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「我々に価値があるってことがわかったでしょう」トランプ氏“領有発言”とグリーンランド人の“本音” アメリカと中国、そしてデンマークの駆け引きの狭間に置かれる住民の声を聞いた

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月10日 6時30分

TBS NEWS DIG

アメリカのドナルド・トランプ次期大統領はデンマークの自治領グリーンランドについて、アメリカが領有すべきだと(再び)発言しました。デンマークの首相は今回も「グリーンランドは売り物ではない」「グリーンランドはグリーンランド人のものだ」と反発。ではその「グリーンランド人」はどう考えているのでしょうか。

トランプ氏の発言同日、息子はグリーンランドに

1月7日、トランプ大統領は会見で「グリーンランドはアメリカの国家安全保障上必要だ」「デンマークはグリーンランドの領有権を放棄すべきだ。自由世界を守るためだ」と述べた。そしてグリーンランドを手に入れる手段として、「デンマークからの輸入品に高い関税をかける」「軍事行動を排除しない」などと脅して見せた。

大統領だった2019年にも「グリーンランドを買ってもいい」と発言していたトランプ氏は昨年末、「国家安全と世界の自由のためにアメリカはグリーンランドを領有・支配することが絶対的に必要だと感じる」とSNSに投稿、それを受けて記者たちがこの日の会見で真意を問う質問をしたのだった。

タイミングを合わせるかのように同日、トランプ氏の息子、トランプ・ジュニア氏がグリーンランドに降り立った。自家用ジェットである「トランプ・フォース・ワン」で、滑走路の延長工事を昨年終えたばかりのヌーク(自治領の行政の中心)の空港に到着したジュニア氏は、「プライベートで来ただけ」としつつ、アメリカ国旗を持って、MAGAキャップを被った地元の人と撮った写真を投稿するなど、象徴的なインパクトを残した。

トランプ氏の発言について、グリーンランドを自治領として有し、NATO加盟国でもあるデンマークのフレデリクセン首相は、「アメリカは同盟国であり、北大西洋においてはロシアなどではなくアメリカが大きな役割を果たすことが我々の利益にかなう」としつつも、「グリーンランドはグリーンランド人のものであり、売り物ではない」と諫めた。

グリーンランドがアメリカの国家安全保障上なぜ重要なのかは、地球儀を見れば一目瞭然だ。ロシアから北米にミサイルが飛んでくる場合、グリーンランドはその最短コース上に位置する。それゆえアメリカ軍は北部チューレに空軍基地を維持して弾道ミサイルを探知できるようにしている。ただ、この「世界最大の島」が重要な理由はそれだけではない。そこには気候変動も関わっている。

中国も北極圏の資源開発や北極海航路拡大への関心は強い

2022年夏、グリーンランドに取材に入った。
西部にある観光の拠点、イルリサットの岸辺に立つと、目の前にディスコ島が見える。この島には世界有数のニッケルの鉱床があるとされ、開発計画が進んでいる。ニッケルは電気自動車のバッテリーなどに必須の希少金属で、計画はアマゾンのジェフ・ベゾス氏や、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が絡むファンドも支援する。

現地で開発に当たるイギリス本拠の「ブルージェイ・マイニング」社のスティーンスガードCEOは「ロシア、中国といった、欧米とは違う価値観を持つ資源大国への依存から脱却する、という意味でも、グリーンランドの資源への注目度は上がっている」と述べた。つまり経済安全保障の文脈だ。

ニッケルだけではない。グリーンランドにはコバルト、銅、プラチナ、チタン、金といった資源が眠っているが、まだまだ採掘・開発されていない。厳しい気候や地形が開発を妨げてきたからだ。しかし温暖化で気温が上がってくれば状況は変わりうる。グリーンランドの氷床が溶ける、というのは温暖化を象徴する現象としてよく参照されるが、「開発について言えば温暖化はグリーンランドにとってプラスに働くんです」とCEOは苦笑した。

7日の会見でトランプ氏は「ロシアや中国の船が(グリーンランド周辺に)うようよいる「双眼鏡を使うまでもない」と警戒感を示したが、実際、中国は近年グリーンランドへのアプローチを強めてきた。北極圏での資源開発や、温暖化によって拡大が期待される北極海航路への関心は強く、グリーンランドでも空港の拡張工事に参画しようとしたり、ウラン鉱山開発に参入しようとしたりしてきた。(前者はデンマークとアメリカの横やりで頓挫、後者は自治政府内で政権交代があり、環境汚染を気にした新政権がストップをかけた。)こうした動きがトランプ氏の発言に繋がっているのも間違いないだろう。

トランプ氏の「領有すべし」発言についてデンマークの首相は「グリーンランドはグリーンランド人のもの」と言ったが、現在、グリーンランド自治政府には外交に関する決定権はない。デンマークが決めている。アメリカ、中国、デンマーク、といった各国のかけひきの狭間で、当のグリーンランドの人たちはどう思っているのだろうか。

デンマーク語が話せなければ高等教育も受けられない…“見下され続けている意識”

ヌークの海辺で話を聞いたペール・ブロベルグさんは、自治政府の外相やビジネス貿易経済産業相を歴任した地元の政治家だ。彼にとってはトランプ氏の(2019年の)発言よりも、当時のデンマーク政府の慌て気味の反発が愉快だった。それまでデンマーク政府のグリーンランドに対しての態度は“君たちを相手にする国なんて我々デンマーク以外ないよ”というものだったからだと言う。

