出来上がるもの」を作りますし、「一つのゴール」に向かってみんなが向かうじゃないですか… ただ、「それが果たして正しいのか?」って思う時もあるんですね。

というのは、本来 映画っていうのは 何か出来上がるためのモノを撮る…っていうよりは、その日その日に、いかにスタッフとか俳優とか監督も含めてみんなが「何かを感じられるか」っていうのは、とても重要だと思っているんですね。

映画の日々の撮影において「ただこなす」という事より、日々「何かを感じ続ける」という事は、ものすごく難しい… 難しい作業だと思うのですが、それを「絶対に心がけなきゃいけないな」と思ったんですね。

ですから、僕の脚本なんか、どうでもいいですし、極端に言ったら「作品が出来上がらなくても良い」と…。それよりも、いかに今日、スタッフみんなが笑うか、とか… 考えるか。考えた結果が、何か花開くか… ということを、僕はやっぱり監督として心がけなきゃいけないと思ったんです。

現場では、やっぱり皆さんから色んなアイディアが出るし、そのアイデアで作品がどんどん色濃くなっていくことを実感できたので面白かったです。
 

Q:比較する話では もちろんないと思うのですが、エミー賞を獲得した「SHOGUN 将軍」という作品があって、「男と鳥」のような作品があって、後者は予算が限られていたり、時間も限られていたり、ビジネス規模の大きい方の仕事だけで満足する人はいると思うのですが、なぜチャレンジングなことをしようと思うのでしょうか?
 

浅野:まさに今 言った話だと思うんですけど、ある時に、「モンゴル」って映画を撮っていた時だと思うのですが、パッケージの話じゃないんですね。映画館で流すから映画… ってわけではない。 というのは砂漠のような街で、小さいインターネットカフェがあって、そこで子どもたちが集まって、一つの画面にかぶりついてダウンロードした映画を見ていたんですね。

この子たちが、こうやって「喜びを持って映画を見てる」ってことが一番重要だし、なんか…ここに届かないんだったら、映画じゃないな…と思ったんですね。

その時に、何か自分の中で「余計なタガ」が外れて… 作品が大きいからとか、小さいからとかじゃなくて、僕が「何かできそうだ」とか、「やってみたい」とかっていうことがあれば、そこには何か共通した「映画的な要素」は生み出せるんじゃないか…っていうのはありますけどね。


Q:今 タイパ(タイムパフォーマンス)だとか ドラマ等を「早送り」で観る人もいる時代ですが、作品の視聴動向に対する、自身の想いを伺ってもよろしいでしょうか?

浅野:なぜ「早送り」するかっていうと、まさにそうやって決められたルーティンの中で映画を作っているからだと思うんです。僕も2倍速で子どもたちが映画を見ているって聞いた時に、「だよね!」って、2倍速で映画を見ましたし・・・ 

なぜなら、僕を釘付けにする「何か」が、そこにはなくて、ただただ「内容を確認したいだけ」ってなっちゃっているわけですよね。でも、こっちがやっぱり心がけるべきは、「気づいたら見ちゃった」ってものを作らなきゃいけないから、そういう意味では「現場」で笑いが生まれていなければ、やっぱり「倍速」で見ちゃうと思うんですよ。

でもそれって、「現代的で面白いな」と思うし、だったら最初から倍速の映画を作っちゃえば良いし、もしくは、こうやって短編とかで どんどん映画を流すべきだと思うんで、(長編映画は)約2時間… っていうルールはね、なんか本当に 誰かが勝手に、いつの間にか作っちゃったものだから、それは本当にいらないな…と思いますけどね。
 

Q:「男と鳥」を観て、「浅野さんは、普段どんなことを考えているんだろう?」って小栗監督から絶賛されていましたが、どういうふうに社会とかを見ていますか?

浅野:いやもう…本当に天邪鬼ですから、ものすごくひねくれて、日々いろんなものを見て、やっぱり「当たり前であること」っていうものが、ありがたいことは いっぱいあるんですけど、やっぱりこれって考えたら「昔からずっと動いていないんだな」って事が、やっぱり溢れているんですよね。

「これって何で、こうあるんだろう?」って なんか当たり前だけど、もっと良くできるんじゃないかとか、それは、「この役をどうしたら面白くできるだろう」って考えている延長線だと思うんですよね。

普段、台本をもらって読むと、どっか頭の中にこびりついた「誰かがやったような演技」で読んでいる自分がいたりするんですね。そうすると大体、つまらないんですよ。

でも、「あ!いけない」と… こうじゃない場合ってなんだろう? ってもう1回読み直すと「こういう人だったら面白いな」 とかって…

失礼な話ですけど、主人公に僕が興味のない俳優さんがキャスティングされて、その方が台本を読んでいると、「やっぱ、つまらないなぁ~」ってなるんですけど、もし渥美清さんが…寅さんがキャスティングされてたらって想像すると、めちゃくちゃ大体面白いんですよ。

これって、やっぱり「俳優の役作りの話」だから、そっか…「つまらない役ってないんだな」って、そこで思えるわけですよ…
 

Q:今回、秋田の学生さんにも一部、撮影を任せたのはなぜ?

