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「10社投資して1社が大化けすればいい」と考えない日本、日本にベンチャーが育たない理由【報道1930】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月16日 22時5分

TBS NEWS DIG

株式を上場していない評価額10億ドル以上の企業、いわゆる“ユニコーン企業”が世界には1260社ほどあるが、その多くはアメリカと中国が占める。しかし日本は8社ほどだ。

さらに評価額100億ドルを超える“デカコーン”企業は世界に53社あるが日本はゼロ。イーロン・マスク氏のスペースXなど3社は評価額1000億ドルを超え“ヘクトコーン”と呼ばれるが当然日本には存在しない。

日本はベンチャーが育たないと言われて久しいが、何故なのだろうか…。

「もともとは“クモの糸”の研究を大学時代に始めまして…」

企業が新規株式を公開した時の平均時価総額を見るとアメリカでは2019年以降、常に2000億円を上回っている。2020年には実に5000億円にも達している。もちろんベンチャー以外の企業も含まれているが、新規公開の株価を牽引しているのはやはりベンチャーによるところが大きい。

比べて日本は毎年平均して新規株の時価総額は100億円ほどでずーっと横ばいだ。ここからも日本でユニコーンがほとんど生まれていないことがわかる。一体なぜか…。事情を探るために成功しているベンチャー2社を取材した。

山形県鶴岡市。ここに独自の技術で画期的な新素材を生み出した企業がある。バイオベンチャー企業『スパイバー』。“バイオもの作り革命”をかかげ日本で7社目のユニコーン企業に成長した。扱う製品は植物由来の糖分を微生物に分解させ作り出す人工タンパク質『ブリュード・プロテイン』これを加工し全く新しい繊維を開発した。

一見するとコットンのようだが、より細くより強い。動物性のタンパク質であるウール、カシミアを上回る柔らかさ、肌触りを実現した。さらにナイロンなどの化学繊維と違いタンパク質なので土に還るので環境にも優しい。さらに…

『スパイバー』取締役兼代表執行役 関山和秀氏
「動物を育て(ウールなどの)タンパク質(の繊維)を採ろうとすると少なくとも採りたいタンパク質の数十倍から数百倍の穀物などを与えて1年から1年半くらいの時間、水、土地が必要になりますが…。微生物を使う一番の利点はすごく効率がいい。だいたい40時間とか2日くらいでタンパク質を作ってくれる…」

『ブリュード・プロテイン』は“脱石油素材”としても世界が注目する。この画期的な繊維の発明は思わぬ研究から始まっていた。

『スパイバー』取締役兼代表執行役 関山和秀氏
もともとは“クモの糸”の研究を大学時代に始めまして、その技術がやはりすごく、これは人類にとって本質的に重要な技術になり得ると思って起業した…」

細くて強靭なクモの糸を人工的に作ることができれば様々に利用できると考えた。だがクモの糸は水に濡れると極端に縮む。これでは繊維としては実用性がない。しかし主成分がタンパク質であることに着目し現在の事業にたどり着いた。今やブリュード・プロテイン繊維は『ザ・ノース・フェイス』など約40ブランド150アイテムに採用されている。

この画期的ベンチャーも簡単に支援が受けられたわけではない。2021年に100億円を投資してくれたのは日本の企業や金融ではなくアメリカの投資ファンド『カーライル』だった。その後約1300億円の資金調達を実現している。人工タンパク質は繊維以外にも強くて軽い素材として自動車のボディーなど様々な用途で将来性が期待されている。

『スパイバー』取締役兼代表執行役 関山和秀氏
「新しいものを使っていくことには間違いなくもの凄い大きなリスクがあって、大きな企業であればあるほど社会的責任も大きいので慎重にならざるを得ない…。でも本当に必要なものであればサポートしてもらえる…」

ここにある“ホットマーケット”を追うだけでいいのか

もう一つ番組が訪ねたベンチャーはAIを使ったデジタルプラットフォーム事業を手掛ける『ABEJA(アベジャ)』。

2012年創業で2年前に上場した。創業者の岡田陽介氏は10歳からプログラミングを始めたという。23歳で起業。100%にはならないAIの精度を人が補完することで様々な業務にAIを活用できる仕組みを作り、『ABEJAプラットフォーム』は現在300社以上が導入しているという。新入社員を育てる如くAIに学ばせ続けることで、今では失敗が許されないインフラなどの分野にもABEJAのシステムを使ってAIが活用されているという。

しかし、起業当時はSNSやソーシャルゲームが注目されていて“ひと儲け”ができた時代。AIの基幹である深層学習に興味を示す岡田氏にこんな言葉をよくかけられたという。

