石川祐希「スタメンは簡単に奪えるものじゃない」新天地・ペルージャでの現在地が「モチベーションになっている」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月9日 15時21分
男子バレーボール日本代表の石川祐希(29、ペルージャ)が世界最高峰のイタリア・セリエAで10シーズン目を迎えた。今季から所属するペルージャは開幕から無傷の15連勝(1月10日時点)で、昨季はクラブ史上初の4冠(イタリアリーグ、コッパイタリア、スーパーコッパ、世界クラブ選手権)を達成した絶対王者。日本の絶対的なエースである石川も、各国の代表選手が集う強豪チームのなかでは、ベンチで試合開始を迎えることも少なくない。「スタメンはなかなか簡単に奪えるものじゃないなって思ってますけど、でもそれがモチベーションになってる」と話す石川に、ペルージャでの充実の日々を聞いた。
石井大裕アナウンサー:10シーズン目に世界一と言われるペルージャにこられたことは、どのように今感じてらっしゃいますか。
石川祐希選手:本当にタイミングが良かったというか、この10シーズン目にして、イタリアで優勝に一番近いと言われてるチームでプレーができることを非常に嬉しく思ってますし、チャンスだなと思ってます。
石井アナ:今のその言葉通り、開幕からずっと勝ち続けてるわけですよね。なんでこんなに強いんですか。
石川:トータルしたら素晴らしい監督と素晴らしいチームメイトと選手たちとスタッフっていうところが揃ってるし、揃ってるだけじゃなく、練習から非常に高いレベルでできている。その練習が試合で発揮できているっていうところが僕たちの今の強さなのかなっていうふうには感じてまず。
石井アナ:もう負ける気がしないというか、「どうせ勝つんだろう」って、なんかそんな感じで見てられるっていう雰囲気があるんですけど、戦っていてどうですか。
石川:負けそうなときはもちろんありますし、負ける気がしないとは思わないですけど。でも自分たちのプレーをちゃんとしっかりできていれば、負ける確率はやっぱり低いなって感じますね。
石井アナ:今までもミラノとか強いチームにいたわけじゃないですか。でもこのペルージャはちょっと雰囲気が違うなっていう感じはしますか。
石川:雰囲気はやっぱり違いますね。練習の質の高さとか監督が選手に求める質の高さとか。練習の内容とか、練習の雰囲気もそうですし、僕が今まで所属したチームとは違う感じはありますね。
アンジェロ監督は「僕たちのお父さん」
石井アナ:アンジェロ監督は、石川選手のイタリアでの1年目のとき(モデナ)の監督なんですよね。彼もいろんな(チームで)監督をやられて、結果を残してこのペルージャで今指揮を執っていて、10年ぶりにチームで一緒に戦ってるってことなんですよね。アンジェロ監督ってどういう人なんですか。
石川:一言で言うとやっぱり素晴らしい監督ですし、選手との距離は近い。もちろん練習中は“監督”っていう感じですけど、練習以外では僕たちのお父さんというか。僕たちを子どものように接してくれる感じは僕が1年目にモデナにいたときから、変わらないところかなと思いますね。しっかり技術指導もしますけど、メンタルとか気持ちの持ち方とか、そういったことも指導されるので、それも強さ。
石井アナ:それはどういうタイミングで?
石川:練習の30分前に監督のスピーチの時間があって、監督が1人で喋ります。パワーポイントを使うときもあるし、ないときももちろんありますけど。
石井アナ:パワポで見せながらどんな話するんですか?
