ロシアのウクライナ侵攻、中国の海洋進出… 激変の国際環境 日本の防衛政策【報道特集】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年12月14日 6時30分
12月8日は、日本が太平洋戦争に突入した「真珠湾攻撃」から83年です。ロシアのウクライナ侵攻や中国の海洋進出で日本の防衛は根本から見直しを迫られています。劇的に変化する安全保障環境、現場からの報告です。
北の戦車部隊「第2戦車連隊」の実態
弾薬68トン、8億円以上をかけて富士山の麓で毎年行われる、陸上自衛隊の総合火力演習。50輌の戦車なども参加する。
今から7年前、防衛交流で来日したある人物が、戦車の射撃訓練の視察を強く希望し、この演習場を訪れた。現場では戦車の重量や弾薬の種類などを熱心に質問したという。
彼の名はワレリー・ゲラシモフ。ロシア軍のトップ、参謀総長だ。
それから約4年半後。彼はウクライナ侵攻を指揮することになる。なだれをうって国境を越えたのは、市街戦に欠かせない多数の戦車だった。ロシアのウクライナ侵攻は日本の防衛にも見直しを迫る事になった。
自衛隊と過疎に悩む自治体
北海道・上富良野町。北海道の中央に位置するこの町に東西冷戦時代、戦車が重点的に配備された。ソ連軍がどこに上陸して来ても迅速に対応する為だ。
過疎が深刻で、人口1万人足らずの3割を自衛隊関係者が占めると言われる。
上富良野町民
「自衛隊抜きで、今の町は考えられない」
「自衛隊がいなくなったら閑古鳥。全部シャッター通りになる。南(南西諸島)ばかりに力を入れると、北(北海道の守り)がだめになる」
陸上自衛隊「第2戦車連隊」。日本が保有する戦車は約360輌。3分の2が北海道に配備されているがその中核になる戦車部隊だ。最高時速は70キロ、50トンの鉄の塊が爆走する。4輌で1個小隊を構成する。“車長”と呼ばれる小隊長が指揮を執る。
1輌に車長、操縦手、砲手の3人が乗り込んでいる。4輌が主砲の照準を同時に合わせ攻撃する訓練が繰り返されていた。主砲の射程と戦車の鉄板の厚さは、防御能力を知られぬ為に秘密だ。
小隊長は一般大学出身で2年前に入隊した。
Q.大学では何を学んでいた?
小隊長(車長)
「英米文学を学んでいた。予防外交だけでなく、軍事力として外交の後ろ盾にもなる折衷案として(自衛隊の)幹部を選びました」
戦車の中の環境は想像以上に過酷だ。
小隊長(車長)
「(戦車は)音と振動がすごいです。長いときは何日も(戦車に)乗っている。冬場は特に堪える」
戦車部隊の女性の“最大の敵”は…
小隊長(車長)
「トイレは『見ないでね』って言ってその辺で済ます」
操縦手(運転手)
「1回戦車から降りて、走って山の中で済ます」
上空からはロシア海軍への監視活動も続いていた。
北海道の自治体の多くが地域の活性化を自衛隊に依存してきた。オホーツク海に近い遠軽町。終戦後GHQの司令部に直接陳情して、自衛隊の前身、警察予備隊を誘致した。
予備隊は陸上自衛隊・第25普通科連隊となりそのまま駐屯した。雪の中での戦闘を専門とする事から別名“スキー部隊”とも呼ばれる。
“連隊通り”が駅から駐屯地に真っ直ぐに伸びる。有事を想定して建設された事が窺える。
洪水で流された橋も連隊に通じるとあってすぐに再建された。インフラは駐屯地を中心に整備されてきた。自衛隊が染みついた町だ。
遠軽町 澤口浩幸副町長
「町の存続として(自衛隊が撤収することは)ありえない。体育館やコミュニティーセンター、ごみ処理場、応援してもらっている」
Q.自衛隊がなくなったら困りますか?
遠軽町 澤口浩幸副町長
「困ります。絶対困ります」
東西冷戦が終了し、部隊の撤収や縮小が取り沙汰される度に、官民一体で反対運動を展開してきた。
遠軽商工会議所 渡辺博行会頭
「1つの駐屯地を減らせということで遠軽町がやり玉に挙がったけれど、町民総意で何とか残った。私たちの会議所が生まれたと同時に遠軽の自衛隊も一緒に育ってきている。あるとかないとかではなく、生まれた時から一緒」
Q.自衛隊がなくなるんじゃないかと言われてどうでしたか?
