「地球に住む一員として」海と陸の架け橋に 水族表現家・二木あいさん【Style2030】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年12月1日 11時0分
SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は水族表現家の二木あい氏。世界の海を舞台に、自分が被写体または撮影者となって様々な形で表現を続けている。海と陸上の架け橋となるべく活動を続ける二木氏は、2020年から自然資源の保全とそれに関わる人たちを繋げることを目的とした環境省の「森里川海プロジェクト」に参加。ユニークな方法で海の大切さについて伝え続けている二木氏に、2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。
「海を守ろう」って何様やねん 人間らしいものは置いて海に入る
――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題してお話しいただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。二木さん、まずは何番でしょうか?
二木あい氏:
14番の「海の豊かさを守ろう」です。
――この実現に向けた提言をお願いします。
二木あい氏:
「人間は地球の所有者ではない」というところです。
――我々の振る舞いが問題なのでしょうね。
二木あい氏:
海を守ろうっていうこと自体、強いものがやってあげるっていう感じだと思うんです。私達人間も同じ地球に住む一員であって、その一員として私達は何ができますかっていうところだと思うので、豊かさを守ろう、何様やねんみたいな。
――二木さんがウミガメの下に潜っている。この写真は合成じゃなくて本当ですよね。
二木あい氏:
本当です。しかも、これ日本の海、奄美大島です。
――どんなふうに撮られた写真なんですか。
二木あい氏:
もちろんプロの写真家さんがいらっしゃって、一緒に撮ったんですけど、海の中はしゃべれないので、本当にあうんの呼吸でいかないといけない。しかも私だけなく生き物も一緒にいるので、生き物が来たときにっていうのはあるんですけど。
海の中は陸上よりも振動が4倍速く伝わるところなので、こちらがちょっとでも何かドキッとしたりとか怖いとか、何かよこしまなことがあったりとかすると、それが全部相手に伝わってしまったり。
――伝わった瞬間…。
二木あい氏:
パッといなくなります。
――もう1枚写真が。手を繋いでいますか。
二木あい氏:
そうなんです。アリゲーターではなくて、ワニです。これは行ってすぐにガシッてつかんだわけではなくて、実は私、あの彼をマッサージしたんです。尻尾の先から始めて、足とか手の付け根のところもマッサージして。
これはキューバなんですけれども、2週間滞在していたので、ほぼ毎日会いには行っていたんです。マッサージをずっとして、すごく力が抜けちゃってる状態で、お駄賃の代わりに手を繋ぎましょうって言って手を繋いで写真を撮ってもらった。
海の中は彼らのおうちなので、そこを土足で踏み入るっていうことはせずに、ちゃんとそこは敬意を持って入っていってっていうのはあります。
――2人ともだらんとしています。やっぱり伝わるんですか。
二木あい氏:
伝わります。いくら怖いと思ったところでどうしようもないっていうのもありますし、死ぬときは死ぬときだと思っているので。向こうがアタックしたいと思ったら絶対前から来ない。もし食べようとするんだったら絶対私は後ろからやられるので、気づく前にお腹の中にいるので、それはそれでいいのかなと思って。
――潜っているときの二木さんの頭の中はどんな感じなんですか。
二木あい氏:
今の状況をそのまま受け入れているっていう感じだと思います。考えっていうのが実は一番邪魔だったりとかしていて、考えてから行動では遅い世界が自然の世界なので、一番人間らしいものは陸に置いて海に入る。
生き物の目線で伝えたい 私たちも地球の一部
――素潜りを始めたきっかけは?