石川:今僕たちはこういう場所にいて、ここから勝ちにいくためには何が必要かとか(の話)もするし。負けるときは必ず来るし、そうなったときに気持ちが乗ってなかったからとか、気持ちのことを負けた後に話すんじゃなくて、負けた場合にバレーボールのテクニックを話せるようにしたいから、みたいな話もする。バレーボールの技術的な話を負けた試合の後にしたいっていうことは、もう気持ちの面ではしっかりとちゃんと常に準備できて、試合にも望めてるってことが前提の話なので、そういった気持ちの持ち方の話もします。
石井アナ:いろいろとめちゃくちゃ勉強されてるってことなんですよね。
石川:彼もいろんなスポーツを見たりとか読書もするし、スポーツ選手の言った言葉を拾ってきて説明したりとか、読書したときの1文を拾ってきて、パワーポイントに載せて、それについて話したり。あと歌手の曲のワンフレーズをパワーポイントに載せて話したりとか、いろいろしますね。
石井アナ:それを練習前にやるとどうですか。石川選手の中で、監督からの指導もかなりレベルが高いものがある。充実感だったり、ご自身が成長してる感覚っていうのは。
石川:充実感はめちゃくちゃありますね。自分がうまくなってるというか成長してるなっていうことも練習から感じられてるのが今の状況ですし。試合に出たときスタメンから出ることもあるし、試合の途中から出ることもあるし、そういったときにしっかりと自分のプレーを出すことができている。シーズンの初めよりも、今の方が自分のパフォーマンスも高くなってきてるっていう実感はあるので、より成長してるんじゃないかなって僕自身感じてます。
「スタメンはなかなか簡単に奪えるものじゃない」
石井アナ:今ご自身の成長っていう言葉がありましたけど、ペルージャはものすごくデータとか、数字にこだわるという話を聞きました。この部分は、どういう数字なんですか。
石川:僕たちのポジション(アウトサイドヒッター)に最初言われたことは、返球したときにサイドアウトが取れている確率、サーブのブレイク率、ボールに触ってる回数、ディフェンスなのか二段トスなのか、触ってる回数を重視するよ、っていうふうには言われていて。前半戦が終わったときとか、チームのサイドアウト率とかブレイク率とか、個人の選手がレセプションしたときのサイドアウト率が出てる数字をバーって見せられて。1位が確かポーランドのカミル・セメニウク(28)選手で70%で、5位くらいにウクライナのプロトニツキ(27)選手で65%、7位に僕で64%というふうにバーって出てたので。10位以内に3人いたので、それは僕たちの強さだみたいなことを言われたりとか。高い数字にあるっていうところとサイドアウトが取れてる確率が高いっていうところは、そのデータで証明されているので、そこはやっぱり保たないといけないみたいなことは言われましたね。サーブのブレイク率は1位かわかんないですけど、上位にセメニウク選手とプロトニツキ選手がいて僕はちょっと下だったので、そのサーブのブレイク率っていうところを今はあげないといけないのかなって思ってますね。
石井アナ:そこの具体的な数字を言われたことによって、石川選手の行動とかは変わったんですか?
石川:やっぱり返球率が高くないとまず、サイドアウトが取りづらいし。なので返球率というところは気にしますし、サーブのブレイク率に関しては、いいサーブを打てないとパスを返されたら相手のサイドアウト率が高くなってしまうので、常にいいサーブを打ち続けることとか、相手を崩すことっていうのは考えてはいますね。
石井アナ:そういう意味でも、この強いチームにいる意味っていうのがあるわけなんですね。
石川:日頃の練習から高いレベルで練習できているっていうことは何よりかなって思いますし、試合に出る回数は間違いなく昨シーズンよりも少なくはなってますけど、ゼロではないし。スタメンで出ることも全然あるし、試合に出る機会がちゃんとあるのでその中でしっかり自分のパフォーマンスを発揮していくといった部分で、このチームを選んで良かったなと思ってます。やっぱりレベルの高いチームで練習できてる意味は非常に感じてますね。
石井アナ:チーム内で、今同じポジションでセメニウク選手とプロトニツキ選手の2人が非常に良いプレイヤーで。特にウクライナのプロトニツキ選手は左で、すごいスパイクだし。ライバルであり、チームメイトであり、彼らをやっぱりデータの意味でも超えて、スタメンで全試合に最初から最後まで出る。やっぱそこのモチベーションも?
