海峡の都市イスタンブールをいかに攻略するか…15世紀のオスマン帝国と21世紀のクーデター部隊の違いから見えるもの【世界遺産/イスタンブール歴史地区(トルコ)】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月19日 10時0分
千年の都を守った城壁
トルコの古都イスタンブールは、「ヨーロッパとアジアの境界線」といわれるボスポラス海峡にまたがり、街自体がヨーロッパ側とアジア側のふたつの地域に分かれています。世界遺産の「イスタンブール歴史地区」はヨーロッパ側にあるのですが、海峡に突き出た半島のような所にあり、見るからに攻めるのが難しい地形です。実際、4世紀から約1000年もの間、東ローマ帝国の都として難攻不落を誇りました。これをついに攻略したのが15世紀のオスマン帝国。
番組「世界遺産」でナビゲーターの鈴木亮平さんに現地取材をしてもらったのですが、鈴木さんが最も関心をもったのが「オスマン帝国はいかにしてイスタンブールを攻略したか」でした。当時のイスタンブールは東と南北の三方が海で、残った内陸の西側には高さ12メートルもある城壁と濠を築いて守りを固めていました。海から攻めあぐねたオスマン帝国軍は、陸側の城壁からの突破を図ります。
今回のロケで鈴木さんがまず訪れたのは、世界遺産にもなっている「テオドシウスの城壁」。城壁を攻める側のポジションに実際に立ってみて、「絶望の壁ですね」と呟いた鈴木さん。攻め手が絶望するほど攻略が難しい城壁であることを実感したのです。
この「絶望の壁」に対して、オスマン帝国軍は当時最新兵器だった巨大な大砲で砲撃。さらに10万の兵を投入して攻めること2か月。ついに城壁の一部を突破して街を占領し、西暦1453年にイスタンブールは陥落したのです。
クーデター部隊が占拠した二つの大橋
それから563年後の2016年7月15日、トルコで軍の一部によるクーデター未遂事件が起きます。このときイスタンブールでは新しい世界遺産を決める国際会議=世界遺産委員会が開催されていて、私も取材のために現地にいました。街には爆音がとどろき騒然となったのですが、このときクーデター部隊がまず占拠したのはボスポラス海峡にかかる二つの大橋でした。そのひとつがファーティフ・スルタン・メフメト橋。かつてイスタンブールを攻略したときのオスマン帝国の皇帝、メフメト2世に因んで名付けられたものです。もうひとつのボスポラス橋と共に20世紀になって建造されたもので、これによってイスタンブールのヨーロッパ側とアジア側を船を使わずに行き来できるようなったのです。二つの橋を押さえれば戦車など自分たちの陸上部隊の行き来が自由に出来るし、敵の部隊の進入を阻むことも出来る…ここにクーデター部隊の狙いがあったと思います。
15世紀、ボスポラス海峡によって守られていたイスタンブールに対してのオスマン帝国の攻略ポイントは内陸の城壁でしたが、現代のクーデター部隊の攻略ポイントはそのボスポラス海峡にかけられた橋だったのです。海峡の都市イスタンブールの今昔が、それぞれの攻略に現れています。
クーデター自体は一晩で鎮圧され未遂に終わったのですが、ボスポラス橋では犠牲者も出て、事件後に「7月15日殉教者の橋」と名前が改められました。
富の豊かさと多様さを実感出来る「トプカプ宮殿」
イスタンブールも事件の翌日には平穏を取り戻したのですが、普段は観光客でにぎわっている街はガラガラ。物騒な出来事で旅行をキャンセルしたり、イスタンブール滞在中でもすぐに出国してしまった観光客が多かったようです。
イスタンブールを手に入れた後にメフメト2世が築かせたトプカプ宮殿も閑散としていて、同行したガイドが「こんなトプカプを見たのは初めて」と驚いていました。おかげで宮殿に所蔵されているオスマン帝国の秘宝の数々を、ゆっくりと見て回ることが出来ました。
鈴木亮平さんも今回のイスタンブール撮影で、トプカプ宮殿を取材しています。アジアとヨーロッパの接点という地の利を生かし、貿易で富を蓄えたオスマン帝国。その富の豊かさと多様さを実感出来るのが、この宮殿です。
「うわー、なんてこった!」
と鈴木さんがビックリするくらい豪華なお宝が登場しますので、ご期待ください。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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