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日鉄のUSスチール買収、2つの「成功シナリオ」でトランプ氏が動く条件…橋本会長の「特異的リーダーシップ」とは?

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月17日 7時0分

TBS NEWS DIG

米トランプ政権発足以後、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画はどう展開するのか。日鉄の橋本英二代表取締役会長兼CEOに単独インタビューを行い、この問題を継続的に取材するノンフィクション作家の広野真嗣さんが解説します。

トランプ氏が「ノー」と言わなかったエピソードから読めること

バイデン米政権が買収計画の中止を求める大統領令を発したことを受け、日鉄とUSスチールは1月6日、不当な政治介入だとして米政府を提訴しました。「橋本会長たち経営陣がおそらく1つの選択肢として考えているのは、トランプ氏に希望を託すことでしょう」提訴を発表した記者会見での橋本会長の言葉から、広野さんはそのように推し量ります。

そして、以下のエピソードを引き合いに出します。「昨年の大統領選の集会でトランプ氏はUSスチールの労働者から『買収にノーと言わないでくれ』と申し入れを受け、実際にその場ではノーと言わなかったことが報じられています」

「また、トランプ氏は一貫して『ジョブ、ジョブ、ジョブ(雇用を生む)』と言ってきました。仮に敵対する米鉄鋼大手のクリーブランド・クリフスがUSスチールを買収すれば、米市場には高炉メーカーが1つしかなくなる。価格が上がって消費者に打撃になる可能性もありますし、労働市場が健全に形成されるかも微妙になってくる」。

以上のことから、日鉄は次のような見立てに沿って様々な働きかけを行なっていると広野さんは見ています。

「日鉄の提案がきちんと(今は買収に反対している)トランプ氏に届き、そのメリットを理解する局面が訪れれば、“バイデン前政権の否定”という形で何らかの(日鉄に有利な)発信をする可能性があるのではと思っています」

「逆に言うと、トランプ氏に情報を届けられないことが、もしかしたら日本製鉄の弱点である可能性もあります」

バイデン政権による大統領令は30日以内(2月2日まで)の買収計画の放棄を求めていますが、それは対米外国投資委員会(CFIUS)が期限を延長しない限りという“留保条件”が付いています。その後、日鉄側の申し入れを受けてCFIUSは放棄期限を6月18日まで延長することを認めました。背景には日鉄側の訴訟提起があったとみられます。

逆転のカギは“再審査”と民事訴訟…「答えを外さない」日鉄・橋本会長の手腕

「期限の延長で、ある種の“再審査”に近いプロセスが始まり、トランプ新大統領に対して提案をする動きがあるのであれば、日鉄側にとっての“逆転の道筋”が見える、と考えることもできる」

また、クリーブランド・クリフス社や全米鉄鋼労働組合(USW)を日鉄側が訴えた民事訴訟を通じて新たな情報が明らかになり、それがバイデン氏の不正と心証付けられるのであれば「トランプ氏の心に働きかける可能性もある」と広野さんは指摘します。

官僚的な体質と評されることもある日鉄。その日鉄をUSスチール買収によって粗鋼生産量世界第3位の鉄鋼メーカーの規模に押し上げるという野心的な構想は、橋本会長の経営手腕によるところが大きいと広野さんは説きます。

「橋本さんが日鉄の社長に就任したのが2019年4月で、翌年の決算で4300億円の大赤字が出るというタイミングでした。苦境から脱するために製鉄所を停止するなど、過剰生産力を抑えて適正なコストに落としました」

「その上、トヨタに対して『ギリギリまでを身を切ったので、認めさせてください』と大幅な値上げを求め、過去最高益を更新します」そうして得た資金で2兆円の買収資金を出す財務体力を作り上げていきました。

「中国のような安く売る勢力に対抗するには、高付加価値の商品を買ってもらう必要を感じていたこと。またアメリカに対して投資をする意欲を持っていたからこそ、今回のチャンスに飛びつく反射神経があったこと。橋本さんの構想力と実行に移すリーダーシップは特異的なものがあると思います」

「私の質問に対して1つも外す答えがないし、はぐらかすこともありません。非常にロジカルで、いくつかの流れをつなげて大きな構想、時間軸で考えていくタイプの経営者という印象でした」

「高付加価値の商品を展開して得た価値を日本に再投資をして、雇用も産む循環を作りたいと橋本さんは言っていました。そういう流れを作ることをできる人はそうたくさんいるわけではない」

一方、橋本会長はある種、“独裁的”だという声も日鉄社内にあるようだと広野さん。「非常に強いリーダーシップだから、当然批判もあっておかしくない。今回の橋本さんが提起したプロセスの中に死角がなかったかは、我々は学ぶべきところがあるはずです」

「強いリーダーに対して、耳の痛いことも言える組織・企業カルチャーを醸成していく上での一里塚として見ることができたら、と思って見ています」

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