石川:もちろんありますね。スタメンはなかなか簡単に奪えるものじゃないなって思ってますけど、でもそれがモチベーションになってる。彼らも悪いときは全然あるし、そうなったときに僕が出て彼らよりもいいプレーをして勝利をつかめば、ちゃんと評価は上がってくる。今は出たときにしっかりとパフォーマンスをこなしているので、「困ったときに祐希が何とかしてくれる」っていうか、そういった役割になりつつあるのかなと思ったりはしているので。それはそれで面白いというか、結局競ったときに、最後コートに立ってるのが僕であったらいいなって思っているので、今はそこをモチベーションに。もちろんスタメンからプレーしたいっていう気持ちもありますし、でもそれをわかりながら、このチームに移籍してきたので、最初はこんな感じというか。
石井アナ:(試合を見てても)普通にやってたら勝つだろうなっていうその感覚がなぜペルージャにはあるのかっていうのが、僕は知りたいとこでもあるんですけど。
石川:やっぱり普段の練習からいい練習をできているところと、それをしっかり試合で発揮すれば、よっぽど負けないだろうなっていう感じは、僕自身練習したりとか試合に臨んでいて思います。今僕たちもデータを大事にしてるって言ったじゃないですか。データでサイドアウト率とか、ブレイク率はもうダントツ高いんですよ僕たち。レセプション、サイドアウト率は高い方ではありますけど、コンスタントじゃなかったりとか、あと一発で取れてるサイドアウトの確率があんまり高くなかったところとか。ディフェンスが数字として良くはなってるけど、まだ改善点があるとか。そういった改善点を、監督が数字も含めて自分たちに出してくれるので、それを改善していこうっていう話をしていて。それを改善していけば、ペルージャになかなか勝つのは難しい(と言われる)チームになるよっていうのは、監督から話をされているので。他のチームが僕たちに対して、より勝つのが難しくなるという(話を)数字も見せながら、スピーチの時にしてくれる。改善点を改善するための練習もしているので、より(ペルージャに)勝つのが難しいんじゃないかなと思いますね。
石井アナ:だから明確なんですね。「あんたたちこれやったらもう絶対負けないから」っていうのは今までのバレー経験の中ではありましたか。
石川:あんまりないですかね。「シーズンの初めはこうだった、でも後半はこうなっていった」と、数字とか見てても、悪くなってるところがなく、改善されてるんですよ。ちゃんとやってることは間違ってない、ちゃんと改善できてるんだなってことを、嘘じゃないというか、口で「お前らいい練習できてるよ、改善されてるよ」って気持ちを乗せるためだったら簡単ですけど、ちゃんと数字を出してみんなの前で話すので。
石井アナ:なんか今いろんなお話伺っても、充実してる感じがとっても伝わってきますけどもう、やっぱり心の底からこのペルージャに来てよかったと思ってます?
石川:思ってますもちろん。新しい経験というか、そういったものを監督からも、チームメイトからもそうだし自分の試合とか。やっぱりたくさんのことを今吸収できてますね。
「ペルージャは唯一来ないだろうなと思ってたチームだった」
石井アナ:イタリアに最初に来たとき、石川選手は世界で自分は戦うんだって思っていたと思うんですけど、こういう10年後っていうのは想像されてました?
石川:ペルージャに来ることは想像してなかったです。僕はペルージャは唯一来ないだろうなと思ってたチームだったので、正直なところを言うと。
石井アナ:なんでですか?
石川:ペルージャって身長が高くて、パワーのある選手がいるイメージだったし、僕が最初イタリアに来たときはモデナとか、トレントとかが割と1位になってるイメージが強かったので。ペルージャはキャラクター的になんか僕がいるイメージが全くわかないっていう感じだった。でも、ここ数年ペルージャが常に勝ち続けるようになって、僕と同じようなタイプの選手がいたりというところも含めて、またオファーをいただいたので、これは行くしかないと思って決めました。だけど、まさかペルージャとは。正直なところをいうと、行きたくないとかじゃなくて、くると思ってなかった。
石井アナ:キャラが違うのかな、みたいな?
