トランプ氏の勝利に影響?「世界一のPodcast」 日本でも兆し「ポッドキャスト・ポピュリズム」とは
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年12月31日 8時0分
トランプ氏の勝利で幕を閉じたアメリカ大統領選。その裏ではトランプ氏がPodcastを通して若年層の支持を広げていたと考察されています。
SNSによる情報発信が溢れている現代で、Podcastにはどのような可能性が秘められているのか。なぜ若年層に受け入れられているのか。音声プロデューサーで、自身も「ポッドキャスター」としても活動する野村高文が語りました。
トランプ氏の大勝を支えた「ポッドキャスト・ポピュリズム」
「ポッドキャスト・ポピュリズム」という言葉に関して、面白い記事が出ています。
11月11日に配信された日経ビジネスの『トランプ氏の大勝を支えた「ポッドキャストポピュリズム」日本でも兆し(佐藤浩実)』というコラム記事です。
この記事では、今回トランプ氏の当選の裏側にPodcast戦略があったと分析しています。
アメリカ・マサチューセッツ州のタフツ大学の調査によると、Z世代と重なる18歳~29歳の有識者のうち、52%がハリス氏を、46%をトランプ氏が支持したというデータがあります。
実は4年前には、民主党バイデン氏と共和党トランプ氏の差は、同じZ世代で25ポイントありました。
つまり、4年前はZ世代のほとんどが民主党支持という状況でした。
現在は6ポイントにその差が縮まっているため、若年層でもトランプ氏の支持率が伸びてきたといわれています。
トランプ氏がこんなに若年層の間で人気を伸ばした背景には、Podcastへの露出があったとこの記事では分析されています。
このような分析は、日経ビジネスの記事だけではなく、いろいろな海外国内メディアからも記事が出ていました。
チャンネル登録者は約3200万人 「世界一のPodcast」の影響力
トランプ氏はこの選挙期間中に、かなりPodcast番組への出演を繰り返しています。
中でも一番目立ったのが、投開票直前の10月に配信された『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』(The Joe Rogan Experience)という番組への出演です。
この『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』というのは、おそらくPodcastとしては世界一の番組です。
チャンネル登録者が、SpotifyとYouTube合わせて約3200万人といわれています。
トランプ氏が出演した10月末のYouTubeの登録者数は1750万人だったのですが、11月中旬には1850万人。
この1カ月足らずで100万人ほど登録者数が増えているんですよね。
『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』のホストはジョー・ローガン氏という方で、アメリカの「名物司会者」というような立ち位置の方です。
スーツを着ているようなニュースコメンテーター風の司会者ではなく、もともとプロレスの解説者で、プロレスの大衆的なカルチャーについて面白おかしく語って人気を博していった方です。
彼の番組にはさまざまな政治家や企業人、コメディアン、芸能人といった方々が多く出演しています。
今回の大統領選でトランプ氏を支えたことで話題になったイーロン・マスク氏も以前にジョー・ローガン・エクスペリエンスに出ています。
このジョー・ローガン氏は、「世界一稼ぐポッドキャスター」ともいわれています。
『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』は、かつてはさまざまな配信プラットフォームで番組を配信していましたが、2020年にSpotifyとの独占契約が結ばれたときの契約金が、報道によると1億ドルを超えているとのことです。
当時のレートで約100億円。
Podcastで100億円稼げる世界があるのだと、私は度肝を抜かれた記憶があります。
その後、独占配信が解消されてさまざまなプラットフォームで聴けるようになっているのですが、2024年2月からは新たにSpotifyと広告に関する契約を結びました。
Spotify上でこのジョー・ローガン・エクスペリエンスを聞くと広告が差し込まれ、その広告再生数に応じて、ジョー・ローガン氏側に広告収入が入ってくる形態の契約です。
それが報道によりますと最大2億5000万ドルの契約ということです。
トランプ氏は「世界一のPodcast」で何を語った?