遠軽町民
「遠軽は年寄りの町で終わりだと思った」
Q.自衛隊がいると若い人が?
遠軽町民
「子供も若いご夫婦もいる」
「(遠軽町は)自衛隊の町でしょうね。財政的にもそう(自衛隊依存)だと思います」
ロシアと国境を接する北海道の自治体にとって、ウクライナ侵攻の警戒感が駐屯地存続運動の追い風になっている。
P3C対潜哨戒機の監視活動に同行
オホーツク海の流氷を観測するP3C対潜哨戒機。平和的な活動の一つだ。81年の導入以来、日本周辺の船舶を監視し、“専守防衛の象徴”と言われて来た。
海上自衛隊八戸基地。台風が接近する中だが中国とロシアの艦船の動きが活発化する北の海の監視に向かう。
報道特集のカメラがP3Cに乗り込んだ。離陸後すぐに巡航速度、時速600キロに移った。1機で四国の面積をカバーし、10時間の飛行もある。9000メートルから海面すれすれまで緩急をつけての飛行が可能だ。
パイロットにも女性の進出が顕著だ。
Q.もともとパイロット志望だったのですか?
副操縦士
「はい、パイロット志望です。女性が増えてきて、施設も変わってきて、徐々に働きやすい環境になってきた」
多くの船舶が行き交う津軽海峡。刺激しないように船の後方から接近する。
Q.どれくらい近づけば分かりますか?
写真撮影担当
「現在視界が悪い中ではあるが、約10キロからはしっかり識別することができる」
Q.不審な船は分かりますか?
写真撮影担当
「しっかり分かります」
Q.どうやって見分けるんですか?
写真撮影担当
「それは答えることができない」
1回のフライトで数百隻を監視することもある。P3Cの最大の任務が、潜水艦の探知だ。
潜水艦が発生させる熱を、機体前方の“アーズ”と呼ばれる赤外線暗視装置が捉え、最後尾の“マッド”で磁気を見つける。海中に投下したソノブイで潜水艦の微かな音も収拾する。熱、磁気、音を探知する能力は世界一と言われる。
元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「P3Cがすごかったのはソ連、中国、北朝鮮海の潜水艦の動きをを完全に封じたこと」
冷戦時代はソ連の原子力潜水艦を追跡し、情報はアメリカに提供されていた。
細心の注意を払う空域がある。ロシアが占拠している北方領土周辺だ。接近し過ぎると不測の事態を招きかねない。
悪天候のために視界が悪いが、知床半島の先が北方四島の一つ、国後島だ。
最近、北海道周辺で中国とロシアが連携した軍事行動をとるようになった。
海上自衛隊第二航空隊 山下貴大司令
「北方(領土)の警戒監視は非常に重要」
Q.(P3Cで)飛ぶと情報が取れますか?
海上自衛隊第二航空隊 山下貴大司令
「細部はお答えできないが、市谷(防衛省)や総理官邸がそれぞれ必要な情報は収集することができる」
5分で離陸 急増するスクランブル
そんな中、長崎県では中国軍機が、北海道ではロシアの偵察機が相次いで領空を侵犯した。
領空侵犯には全国7か所の基地がスクランブル(緊急発進)で対応する。“5分以内の離陸”に向かって部隊が総力を結集する。パイロットがコックピットに乗り込み、格納庫の巨大な扉が開くまでわずか18秒だ。
今回、ロシア軍機に千歳と三沢を発進した戦闘機が、“フレア”を初めて使用して警告した。熱源を追跡してくるミサイルに“おとり”として使われる火炎だ。
航空支援集団 永岩俊道元司令官
「(フレアは)継続的に非常に明るい模擬弾で、上空でも明確に分かる」
領空侵犯に対して、一段階強い警告を行った事になる。
航空支援集団 永岩俊道元司令官
「日本の空の主権を守ることの最前線で役割を成すため、相応の責任と、国際法に則った正確な手順で実施しなければいけない。間違った対応をすると、国家間の対立の火種になる。大きな戦争になる恐れもあるので、極めて慎重に対応する必要がある」
スクランブルは急増し23年度は669回、このうち中国軍機には479回と群を抜いて多い。
中国・人民解放軍の戦闘機と写真に収まる一団。防衛省・自衛隊の元将官達だ。
日中の防衛交流は1977年に始まり、最高実力者・鄧小平氏も出席したこともある。天安門事件後、中国が殆どの外交チャンネルを閉ざした期間でさえ、この交流は継続された。
しかしコロナ禍で中断、中国側は再開を希望しているが、習近平体制が独裁的だと反発する日本側が拒否したままだ。
日本側の窓口は永岩元空将だ。
Q.交流は非常に意味があるのでは?