石川:ユニフォームとかも結構スポンサーがバーって入ってて、やっぱりペルージャのユニフォームは僕似合わないだろうなと思ったりとかして。最初着たときも、なんか違和感ありましたけど、やっとようやく落ち着いてきたというか自分の中で。
石井アナ:すごいスポンサーの数。
石川:トータルすると300くらいあるらしいですけどね。ちっちゃいスポンサーも合わせて、町のというか、地域からいろいろ支援をいただきながらというチームだと思いますね。
石井アナ:人口は16万人しかいないのに300社ぐらいついてたらほとんどの会社なんじゃないかと思うぐらいですけど。私も町でイタリアの方に聞いたら、「今ペルージャって言ったら石川祐希だ」ってみんな答えてくれるんですけど、そういう愛されてる感じっていうのはいかがですか。
石川:それももちろん感じますし、試合の日もやっぱりたくさんの方が来てくれたりするし、応援してくれてることは本当に伝わるのでありがたいですね。
石井アナ:今まさにシーズン中で戦っていらっしゃいますけど、ご自身の中での課題だったり、一番向き合ってるものってなんですか。
石川:課題、プレー面でいうと、レセプションは一つ重要なところかなと思っていて。今、セメニウク選手とプロトニツキ選手が非常にレセプションがいいので、彼らと並ぶためにはやっぱりレセプションが大事だなって思う。レセプションの安定性を今は課題として向き合っていますね。いいときはもちろんいいですけど、たまに悪いときもあったりするので、その悪いときをなるべく少なくしたいなって思ってますね。
石井アナ:コンスタントにいつもいいっていうのはなかなかやっぱり難しい。そのためには底上げというか、レベルを上げなきゃいけない。この作業ってシーズン中は試合もあるし、どうやってやるんですか。
石川:午前中の自主練にレセプションができる状況にあるので、そこでひたすらボールを受けて。ただ、受けるじゃなくって、こういった意識をしたら返りやすく確率が上がるとか。自分の中でそういったものを掴んだりっていう時間があるので、今はそこで午前中のウェイトトレーニングとか、後のボール練習でレセプションをほぼ時間があるときはやってますね。
石井アナ:昨日ファンの皆さんに「何が石川祐希選手の凄さであり、魅力なんだ」っていうことを聞いたら、やっぱり「ハートだ」って。最後まで諦めないとか、一生懸命やり抜く部分、そういうふうにファンの人たちが見てくれてるんですけど、どうですか。
石川:そこは大事にしてるところではあるので、見ていただけてるのは嬉しいなって思います。けど、そこはあくまで最後のピースであるので、それ以前にやっぱり技術だったり、数字とか安定性にこだわっていきたいなって思ってます。最後まで全力でやるとかはもう僕の中でやるので、それ以外のところで勝負できるようになりたいなって思いますね。
石井アナ:もう10年イタリアでプレーをされてますけど、この10年間っていうのは、ご自身の中でどんな10年でした?
石川:難しいですね・・・日本人の価値を高められた10年間だったかなっていうふうには思いますね。最初僕が来たときは、どこの国の選手が来たかもみんな知らなかったと思いますけど、長期間イタリアでプレーすることによって、日本人の価値を高められたんじゃないかなって思います。その前にも加藤陽一さんだったり、越川優さんだったり、眞鍋政義さんだったり、その人たちが日本人の価値を高めたと思ってるんですけど。僕が来たときは、まだ日本人というか日本のチームもそうだし、世界から見たらやっぱり弱い、下に見られる存在であったのは確かです。だけど、この10シーズンをイタリアで戦うことによって、僕自身の価値も高められたと思うし、他の日本人の選手の価値も高められたと思います。また僕がきっかけでいろんな日本の選手がイタリアに来るきっかけも与えられた。その選手たちが活躍したおかげで、より日本人の価値も高まったと思います。そういったことも含めてトータルした日本人の価値をこの10シーズンで高められたのかなと思いますね。
石井アナ:本当におっしゃる通りですね。テニスで言えば、男子テニスは錦織圭選手から日本人の価値を高めて、どんどん次に若い世代が出てきたり、野球で言えば、野茂英雄さんとか、今も大谷翔平選手だったりとか。これがバレーボールでも出てきてる、大塚達宣(24)選手も今やってますし。今29歳になられた石川選手から見ると、日本の若い選手たちが来ることに関してはどのように感じていらっしゃいますか。
石川:僕は非常にプラスだと思いますし、若い選手が来ることは、成長できることしかないと思うので。そういった若い選手が海外で1シーズンでも2シーズンでもプレーすることは、僕はメリットしかないなって思います。
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