やっぱり、僕の好きな監督で、もう亡くなってしまいましたけど 相米慎二監督っていう方がいて、僕が「風花」という作品を一緒に撮った時に、監督はどのスタッフも平等に扱ったんです。扱っているのではなく、それが普通の監督のスタイルでした。

だから、本番回してカットかけて、誰も普段は、あまり声をかけないような 照明部の一番下っ端の子に、「今のどうだった?」って聞くんですよ。

「いやあ あんまり…」っていうと、「何々くんが面白くないっていうから、もう1回だよ!」って(笑) 結局、別にキャリアの話じゃないし、いっぱい映画を撮ったからって、うまくできるわけでもないんですよ。

(ミラーライアーフィルムズのように)学生の方が、映画の撮影現場にいるってことは 我々がもう忘れてしまった「何か」を、必ず持ち込んでくれているから…、学生さんがいることで気持ちがリフレッシュできますし、ちょっと試しに 何かやって頂いたり アイディアをもらったりして、「これって本当に入れるべきアイディアだったね」ということがやっぱりあったりするんですよ。


Q:映画業界として、もう少しこうなったら良いな・・・みたいな想いはありますか?

浅野:やっぱり…SNSがあることで、世の中やっぱりある種、「平等化」じゃないですけど、どの国に行っても、ある程度、国のことがわかるから、ある種の「共通の常識」だったり いろんなものが みんなの中に植え付けられたと思うんですけど…

だからこそ、(当たり前とされているものに)「疑問」を持ってほしいし、何か映画でも、「何が本当はやりたいんだろう」って考えたいなと思うんですね。

そうするとやっぱり、「長さ」は自由でいいし、もう1つは、それはまさにSNSとかで確認すればするほど、世の中はもう映画以上のことが溢れているんですよね。とんでもない事件だったりとか、とんでもない喜びだったり、いろんなことに溢れてて、映画が追いついてないような気がするんですね。

だったら、映画の持っている強みを生かして、「人の夢の話」でも撮って、不可思議な物語とか、 さらに何か違うイメージを共感してもらえるような事って、できないかな?とは思いますけど。やっぱり、「ありきたりの物語」は 追いついていないような気がするというか… はい。

Q:「エミー賞」の授賞式で、ステージ上にいる方たちを見ると、もう頂点に登り詰めたと満足しても良い気もするのですが、それでもなお、ものづくりにどん欲ですね…

浅野:そうですね… 些細なことがやっぱりずっと気になりますし、元々 根がミーハーなんで、誰かが面白がっているものは 僕も経験してみたい! っていうのは常にあるかもしれない。
僕は、そういう気持ちがあって ありがたいなと思います。


Q:これから「男と鳥」を観る人に対して、メッセージをお願い致します

浅野:そうですね… 本当にパッと見は よくわからない作品かもしれないですけれど、よく見てもらうと「現場の喜び」っていうのは 随所に散りばめられているので、何かそれを感じてもらえれば嬉しいなと思います。


今回、「男と鳥」で重要な役割を果たしているのが、衣装・特殊メイクを手掛けたアーティストの快歩(かいほ)さん。

今年「Forbes JAPAN」が発表した「世界を変える30歳未満」にも選ばれていて、King GnuやOfficial髭男dism、きゃりーぱみゅぱみゅ、藤井風、Vaundyなど、著名なミュージシャンのミュージックビデオで「独自の世界観」を創り続けています。


Q:「男と鳥」で衣装・特殊メイクを担当した 快歩さんについて

いや~ 頼もしいなと思いますね。本当に…快歩さんに限らず、スタッフも含めてみなそうですけど。僕がなんだかはっきりしない答えをずっと出し続けてる中で、撮影して、(イメージを)形にしてくれて… 僕が考えたかのように何か作ってくれているわけですから… 「なんか大丈夫なんだな」と思って。

普段 俳優でね、現場を見てると、細かいことを全部考えてる監督って、いっぱいいると思うんですね、もちろんそれは正しいと思うんですけど、でもきっとスタッフが、何とかしてくれますよって思っていたんで…

特にそうやって若い人たちが、今回、「何でもやってくれる」っていうのを確認できたから、自分の声が通るのだったら、どんどん、そういう人たちにお願いしたいですね。はい。


Q:ビジネスの世界だと、若い世代に教えるよりも、自分でやった方が楽…という人もいますが、 なぜ浅野さんは任せられたのか?

そこはもしかしたら、僕が俳優だからかもしれないすね、やっぱり… ある種、無責任な部分が出ちゃってると思うんですけど、もしかして僕が真剣に監督だけでやっていたら、任せられないこともあるのかもしれないですけど、僕は別に監督で有名になる必要もないし、この後、映画を撮り続ける必要もないんで…

僕が監督をやるんだったら、普段 監督にこうあってほしい…みたいなことも含めて 今回「男と鳥」で何かできればと思ったんですね。

撮影現場がまず一番の観客で、普段 俳優として演じていて、目の前のスタッフが「クスッ」と笑ったり、泣いてくれたりしていない日は あれ? これ劇場やばいな・・・と思うんですね。

でも、その日にスタッフが1人でも泣いたり笑ったりしてくれて、撮影の後に 「浅野さん 今日すごい良かったです」 って言われたら、「いける!(笑)」って思うわけで… その瞬間をね… やっぱり現場で常に芽生えさせたい。


【担当:芸能情報ステーション】

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