アメリカ・トランプ新大統領 なぜグリーンランドの所有に固執?“デンマークに防衛強化の圧力” “鉱物資源の開発で中国に対抗”現地の安全保障の専門家が分析
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月26日 7時30分
トランプ大統領(20日)
「国家安全保障のためにグリーンランドが必要だ」
「グリーンランドの人々はデンマークには不満だが、われわれには満足するだろう」
20日の大統領就任後、記者団に対し、デンマークの自治領、グリーンランドの所有の必要性を主張したトランプ氏。
大統領1期目にも同じような主張をしていたわけですが、トランプ氏が固執するのは、なぜなのでしょうか?
グリーンランドや北極圏の安全保障の専門家、デンマーク王立防衛大学 マーク・ジェイコブソン准教授の分析で、様々な思惑が見えてきました。
理由1:安全保障の強化
グリーンランドは、日本のおよそ6倍の面積を誇る、世界最大の島。アメリカ大陸とヨーロッパの間に位置しています。
人口はおよそ5万6000人で、その9割は先住民のイヌイットです。
デンマークの統治下にありましたが、1979年に自治権を獲得し、現在はデンマークの自治領となっています。
グリーンランドはアメリカとロシアを結ぶ線上に位置しているため、もしロシアがアメリカに核ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通過することになります。
グリーンランド北西部には、アメリカ軍の「ピツフィク宇宙軍基地」があり、レーダーでミサイル攻撃への警戒を行っています。
また、近年は、北極海の重要な航路としての活用も進んでいて、アメリカ、ロシア、中国にとって安全保障・経済面での要衝となりつつあります。
ジェイコブソン氏は、トランプ氏が「軍事力の行使の可能性も排除しない」と発言したことについては、裏を返せば、「デンマーク軍によるグリーンランドの防衛に満足していない」と主張していることになると指摘します。
マーク・ジェイコブソン准教授
「デンマークに圧力をかけて、グリーンランドにおける軍事的プレゼンスを高める狙いがある。駆け引き戦略のようなもので、より高いもの・非現実的なものを要求し、実際はそれよりも少ないもので満足をしようとしている」
トランプ氏が、相手の譲歩を引き出して実利を得るための“交渉術の一環”なのでは、というのです。
理由2:地下資源の獲得
グリーンランドが、投資先として注目されているのが、鉱物資源の開発です。
中でも、EV=電気自動車のモーターやスマートフォンなどの精密機器に不可欠なレアアースについては、世界有数の埋蔵量があるとみられていて、中国も高い関心を示しています。
去年12月、中国が一部のレアアースについて、アメリカへの輸出を禁止する措置を発表。ジェイコブソン氏はこうした動きも影響しているのでは、と指摘します。
マーク・ジェイコブソン准教授
「グリーンランドには豊富な種類の鉱物資源があります。南部に膨大な埋蔵量があるものの、まだ採掘されていません。中国がアメリカへのレアアースの輸出禁止をしたことを踏まえると、アメリカがグリーンランドを資源と経済の両面で、より興味深い場所とみるようになったと考えられます」
トランプ氏の発言に対応を迫られているのが、グリーンランドと、デンマークです。
デンマークの対応は
デンマークのフレデリクセン首相は15日、トランプ氏とおよそ45分間にわたって電話会談し、“グリーンランドの買収には応じられないこと”を直接、伝えました。
プレデリクセン首相 Xより
「北極圏の安全保障に対してデンマークは多大な責任を負う用意があります。グリーンランドは売り物ではなく、独立を決める権利があるのはグリーンランドです」
フレデリクセン首相はさらに、翌16日の会見で、トランプ氏は、デンマークがアメリカによる所有に合意しなければ、デンマークからの輸入品の関税を引き上げるという主張を変えなかったことを明らかにし、「事態は深刻だ」と懸念を示しました。
フレデリクセン首相(16日)
「アメリカとの貿易上の対立を望んではいません」
「われわれは深刻な状況にあります」
一方、トランプ氏は大統領に20日の就任後記者団に対し、デンマークの協力を得られるだろうとの考えを示しました。
トランプ大統領(20日)
「デンマークは(グリーンランドを)維持するのに莫大な費用をかけているのだから、協力してくれるだろう」
「ロシアや中国の船がそこら中に浮かんでいる。彼ら(デンマーク)には維持できないだろう」
グリーンランドの対応は
デンマークとは違う事情が、グリーンランドにはあります。
エーエデ首相はトランプ大統領就任の翌日、21日の記者会見で、「アメリカ人にはなりたくない」と強調しました。
エーエデ首相(21日)
「我々はグリーンランド人です。アメリカ人になりたいとは思っていません。デンマーク人にもなりたくありません。グリーンランドの未来はグリーンランドが決めます」
グリーンランドでは300年余り続いてきたデンマークによる支配からの独立の機運が高まっています。
ただ、グリーンランドは、デンマーク政府からの多額の補助金に依存しており、独立には経済的に自立していくことが必要です。
ジェイコブソン氏は、グリーンランド政府は、トランプ氏の所有権主張を「ある種の機会」ととらえているといいます。
マーク・ジェイコブソン准教授
「グリーンランドは売り物ではないのは確かだが、ビジネスには門戸を開いています。鉱業、観光の潜在能力はどうか。国際政治での存在感を高めるために、戦略的に活用しようとしているのです。これは最終的には国家になるというビジョンにとっては重要なことです」
実際、グリーンランドは去年2月、新たな外交・防衛・安全保障戦略を発表し、その中で、アメリカとのビジネス強化を示しています。
ただし、あくまで独立が前提であり、アメリカの「所有物」になることをグリーンランドの人たちは望んでいない、とジェイコブソン氏は指摘します。
マーク・ジェイコブソン准教授
「グリーンランド人の大多数の目標は、独立国家になることです。そのためには鉱業や観光など新たな投資が必要です。グリーンランドの戦略は、アメリカとの関係を強化すること、そして世界中の他の国々へも多様化することだと思う」
トランプ大統領の真の狙いはどこにあるのか。今後も駆け引きが続きそうです。
担当:ロンドン支局 岡村佐枝子、城島未来
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