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ロシアに兵士派遣の北朝鮮 “後ろ盾”中国との間にはすきま風? 外交関係に翻弄される国境ゴーストタウンの実態

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月26日 6時30分

TBS NEWS DIG

去年、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに兵士を派遣し世界を驚かせた北朝鮮。一方、これまで“後ろ盾”とされてきた中国とは外交関係樹立75周年を迎えたにもかかわらず首脳会談など目立った動きは見られなかった。両国の関係に翻弄される国境の街を取材すると、中国と北朝鮮の間に吹くすきま風を感じた。

中国側から撮影 マイナス10度のなか夜も続く突貫工事 金正恩総書記も訪れた北朝鮮の高層住宅群「竣工式」前日の様子は? 

中国・遼寧省にある丹東。鴨緑江の対岸に北朝鮮を望むことができる「国境の街」だ。去年12月中旬、取材班は丹東に入った。まず向かったのは丹東の中心街である。この一帯は去年7月下旬に洪水が発生し、北朝鮮メディアによると、一時およそ5000人の住民が孤立、4000戸以上の家屋が浸水したという。金正恩総書記は被災地を視察し被害を受けた住宅の再建を指示。「再建には少なくとも2、3か月はかかる」としてお年寄りや子どもなど合わせて1万3000人あまりを首都・平壌に避難させた。その後、被災地には復旧作業を志願したとされる若者たち「青年突撃隊」や軍が投入され、住宅の建設が急ピッチで進められた。 

洪水発生からおよそ5か月が経った12月21日には住宅の竣工式が行われた。北朝鮮メディアによると、金正恩総書記も出席し演説を行った。金総書記は「この竣工式は我々の社会主義の偉業がどんな難関も克服し引き続き前進していることを示す重大な契機になる」などと述べ、成果を強調した。一方、「被災者と約束した期日を延長し、工事の完了が寒い年末になってしまったのは本当にすまなかった」などと謝罪する場面もあったという。

取材班は竣工式前日の高層住宅群の様子を中国の丹東側から撮影した。そこにはヘルメットをかぶった大勢の作業員や高層住宅の屋根に登って作業をする人たちの様子がうつっていた。竣工式前日になっても突貫工事が続いていたようだ。建物を磨いているとみられる大勢の作業員もカメラは捉えた。式典の準備をしていたものとみられる。住宅街には「診療所」と書かれた看板が掲げられた建物のほか、「我々の時代を生きて行こう」などといったスローガンが書かれた立派な標識も確認された。作業は夜になっても続いた。この日、丹東の最低気温はマイナス10度ほどで取材班も震えながら撮影を続けた。突貫工事が過酷な環境のなか行われていることは想像に難くなかった。

「北朝鮮側にトラックが100台以上」中朝貿易の約7割担う丹東 2024年の貿易取引は停滞

 丹東には中国と北朝鮮を結ぶ橋がある。1943年に完成したもので「中朝友誼橋」と呼ばれている。道路が1車線と単線の線路が備わっている。取材班が丹東に滞在している間、多くのトラックが橋を渡って北朝鮮側に向かっている様子が確認できた。また、早朝には貨物列車が北朝鮮側に向かっていく様子も確認された。中朝貿易の関係者によると、ここ最近はトラックなどの往来が活発だという。

中朝貿易の関係者
「ここ最近は1日に100台近くのトラックが北朝鮮側に向かうこともある。日用品や食料品のほか北朝鮮側の住宅建設で使う資材も運んでいるようだ」

丹東は中朝貿易の7割を担うとされていて“貿易都市”の側面も持っているのだ。しかし、新型コロナが猛威を振るいはじめた2020年1月に北朝鮮は国境を閉鎖。現在はトラックや貨物列車は行き来できるようになったものの人の往来は厳しく制限されているという。

 丹東の旅行会社の担当者
「北朝鮮に入国するツアーは今は扱っていない。私たちも再開の知らせを待っているところだ。今年3月に再開すると言っている人もいるがよく分からない」 

丹東には北朝鮮との貿易会社や北朝鮮ツアーを売りにした旅行会社が数多くあるが、コロナ禍で潰れた企業も多いという。こうした店が集まるエリアに取材班も行ってみたが、ほとんどの店がシャッターを閉めていて人通りもまばらだった。

中国の税関当局によると、中国と北朝鮮の去年の貿易総額は約21億8039万ドル(日本円で約3400億円)で、2023年より5%減少したという。貿易取引の停滞が明らかになった形だ。

ロシアに急接近の北朝鮮 “後ろ盾”中国とは外交関係樹立75周年迎えるもすきま風?