二木あい氏:
素潜りだけで行くのは、彼らと同じ目線で海の中にいて、海の中から伝えるっていうのが使命というか自分がやらなければいけないことだと思うので、クジラだとかイルカとかの哺乳類とか、ワニだとかウミガメとか、みんな息を止めて海の中にいるので、その彼らと同じ状況で海の中にいて、同じ目線にいるっていう。
ボンベを背負うと中に長くいられて観察はできるんですけど、泡と音で生き物たちが逃げていってしまうので、彼らの中に入り込んで一体にはなれない。だから、私は背負わずに素潜りで同じ状況で潜るっていう。
――何分潜れるんですか。
二木あい氏:
1分半とか2分とかそういう感じでやっています。浦島太郎の話があるじゃないですか、一晩行って帰ってきて、玉手箱を開けたらボンとおじいちゃんになっちゃったって。あれってあながち嘘じゃないなと思うのが、海の中は流れる時間がすごくゆっくりしているというか。
1分半って陸上ではインスタントラーメンもできない時間ですけど、海の中はその生き物に出会って、こんにちは初めまして私は誰々ですみたいな心の中でそれがあって、そこから向こうもこっちを知って一緒になんだかんだして、じゃあねっていうのがその1分半の中にあるので、結構長くあるっていう感じです。
海の中の生き物の一員でありたいとの思いからタンクを背負わずに海に潜り、家族や部族を表す「族」を使った水族表現家を名乗っているという二木氏。彼女が海の中から届けたい思いとは。
二木あい氏:
動物、植物、自然、私達はみんな同じようにこの地球に住んでいて、人間だけの地球ではないっていう。私達はみんな同じで、みんなともに生きている、ともに生きるっていうことを伝えたい。
動物だけ、自然だけを見ると別物になってしまう。海の中は特に、私達は住んでいないので。でも、そこに人間が入ることで感情移入がしやすいのではないか。タンクを背負ってなくて同じように泳いでいる人間が入ることで、すっと入れるんではないかなっていう。皆さんに私を見てもらいたいわけではなくて、私を通して海を感じてもらいたい。
水族表現家として活動を続ける中で、二木氏は2011年、ギネス記録に挑戦。洞窟を長く一息で泳ぐ種目で、フィンをつけて100mという女性初の記録、フィンなしで90mという世界初の記録、二つの世界記録を樹立した。
二木あい氏:
それは世界初っていうものを私は取るためにやった。何者かにならなければこの声は伝えられないと思って。ギネス記録で世界初っていうのは、誰かが最初に取ってしまったら、もうそれで終わりというかその人のものなので、どうしてもその「初」をやらなければいけないと。
――何か持っていないとこの人間社会では発信できないぞという。
二木あい氏:
そうですね、伝える相手は人間なので仕方がない。
――始めた頃に比べて、海の変化はありますか。
二木あい氏:
現地の方とお話をすると、その時に海がすごくきれいでたくさん生き物がいるとしても、5年前、10年前はっていう話をどこに行ってもされますし、今温暖化の影響で海の流れが変わってきてしまったので、それまでいっぱい来ていた生き物はもうそこには来なくて他のところに行ってしまっているとか。悲しい方の変化のことしか聞かないのはすごく残念だなと思いますし、異常に海がぬるい、熱いっていうのを肌で感じるのはちょっと気持ち悪いなっていうのは思います。
やっぱり海で世界は繋がっているなっていうのは、誰も人間が住んでいないようなすごく遠いところであっても、プラスチックのゴミが浮遊していたり、生き物たちが亡くなった後お腹を分けてみたら、いっぱい海ゴミが入っているっていうのが問題であったりとかするので。
海でゴミを見つけたら自分も取っていくようにはするんですけど、太陽と塩で触ると崩れてしまうものとかがあって、そうすると目の前でマイクロプラスチックになっていくので、それはもうどうしようもできない。なんかもう、何なんだっていうのはあります。
――私達にまだできることはありますか。
二木あい氏:
やっぱりまずは自分自身と対話をしてもらうというか、自分自身と向き合っていただくっていうのが最初じゃないかと。自分のことだと後回しにしてしまいがちなんですけど、一番根っこの部分の問題が解決されない限り、何かをしたところで途中で終わってしまうというか、頭で考えていいと思うことはある程度までやるかもしれないんですけど、長続きはしない。
本当に心からそうだってならないと何も変わらないと思うんです。心からって言ったときにはまずは自分と対話をしないと何も始まらないというか、まず自分自身に優しくしてあげられない限り、隣の方とか他の方たちには絶対優しくできない。自分の中で平穏があって調和が取れてくると、それは本当に波紋のように周りに広がっていってっていうのが本当の解決の始まりだと思うんです。
私達が汚してしまったもの、私達が作り出してしまったもの、私達にしか解決できないところにフォーカスを当ててやるっていうことが大事じゃないかな。最初の入口として自分に優しくなりましょうよっていうのを思うんですよね。
「知るより感じる」 モノクロ写真で伝えたいこと
――続いてお話していただくテーマですが、二木さん、何番でしょうか。
二木あい氏:
4番の「質の高い教育をみんなに」というところです。
――この実現に向けた提言をお願いします。
二木あい氏:
「知るより感じる」です。
――写真を拝見しましょう。二木さんが撮られた?