『ABEJA』代表取締役CEO兼創業者 岡田陽介氏
なんで君たちは、(ゲームなどの)ホットなマーケットが今ここにあるのによく分からない“ディープラーニング(深層学習)”というものをやろうとしているんだい?って10人会ったら8人9人から言われた。大企業に説明しても理解してもらえず売り込むために基本的にはテレアポに近い…1日に100社電話しますみたいに努力をしていた」

2016年エアコンの『DAIKIN』と業務提携することで軌道に乗った『ABEJA』だったが、飛躍的に成長するきっかけは、やはり日本企業ではなくアメリカ企業だった。2017年には今を時めく半導体メーカー『NVIDIA』。そして2018年には『Google』と日本で初めて業務提携を結ぶことになった。

『ABEJA』代表取締役CEO兼創業者 岡田陽介氏
「NVIDIAに関しても資本提携前から継続的にコミュニケーションを取ってますし、検討を具体的にして欲しいみたいな形でコミュニケーション取り始めたら“なんかうまくいったな”みたいな感覚的なものですね…労働人口が減る中で、将来的には日本のGDPの7割8割をAIなどが作り出せるようにして、人間はもっとクリエイティブな面をやってGDPを掛け算的に上げほうが明かに経済成長するのでそっちのほうがリーズナブルだと思って仕事してます」

こうして成長する『ABEJA』だが、やはり資金や技術で援助してくれたNVIDIAやGoogleの投資が大きかったと岡田氏は語った。

「海外のベンチャーキャピタルは“聞いたことがない技術”には飛びつく」

取材したベンチャー2社の飛躍のきっかけにアメリカ資本があった。かつて日産のCOOだった志賀俊之氏は現在官民ファンド『INCJ』会長としてスタートアップを支援する。大企業側、ベンチャー側双方の立場がわかる志賀氏は言う…。

元日産COO 志賀俊之氏
「ABEJAもスパイバーもディープテック系なんですね。アプリやゲームとは違い科学的な発見や革新的技術の研究開発があって相当な投資が必要。で、アカデミック…。スパイバーも大学での研究から始まってる。そういうのは赤字をずーっと掘っていって成長するまで時間がかかる。本来事業会社が伴走してお金を出し続けてくれるといいんですが、なかなか伴走してくれない。(中略―――大企業ほど伴走できない?)わかってる人もいるんですが、なかなか社内のシステムで…。例えばバイオ繊維なんかは各企業研究している。上の者が“これ面白いんじゃないか”って投げても下で“うちでもできますよ、スパイバーなんかに金出さなくても”って…プライドの高い研究者がいっぱいいます、自前主義…」

基礎技術やアカデミックな研究はなかなか商売にならない。ABEJAのベースとなっているディープラーニングも同様だと話すのはスイスの老舗プライベートバンク『ピクテ ジャパン』の大槻奈那氏だ。

『ピクテ ジャパン』シニアフェロー 大槻奈那氏
「(日本は)リスクマネー(回収不能になる可能性が高い投資)が少ないというのは昔から言われること…。ユニコーン企業の数とGDPの順位ってだいたい比例するんですが、2つだけ突出してユニコーンが少ないのが日本とイタリアなんです。共通点は金融の成り立ちなんです。古典的な商業銀行が多いんですね。今はベンチャーキャピタルなど出てきましたがまだ少ない。なのでショートタームで儲かりそうなところにお金が集まる…」

大企業ほど未知なるものへの投資に慎重になる。もともと日本はリスクマネーを避ける。この2つが日本でベンチャー企業が育たない理由として指摘された。経済アナリストのジョセフ・クラフト氏はこうまとめる。

経済アナリスト ジョセフ・クラフト氏
「例を挙げると日本のベンチャーキャピタルは10億円という小さな投資に稟議だ!これを出せあれを出せ!ってもの凄い時間と労力がかかって…。で、いざ投資するとちょっとでもバリエーション(企業価値評価)上がると、すぐ上場しろとか、すぐ返せとか…育っていかない。日本は“投資の3倍になったんだから返せ”って。アメリカは“100倍、1000倍にならないと何のために投資したのかわからない”っていう。それから海外のベンチャーキャピタルは“聞いたことがない技術”には飛びつく。ホットマーケットにはもうチャンスはないんです」

日本とアメリカなどとの違いは長年かけて出来上がった深層にある考え方の違いなのか…。日本のベンチャーキャピタルは10社に投資したら8社は潰れないで欲しいと考えるが、アメリカは7社がコケて2社はトントンでよくて、しかし1社くらいは大化けして欲しいと考えるという。

(BS-TBS『報道1930』1月13日放送より)

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