去年、中国と北朝鮮は外交関係樹立75周年を迎えた。4月には中国共産党の序列3位で全国人民代表大会トップの趙楽際委員長が北朝鮮を訪問。「中朝友好の年」の開会式に出席した。しかしその後、注目されていた首脳会談は行われず、年末に行われる可能性が指摘されていた「友好の年」閉会式も行われなかった。12月30日、中国外務省の定例記者会見で1年間の中朝関係について総括するよう求められた毛寧報道官は「両国指導者の合意に従って中朝関係を維持し強固なものにしたい」などと述べるにとどめ、具体的な評価を避けた。 

一方、北朝鮮はロシアに急接近した。去年6月にはロシアのプーチン大統領が24年ぶりに北朝鮮に訪問し金正恩総書記と会談。有事の際の軍事支援について明記した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。さらに、北朝鮮は兵士をロシアに派遣。ウクライナ軍が越境攻撃を行っているロシア西部クルスク州に北朝鮮兵が投入されていると各国が指摘していて、韓国の情報機関「国家情報院」は、これまでに約300人が死亡し、約2700人が負傷したとする分析を明らかにしている。 

去年1年間、北朝鮮はロシアとの軍事協力を強化した一方で、これまで“後ろ盾”として存在感を発揮してきた中国との関係強化の動きはほとんどみられなかった。中国と北朝鮮の間には微妙なすきま風が吹いている。

放置された商業施設に建設がストップしたマンション群…外交関係に翻弄された“ゴーストタウン”の実態 

外交関係に翻弄される街があると聞き取材に向かった。丹東の中心街から車を30分ほど走らせたところにある「丹東新区」と呼ばれるエリアである。しかし、立ち並ぶマンションをよく見てみると、人がほとんど住んでいないものや建設工事が途中でストップしているものが多い。近くに商業施設があるということで行ってみるとテナントは入っておらず長いこと放置されているのか雑草が生い茂っていた。

街の中心部にある大通りも車がほとんど走っていない。北朝鮮産の高麗人参などを扱う店も閉鎖されていた。まるでゴーストタウンである。

このエリアには2014年、中国と北朝鮮を結ぶ新たな橋「鴨緑江大橋」が完成した。中国側が約22億元(日本円で約470億円)を出して建設したもので、老朽化が進む「中朝友誼橋」に代わる新たな貿易の大動脈として期待を集めた。橋の開通を見越して街の開発も進んだ。2018年、金正恩総書記が中国の習近平国家主席やアメリカのトランプ大統領(当時)と会談し、その後、核実験の停止を約束するなど“融和ムード”を打ち出すと、丹東新区の不動産への投資が相次いだ。中国メディアによると、価格が1日に2回上昇する物件や価格が倍になった物件もあったという。

「北朝鮮と貿易ができると思っていたのに…」裏切られた期待 丹東新区の住民からは悲痛な声も 

しかしその後、北朝鮮はアメリカが求めていた非核化について「今はできない」と表明するなど再び強硬路線に転じる。「鴨緑江大橋」は現在に至るまで開通せず丹東新区への期待はしぼんでいった。中国側には巨大な税関施設がほぼ完成しているものの北朝鮮側は税関の施設などが十分に整備されていないようにもみえる。丹東新区の住民からは悲痛な声もあがっている。

丹東新区の住民
「橋がいつ開通するのかは分かりません。毎年“今年は開通する”と言われているのですが…」

 丹東新区の住民
「私が来たときマンションの価格は1平方メートルあたりおよそ7000元(日本円でおよそ15万円)でした。いまは5000元(日本円でおよそ11万円)です。安くなってしまいました」

丹東新区の住民
「私の息子は小さな家具店を経営しているのですが店をずっと開くことができていません。当初は北朝鮮と貿易ができると思っていたのですが。私は中国と北朝鮮が友好的になることを望んでいます。北朝鮮が開放されればビジネスにとっても良いことだと思います」

中国と北朝鮮の関係は今後どうなるのか?見通しを中朝貿易の関係者に聞いてみた。「中国も北朝鮮もトップの意向次第で物事が決まる。我々、貿易関係者や一般市民には預かり知らないところだ」という答えが返ってきた。 

今月20日、アメリカでトランプ政権が再び誕生し、金正恩総書記と対話を行う意向を示した。トランプ大統領と金正恩総書記が再び首脳会談を行うとなれば北朝鮮をめぐる国際情勢は大きく変化するとみられる。ミサイルの脅威や拉致問題を抱える日本にとっても北朝鮮と無縁ではいられない。北朝鮮と“後ろ盾”中国のトップがどのような意向を持っているのか、今年は特に注目が集まる1年になりそうだ。

JNN北京支局 松尾一志

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