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「伝統を守るために革新を取り入れる」 華道家・大谷美香さん【Style2030】

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月19日 11時0分

TBS NEWS DIG

SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は華道家の大谷美香氏。生け花の草月流の1級師範理事だ。作風は大胆で奇抜、常識にとらわれないのが大谷氏のスタイルで、オリジナル性の高さから映画やドラマの生け花制作、監修を数多く手がけ、登場人物の心情を映し出した生け花は高く評価されている。世界各地で生け花の教室やデモンストレーションを開催し、国内外を問わず生け花の普及に努めている大谷氏に、2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

転機は東日本大震災。生け花は地味じゃない

――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題して、お話していただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。大谷さん、まず何番でしょうか。

大谷美香氏:
9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。 

――この実現に向けた提言をお願いします。

大谷美香氏:
「伝統を守るために伝統に革新を取り入れる」。

――常に変わっていかないといけないということですね。その話をお聞きする前に、お花の世界に入られたきっかけからお聞きしてみたいです。

 大谷美香氏:
20歳ぐらいのときなんですけれども、ちょうど海外に留学に行きまして。アメリカのハリウッド映画ですとかそういったものに憧れて、海外に行きたいっていう気持ちが非常に強かったんです。でも、実際に海外に行ってみると、日本のこれってどうなの?日本のこの伝統文化ってどうなの?見に行ったことがあるの?と、すごくたくさん聞かれるんですね。
 
私って日本にいるのに日本のことって全然知らないんだなっていうふうに、逆に海外に行ったからこそ気づき、日本のことをもっと詳しく知りたいと思ったのがきっかけなんです。中学、高校と茶道部で、大学はお琴部っていうのに入って筝曲が弾けるんですけれども、生け花ってやったことないから、日本の華道って何なんだろうっていう疑問から。深くなく、やってみてもいいかなぐらいの気持ちでふらふらふらっと入ったのが始まりです。
 
人生何がどう転ぶかわからないというか、他のものは何一つ続かなかったんですが、生け花に関しては非常に楽しいと思えたんです。もっと知りたい、もっと作りたい、もっと次の扉を開けたいと思っていて、多分相性が良かったっていうのもあると思うんですが、「継続は力なり」ってよく言いますけれども、やめなかったことで今があるのかなというような気はします。

――生け花でご飯が食べられるという自信はあったんですか。

大谷美香氏:
自信はないです。やりたいんだけれども自信がない。それがぐるぐる回っていて、結局踏ん切りがつかず、ずっと広告のお仕事をやっていたんですけれども、そこで東日本大震災が起こるわけなんです。非常にショックを受けましたし、生きていることがちょっと申し訳なくなったというか。たくさんの方がお亡くなりになって、自分の命を今もらっていて、それはたまたまなんだっていうふうに考えるようになって、どこで自分の命が終わってしまうかわからないなって本当に思いまして。この命を今いただいているんだから、もっと頑張って生きるというか、真剣に生きる、自分がやりたいことをきちんとやってみるっていう踏ん切りがついたといいますか。
 
その日(3月11日)が原稿の締め切り日だったんです。夜に電話がかかってきて、原稿の締め切りはいつも通りですって言われたんです。でも、そのときって日本中がひっくり返っている。私は子どもがディズニーランドに行って全然無事だったんですけれども、連絡も取れなくなっていた状態だったので、どうしよう、日本どうなるんだろうって不安なときに、「原稿の締め切りはいつも通りです」って言われたのが、逆に言うと背中を押したというか。歯車になってるんですよ、広告の。これが本当に私がしたかったことなんだろうかって。

――そのときにお花が浮かんだんですか。

 大谷美香氏:
ずっとやりたかったことなので。まずやったのはビラ配りです。生け花教室をやってみようと思ったんです。「生け花教室始めました」っていうビラを、ビラ配りの掟みたいのをわからずにA4で作ってしまって、(大きすぎて)誰ももらってくれなかったんです。ポスティングをやっていると、「うちのマンションは駄目なんですよ」とか怒鳴られたりして。それだけ頑張っても生徒さんは10人も集まらなかったと思います。

初めて教室を開いてから10年以上が経ち、現在では都内にある二つの教室に多くの生徒が通うまでになった。しかし、日本全体で見れば生け花をする人は減少し続け、25年間で約3分の1に減った。

大谷美香氏:
生けて見せるのをデモンストレーションって言います。「後ろ生け」と言うんですが、後ろから生けているんです。草月流は後ろ生けをすごく大切にしていまして、人に見せる生け花なんです。後ろから生けるということ自体が新しいことではあるんです。 

生け花っていろんな誤解がありまして、すごく地味なものっていうふうに若い方に言われてしまうことがあるんです。今の時代に合わせていかないと、生け花からどんどん人が離れてしまっていくと思うんです。今の人の心にフィットする生け花っていうんでしょうか、私もやってみたいと思うような生け花をできるだけお見せしたいと思っているんです。

大谷美香氏:
せっかくテレビに出るんだったら、できるだけたくさんの方にいろんな表現ができるのが今の生け花なんですよっていうのを知っていただきたくて。もしかしたら、生け花に興味を持っていただけるかしらと思って。

生け手の思いを生ける。フラワーアレンジメントとの違いは?