二木あい氏:
自分が写っている方はカラーで、より自然の本当の海の姿っていうのを体感してほしい、感じてもらいたい。自分が撮っている写真はモノクロが多いんですけども、モノクロだったら、なんだろうっていうワンダーが起こるというか。
今何でもそうですけど、全部早くパパッていく。ちょっとでも立ち止まって、海の中にある物語を語り合ってもらいたいというか。私は撮っているときはできるだけ透明の状態になって彼らが伝えたいことを、彼らの代わりにシャッターを押してそれをそのまま陸上に持ってきて見ていただく。皆さんが写真から何か感じたりするときに初めて会話が成立するんじゃないかなっていうところがあるので、自分はできるだけいない状態で。
――これは2枚ですね。
二木あい氏:
実はこれはクラゲとプラスチックの袋なんですけど、どっちがどっちだかわかりますか。右がプラスチックの袋なんですけど、プラスチックだってわかっていても、海の中だと半透明だったり透明で、太陽の光を通してキラキラしてすごくきれいに見えるんです。
その存在をわかっている私でも、ワーって近寄っていってしまうので、そりゃあその存在自身知らない生き物たちはクラゲだと思って食べちゃうよねっていう。こういう問題の話も、どれだけ私達が悪いんだって言ってしまうと、「私そんなゴミ捨ててないし」ってなって、シャッターが閉まっちゃうんですけど、「これは何なんだろう」って、「いや実はね」って言った方が、開いた状態でそれを聞くからより深く入るんじゃないかなっていうのもあります。
知識のことが教育だっていうふうに思われがちだったりすると思うんですけど、それだったら本当に机上の空論で終わってしまう。なので、まずは感じて言葉じゃないところというかより深いところで何かを感じ取って、そこから始まるところがやっぱり一番大事なんじゃないかなって思います。自分(私)の活動が種であって、その後皆さん1人1人がお水をやるなり肥料をやるなり何かのきっかけで何かをしていって、自分の中で何かお花が咲けばいいなって。そこがその人が何か変わるときなのか、何かが始まるときなのかっていう…。
――今の教育の現場では、海に連れて行くとか一工夫しないと難しいかもしれませんね。
二木あい氏:
装備ガチガチで行ってしまったら、レジャーのそれこそ私達の遊ぶ場所、私達のものっていうところになっちゃうと思うので、何かそうすると触れ合いじゃないっていう。でも、元々私達は自然と一緒に生きてきたり、全てに神様がいたり、全てに精神があってっていうのは日本の考え方というか、私達の体の中にDNAとして深く刻まれているところなので、実は私達は絶対上手なはずなんです。でも、この現代の生活で忘れてしまったり、より簡単な方に、より便利な方に行ってしまう。本当に一番大事なところをどこかに置いてきてしまったんじゃないか…。
――小学校で子どもたちと何かするとしたら、どんな授業をやりますか。
二木あい氏:
もし海辺が近いのであれば、まずはしゃべらないで、裸足で海辺の浅いところを歩いてもらう。
――しゃべらないで?
二木あい氏:
触覚。裸足で砂を踏む足裏の感じ、水がやってきたときの水が触れていく感じっていうところ。正解、不正解っていうのは感じるっていうところにはないので、好きなように感じてもらっていいっていうのはありますし、それは日々の生活の中で何かあると思うんです。
毎日、通学路というか通勤路っていうのは何も見ずにその目的地、駅に向かっていくだけですけど、ちょっと見ると、何かお花が咲き始めていたり、太陽の光があってきれいな影ができているとかっていう美しさ、感じるものはそこら中にあって、それはどこかに行かないとないものではない。全部本当はあるっていうところ。
――SDGsのゴールまで何かやらなくちゃいけないっていう義務感があるんだけど、まずは自分の心と素直にやり取りしなさいと。
二木あい氏:
一番自分を大事にしなきゃいけないのは自分自身だと思うので、自分が思う以上にすごいポテンシャルがあって、すごい可能性があるので、それを始まる前から閉じてほしくないって思います。
――改めて二木さんが考えるSDGsとは何でしょう。
二木あい氏:
まずは自分とお話をして、自分にまずは優しくしてあげよう、自分をちゃんとケアしてあげるっていうところから始めてください。
(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2024年11月24日放送より)
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