「デンマークにとってみれば、グリーンランドはお荷物であり頭痛の種なんだから、グリーンランドはデンマークに感謝すべきだ、という具合でしたからね」
「そこへトランプが“大金を払うよ”と言ったわけですから。我々に多少なりとも価値があるってことがわかったでしょう」

着ている長袖シャツには黒地に白い文字で「DECOLONIZE」つまり「脱植民地化」と書かれている。グリーンランドは人口6万人にも満たないが、実は独立志向が強い。今回、トランプ氏は「住民投票をやれば独立や、アメリカへの編入を選ぶんじゃないか」と述べたが、確かに世論調査をすれば必ず独立支持が半数以上を占める。自治政府のエエデ現首相も独立推進派だ。

そもそもデンマーク人が来る前からグリーンランドに住んでいたイヌイットの人たちは、容姿だけでなく、文化も風習もデンマークのデーン人とは異なる。そして彼らの中には「デンマーク人から見下され続けている」という意識がある。

トランプ・ジュニア氏が投稿した記念写真の一つはヌークの街を一望できる丘に立つハンス・エゲデの銅像の前で撮影したものだ。18世紀にグリーンランドに来てキリスト教化を推進した宣教師だが、私が2年半前に訪れた時には像の鼻のあたりが赤くなっていて、まるで鼻血が出ているように見えた。ブラック・ライヴズ・マター運動に触発された独立派アクティビストたちが赤いペンキを投げつけたのだそうだ。エゲデはキリスト教化を進める中でイヌイットの伝統文化を「異質なもの」として排除、顔や手に入れる刺青や、うちわ太鼓を叩いて歌い踊る習慣なども禁止した。いわばデンマークによる抑圧の象徴だったため、標的にされたのだ。

1950年代にはデンマーク政府が、グリーンランドから22人の子どもをデンマークに移住させて「同化教育」を受けさせ、グリーンランドに戻してロールモデルにする、という、今から考えれば荒唐無稽な社会実験を行った(2020年、デンマーク政府はこの件について初めて公式に謝罪した)。イヌイットはグリーンランドの人口のおよそ9割を占めるにもかかわらず、母語のグリーンランド語に加えて、全く別種の言葉であるデンマーク語が話せなければ高等教育は受けられない、という状況は今も続いている。

「植民地マインド」から抜け出そうと動くイヌイットの女性

「この社会システムは、劣等感を植え付けるんです」

そう話すのは、50年代の「実験」に参加させられた児童の一人を母親に持つパニングワクさんだ。グリーンランドの非常に高い自殺率も、蔓延するアルコール依存も、デンマークの支配によって再生産される「自尊心の低さ」が影響していると言う。

「すべてが植民地支配のせいだとは言いませんが、影響はあります。人口500万人の社会(デンマーク)の制度が、わずか5万人の、全く違う文化を持つ社会にコピペされたんです。うまくいくはずがありません」
「言葉を否定され、文化を否定されれば、死にたくなるのも当然です」

実はパニングワクさんも10代の時、二度、自殺未遂をした。酒も13歳から飲むようになった。家族も止めなかった。テレビや雑誌に登場する女性は美しい白人のデンマーク人ばかり。イヌイットのロールモデルはメディアの中にも、周囲にもいなかった。

「素敵な人生なんて私には訪れないんだ、と絶望したんです」

それでも二度目の自殺未遂の後、心機一転、アルコールを絶ったパニングワクさんは、イヌイットのルーツを意識することで自分を取り戻していく。伝統的な刺青を入れ、独立を訴えるアクティビストになった。独立したら全てが解決するわけではないが、「植民地マインド」から抜け出すスタートになるはずだ、と確信している。

「親世代、とりわけ女性は声高に主張することを避けてきましたが、自分たちの世代で負の連鎖を断ち切るんです」
「これは自分の子供たちのためでもあります。そして、若い人たちのロールモデルにもなりたいんです」

今回のトランプ氏の発言は前回同様“外交術の一環”なのか

実際には、予算の多くをデンマークからの支援に頼るグリーンランドがすぐに独立する、というのは現実的ではない。デンマーク政府に対して辛辣なコメントをしていたブロベルグさんも「たとえ独立したとしてもデンマークが最も近いパートナーであることは変わらないだろうし、グリーンランドはNATOの一員であり続けるだろう」と予見した。

一方、同じ海辺で話を聞いた独立活動家のリリ・ケミニツさんは「選択肢は限定せず、一番良い条件を出すところと一緒にやるべき」との意見だった。デンマーク王立防衛アカデミーのイェップ・ストランベルグ助教も「中国などからの関心をレバレッジにして、アメリカやデンマークからより良い条件の投資を引き出すこともできる」と指摘した。

これまで「低く見られてきた」グリーンランドの人たちは、トランプ氏と温暖化がもたらしたスポットライトをうまく利用していきたいと考えているのだろう。

では、トランプ氏のグリーンランド領有の本気度はいかほどなのか。

2022年の取材時、ストランベルグ助教は2019年のトランプ氏の「グリーンランドを買ってもいい」発言について「アメリカが、デンマーク政府に対して“もっとグリーンランドの防衛に力を入れるべきだ”と求めると同時に、世界、特に中国に対して、グリーンランドに手を出すな、と宣言したのだろう」との見方だった。つまり、外交術の一環だ、と。

今回も似たような分析が聞こえてくるが、トランプ氏が再度言及したことで、「あれは一過性の思い付きではなかったんだ」との印象を与えたことも確かだ。

トランプ2.0に、北極圏もザワついている。

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