大谷美香氏は映画やドラマの生け花制作、監修を数多く手がけ、創造性豊かな生け花は高く評価されている。2024年9月に中国・北京市郊外で行ったイベントでは、会場全体を使った巨大な生け花を制作。ダンスを取り入れ、踊りながら生けるという新しいパフォーマンスを披露した。

大谷美香氏:
初めは普通のデモンストレーションで次々作ろうと思っていたんです。そうしたら、エンタメ性に欠けると。皆さんチケットを買ってあなたのお花を見に来るのに、普通に生けていたらお花が好きじゃない人はどうするんだと。もっとわくわく感がほしい、エンタメとしては普通に見せるだけでは弱い、そこを何とか考えてくださいよ、みたいなことを言われたんです。
 
もうこうなったら何かやらなくちゃ、そうだ踊ってみよう!みたいな。山の精が降りてきて、私が山の神みたいな形で指令を出して、山がどんどん色づいていく。山に見たこともないような花が生まれますっていうような脚本っていうんでしょうか、テーマがあってやってみたんです。

 ――ストーリーも自分で?

大谷美香氏:
はい、自分で考えて。ここはもっと揺らした方がいいのかなとか。わざと踊りながら花をお客さんの目の前に持ってきたりとか。そうするとお客様もわくわくするし、この花が一体どうなるんだろうっていうようなエンタメ性があるのかなっていうふうに考えまして。やれることはやってみようみたいな形で。生け花っていいなって思ってもらいたいっていう気持ちがあるので。

 ――ちょっと意地悪な質問ですが、それを生け花と言っていいんですか。

大谷美香氏:
はい、生け花です。作っているものは生け花なので。パフォーマンスがあって最後には大きな生け花が完成する。これを生け花と言わずして何と言うか、みたいな。
 
生け花とフラワーアレンジメントの違いって皆さんよく聞かれるんですけれども、非常に違っていて、生け花は全てのもの、例えば木、枝、苔、石、土、花、全ての自然のものを材料と捉えて、同じぐらい大切に扱うんです。枝も主役になるというか、枝だけの作品ももちろんあります。苔だけの作品、土だけの作品もあるんです。
 
フラワーアレンジメントは元々ヨーロッパで生まれたものなので、お花畑に囲まれる中で生まれたんです。なので、お花ありきなんです。基本的に90~95%お花。枝はあくまでも脇役なんです。
 
日本は4分の3が山に囲まれているんですよね。私が海外に行って、山があっていいねってすごく言われるんです。私達はそれを今当たり前だと思ってるんですけれども、山に囲まれているからこそ、枝であるとか、木、石、流木、そういったものも非常に間近に見ながら育っているんですよね。だからこそ、それを使う生け花が誕生したのではないかなと思うんです。それは環境によって生まれたものが違う文化だということなんですよね。どちらが良い悪いではなくて。
 
絶対的に違うのが、日本は間を取る文化があるんです。絵画でもそうなんですけど、空間美を非常に大切にする。空間を作るっていう考え方で、空間があるからこそ1本1本の線がはっきり見えてくるんです。
 
フラワーアレンジメントに空間を作るという考え方はないんです。アメリカで「あなたの作品は1平方メートルいくらぐらいなのか」って言われたときに、「日本の生け花っていうのは間を取る芸術なので、1平方メートルあたり何本お花を使っていくらっていう感覚はないです」っていうふうに説明をしたら、アメリカ人がびっくりしていて。
 
私はずっと生け花しかやっていないので、間を取る考え方が非常に体の中に染み付いているし、きっちりしていないんですよね、生け花の方が。フラワーアレンジメントってきれいにボールになっていたり、三角になっていたりとか、フランスのベルサイユ宮殿の庭なんかも四角になっていることが美しい、左右対称であることが美しいという考え方なんですけれども、日本は左右非対称の方が好きなんです。日本の庭園なんかもそうですよね。そこに美しさを感じるというのは、多分そういった風景に囲まれてきたからではないかな。山がきっちり左右対称ってないじゃないですか。