航空支援集団 永岩俊道元司令官
「お互いの国の主権を守る役割で、人民解放軍のOBも我々も存在価値は一緒。同じ問題認識で議論できたり、体制に関連する意見交換もできた」
Q.今こそ(防衛交流を)やるべきではないか?
航空支援集団 永岩俊道元司令官
「『対話を継続すべき』にはまったく同意です」
しかし、中国に対する警戒感が治まる気配はない。
急速に要塞化する南西諸島
海面すれすれでホバリングするヘリ。
海に飛び込んでいくのは水陸機動団の隊員達だ。骨折を防ぐためにフィン、足ヒレは着水後に装着する。
東シナ海で増加する離島奪還訓練だ。離島とは明らかにあの島、尖閣諸島だ。沖合の輸送艦から島を目指す水陸両用車。海上では20人の隊員が乗り込んで時速13キロで進む。
長崎県佐世保に拠点を置く水陸機動団。陸上では時速70キロで走る水陸両用車。操縦するのは殆どが北海道の戦車隊から異動してきた隊員だ。
Q.戦車と比べてどうですか?
水陸両用車車長
「戦車は役割分担ができるが、(水陸両用車は)やることが多い。慣れるのに時間がかかった」
Q.主にやることは?
水陸両用車車長
「車の指揮と射撃を同時にやる場面がある」
人員不足の中でも水陸機動団だけは今年1000人が増強された。“南西シフト”も加速しているのだ。
宮古海峡を通過する中国艦隊を“目標”として追跡するP3C。東シナ海での追跡は、常態化している。
そんな中、中国が反発する事件が起きた。
中国外務省報道官
「台湾問題は中国の主権と領土保全、中日関係の政治的基礎にかかわる問題で、越えてはならないレッドラインだ」
“護衛艦さざなみ”が敢えて台湾海峡を航行したのだ。自衛隊発足後初めての事だった。
林芳正官房長官
「自衛隊の運用に関する事柄であることから、お答えは差し控えます」
吉田圭秀統合幕僚長
「運用の細部に関する事柄でありますので、お答えは控えさせていただきます」
口裏を合わせたような答えしか返ってこない。実はオペレーションは、総理官邸が主導し事前にアメリカにも伝えていた。
元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「『中国を刺激するな』これが日本政府のスタンス。もともとあそこ(台湾海峡)は国際海峡で、何の文句を言われるものでもない。日本側が遠慮して通らなかっただけ」
Q.防衛省だけで決めたわけではなくて?
元防衛省情報分析官 伊藤俊幸氏
「(総理)官邸でしょう」
一方、中国はICBM・大陸間弾道弾を太平洋に向けて発射、アメリカを牽制した。熾烈な情報戦は、目に見える形で軍事力を誇示する“威嚇”に変化している。
成蹊大学 遠藤誠治教授
「ウクライナに対するロシアの軍侵攻以降、言葉で不満を表明するのでは足りないという感覚が広がっていて、軍隊がかかわる行動で明示的にメッセージを伝えることが多くなった。それが不安感を高めると思う」
記者
「自衛隊の基地整備が始まって2年。島の様子は一変しました」
鹿児島県の馬毛島。5年間で43兆円に膨張する防衛予算は、台湾有事も想定し主に南西諸島に注ぎ込まれる。
防衛省が買い上げた周囲16キロの島全体が巨大な軍事基地になる。滑走路や護衛艦の埠頭、“継戦能力”を高める為の、火薬庫や燃料施設の建設が急ピッチで進む。
政府が進める反撃能力の強化は周辺国の思惑も絡んで、“軍拡競争”の様相を呈して来た。安全保障環境が劇的に変化する中、来年日本は終戦80年を迎える事になる。
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