この『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』は長尺の番組で、10月にトランプ氏が出演したときも3時間の長さがあります。
しかし、これだけ長いPodcastでも、この回はYouTubeやSpotifyなどをあわせて、約1億回再生されたと推定されています。
私も聞いてみたのですが、たとえば対立候補であるハリス副大統領(当時)を「IQの低い人間」と言うなど、かなりこき下ろす発言が目立ちました。
また、民主党側の政治家を「世界で最悪の知事の1人」のように話す一方、マスク氏は「世界で最も偉大な男だ」のように持ち上げることもありました。
また、『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』は以前、「反ワクチン」的な情報を取り上げて物議を醸したことがあり、トランプ氏が出た回でもそのような言及がされました。
今回トランプ新政権で入閣するとみられているジョン・F・ケネディ・Jr氏も“反ワクチン活動家”として知られる方ですが、この人を政権に参加させるということを、この大統領就任前に既にこの番組中で言及していました。
“リベラル系”の番組にも出演 トランプ氏のPodcast戦略
こうした番組に出演する一方、トランプ氏の戦略で注目すべきは、比較的リベラルとされる番組にも出演していたということです。
たとえば9月には、『レックス・フリードマン・ポッドキャスト』(Lex Fridman Podcast)という番組にも出演をしています。
この番組もYouTube、Spotifyともに数百万人のチャンネル登録者がいる非常に人気の番組です。
司会のレックス・フリードマン氏はもともとAI学者で、番組は比較的リベラルでインテリな層が支持しているとされています。
この番組にもトランプ氏は出演をして議論をしています。
ジョー・ローガン氏のときほど口悪いトークではなかったように感じますが、ここでも持論を伝えていました。
あとは、コメディアンの方がホストを務める番組、スポーツ選手がホストを務める番組、カジュアルカルチャー寄りのZ世代に人気な番組など、大統領戦を通して順番に出ていく戦略をとっていました。
「若年層にリーチするならPodcast」の構図
話を戻すと、アメリカにおいて若年層とPodcastは非常に相性がいいのです。
そもそもアメリカ全体でPodcast人口(月に1回以上Podcastを聞く人)が推定で1億3000万人とされています。これは2020年と比べて3割増えています。
つまりPodcastのマーケットというのがアメリカでは広がり続けています。
特にZ世代の28%がほぼ毎日Podcastを視聴しており、毎月視聴している人は47%いる、というデータもあります。
つまりZ世代にリーチしたかったら、Podcastを使うというのがアメリカでは当たり前になりつつあるということです。
一方で、その背景には伝統的なマスメディアに対する不信感があります。
アメリカ人の70%がマスメディアをほとんどあるいは全く信用していないというデータもあります。
今回の「トランプ現象」を支えたのが既存メディアへの不信感であるとともに、YouTubeだけじゃなくてPodcastが非常に作用をしているというのが今回のニュースからも見てとれます。
Podcastとは「長い時間を届けられる」最後のメディア
日本にも浸透しつつある、Podcastとはいったい何なのか?
インターネット上で聞ける音声メディアと言えばその通りなのですが、私がPodcast制作者としての実感として、それが現代社会の中でどんな意味を持ってるかというと、一番大きい特徴は、長い話をリスナーさんが聞いてくれる点だと思っています。
まずTikTokやYouTubeショート、Instagramのストーリー、リールに代表されるように、近年とにかくコンテンツが短く早くなっています。
スマートフォンの中に、とにかく早いもの、早くて短いものが無数に溢れている。
発信する側からすると、長い時間、相手の時間をもらうということが至難の技になっています。
こうした現代社会においてPodcastだけが唯一、長い情報が伝えられるものだと思うんです。
なぜかというと、たとえば移動中などスマートフォンを操作しなくても聞けるからです。
ひょっとしたらアテンションエコノミー最盛時代において、最後の長い時間を届けられるメディアなのではないかと私は思っています。
そして、長い時間人の話を聞いていると、やっぱりその方に対する理解というのは当然深まるわけなんですよね。
音声メディアは、声で相手の人柄であるとか、本当にこの話を嘘偽りなく言ってるかなどが、良くも悪くも伝わりやすいとも感じています。
アメリカでPodcastは既にリスナーが1億数千万人いる巨大市場に育っています。
その特徴は日米でそんなに変わりありません。
日本でもこのメリットを遅かれ早かれさまざまな人が気づいていく時代が来るのではないかなと思っています。
===
<野村高文>
音声プロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
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