――「生ける」とはどういうことでしょうか。

大谷美香氏:
生けるとは自分を生けるっていうことなんです。花を生けるというよりも、自分の思い、自分の考えをそこに出す。もちろんそれは草月流を創流された(勅使河原)蒼風先生も、「花を生けるのではない。人を生けるのだ」っておっしゃってるんですね。生け手の思いを生けるっていうところでしょうか。 

それに気づいたのは、ドラマや映画のお話をたくさんいただくようになりまして、登場人物の気持ちであるとか、物語のストーリー上の例えば運命とか責任とか、そういったものを花で表現してくれって言われるようになりまして、それが殺戮だったりするんです。とにかく相手を殺したいと思っている気持ちを花で表現してくださいと。

怒りの感情を中に入れて1回生けてみるんですね。そうすると意外にいいものができて、自分では生けないものができるんです。花ってどんなことでも表現してくれるんだっていうのを身をもって感じて自信を持ったというか、もう何だって表現できる。何でも言ってください。

――お題をもらって生けるという体験で一皮むけたのでしょうか。 

大谷美香氏:
初めは10年前です。床の間のシーンがあるから仕方なくみたいな形で。監修でもなく役者さんが生けるシーンがあるわけでもないのに、「生け花の先生が紛れ込んじゃってるな」っていう薄ら笑いがあったときに、生け花って本当はもっといろんな表現ができるし、他のところだって生けられるのにって。そのときは悔しいというか自分の力のなさというか無力感にちょっと悩んだんです。
 
大抵の方は「生け花知らない」って。美術監督の方も全然わからないんですっておっしゃるんです。「床の間じゃなくてももっといろんな表現ができるんです。ぜひ呼んでくださいね」みたいなことを言うと、何人かは呼んでくださるんです。そういうのはやっぱりうれしいですよね、また新しい世界が広がっていくというか。

「生きた花に触れよう」。SDGs=今考えなければならない未来

――続いてお話していただくテーマですが、大谷さん、何番でしょうか?

大谷美香氏:
はい。4番の「質の高い教育をみんなに」です。 

――この実現に向けた提言をお願いします。

大谷美香氏:
「生きた花に触れよう」。今、時代的にデジタルは欠かせないと思うんですね。デジタルワールドだと私は思っているんです。小学校でも中学校でもデジタルに触れながら授業を受けていく。それはそれで欠かせないだろうし、それをしていかないともちろん駄目だと思っているんですけれども、それと同じぐらいの分量というか、質感で自然に触れ合うような、生きた花に触れ合うような教育をぜひ取り入れていってほしい。
 
私は触っているからわかるんですけれども、生きた花ってすごくエネルギーがあって、お部屋に一輪飾るだけでも、雰囲気をガラッと変えるぐらいのパワーがあると私は思っていますし、科学的にも証明されている。ところが、その自然の素晴らしさみたいなのが、デジタルに完全に負けてしまって。触らないとわからないんですよね、生きた花の良さって。一輪でもいいんです。牛乳瓶にでも生けるという、花を生ける行為って、もう今100人いたら100人がしない行為になってるんですよね。
 
少しでもいいので、そういった教育をしたいなって今思っていて、イベントなんかでは皆さんに生けていただくっていうことをやっています。私も生けます。他の部分、たくさんの部分を来場者の皆さんに生けていただくっていうようなイベントもたくさんやっているんです。

生きた花に触れて、その良さを感じてほしいと考える大谷氏は、会場を訪れた人と一緒に作品を作り上げるイベントを開催している。 

大谷美香氏:
お花を生けるのは初めてっていう方がすごく多いんですよ。お花を手に取って生けるときに絶対笑顔になるんです。子どももおじいちゃんもおばあちゃんも、いかついおじさんでも笑顔になるんです。そういったパワーが花にはあるんだけれども、それが実際にやってみないと伝わらない。

――庭のアジサイが盛りでいい感じだと思っていると、妻が切ってしまって部屋に飾るんです。

大谷美香氏:
それは奥様がお部屋にも花をって思っていらっしゃるんですよね。自然を新たなアートに生まれ変わらせるのが生け花だというふうに私は信じているので、奥様が新しいアートに生まれ変わらせたアジサイなので、庭のアジサイと奥様が生けられたアジサイは違うアートですね。

――最後に、大谷さんが考えるSDGsとは何でしょうか?

大谷美香氏:
SDGsってやはり未来だなと思いました。今考えなければいけない未来。今まだ私達はギリギリこれで何とかなってるからっていうところもあるんですけれども、この先、自分たちの子ども、そのまた子どもっていうふうに世界はどんどん続いていくときに、今ここで踏ん張って私達が頑張ることが、この先にも地球は広がっていくというか、まだ歴史は続いていくっていうことを改めて感じたように思います。

(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2025年1月12日放送より)

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