トランプ氏にひれ伏すSNSは、もはや世界をより良くしない~Meta社のファクトチェック廃止に失望~【調査情報デジタル】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年2月1日 7時0分
トランプ氏の米国大統領への就任目前に突如発表されたMeta社のファクトチェック廃止(画像は、ザッカーバーグCEOの動画声明から)。さらにトランプ氏の支援者であるイーロン・マスク氏が買収したXの変質など、近頃の米国発のSNSの荒廃ぶりを筆者は嘆く。「共有が世界をより良くする」との理念は幻想だったのか。メディアコンサルタント・境治氏の寄稿。
トランプ氏の威光に屈したザッカーバーグ氏の発表
1月7日、Facebookを運営するMeta社の発表に私は「はあ?」と驚き、怒りが湧いた。
ファクトチェックを廃止する、というのだ。米国大統領に就任するトランプ氏に明らかにおもねっている。
私は2010年からFacebookを毎日のように使ってきたが、この先も使い続けていいのか悩んだ。だがFacebookはあまりにも私の生活の中に入り込んでいて、途方に暮れている。
ニュースでは「ファクトチェック廃止」ばかりがフィーチャーされたが、Meta社の発表は6項目並んでいる。そのどれもこれもが、これまで進んできた方向性を逆戻りさせるような内容だった。
2016年の大統領選挙でネットでの偽・誤情報の氾濫が問題になり、Facebookもやり玉に上がった。そこでMeta社が導入したのが、第三者機関によるファクトチェックの仕組みだ。それだけでなく、批判に応じるべく様々な施策でモラルに反する投稿に一定の制限をかけていた。
今回の発表はそうした制限を緩める方向のものだ。そして項目の6つ目で、「各国政府からの検閲圧力に抵抗するためにトランプ大統領と協力する」と表明している。IT業界の風雲児だったザッカーバーグ氏が、トランプ氏の軍門に下ったように思えた。
Meta社は2021年の連邦議会襲撃事件を煽ったとしてトランプ氏のアカウントを凍結した。この時、ザッカーバーグ氏を猛烈に批判し刑務所送りにするとまで言ったトランプ氏が大統領選挙で勝利したことへの防衛なのだろう。偽・誤情報氾濫を防ぐべく進んできたのが、トランプ氏が大統領になると決まると踵を返して制限を緩めるとは。
「ザッカーバーグめ、なんてポリシーがないヤツなんだ」。私は思わずそうつぶやき、そんな男が運営するFacebookを使ってきたのが情けなくなった。
日本でのファクトチェックは2024年9月に始まったばかりだ。そしてファクトチェック廃止はまだ米国だけのこと。だから日本でFacebookやInstagramを使うユーザーにとっては大きな影響はなさそうだ。
だがそんなこととは別に、SNSが運営会社の日和見で方針が変わるサービスだと、今回はっきりわかった。これは恐ろしいことだ。「つながり」を生みコミュニティを形成する場として楽しく使ってきたことが、能天気に思えてくる。
この先、トランプ氏が差別的な投稿や偏った主張を認めろと言いだしたら、ザッカーバーグ氏が屈してもおかしくない。いや、Meta発展のためなら「はい、喜んで!」と従う可能性だってある。
SNSは結局は一企業が運営するサービスであり、その企業が属する国の政治状況にあっさり屈服するものだったのだ。そのことを思い知らされた。
イーロン・マスク氏はXを罵詈雑言のマスメディアにした
ザッカーバーグ氏が権力におもねったのなら、Twitterを買収しXに変えてしまったイーロン・マスク氏は権力者そのものになろうとしている。
選挙期間中はトランプ氏の有力な支援者となり、大統領就任後は要職(政府効率化省のトップ)に就く。そんな人物が、SNSという個人が発信する場を運営しているなんて、許されるのだろうか?
そもそもマスク氏は、SNSを趣味嗜好の近い人とつながりを生む場から、罵詈雑言が飛び交い犯罪の温床にもなる空間に変えた張本人だ。Twitterの名称をXに改めただけでなく、数々のルール変更、メニュー変更を行い、それらはことごとく改悪だと私は受け止めている。
マスク氏はそれまでの広告モデルに有料モデルも取り入れたいと考え、プレミアムユーザー制を導入。投稿へのエンゲージメントに応じて収益を配分するようにした。
その結果、やみくもにインプレッションを得るために無意味な投稿をまき散らす「インプレゾンビ」が大量に発生し、一気にXは不気味な投稿だらけになった。
そしてSNSとしての在り方を180度変えてしまったのが、「おすすめ」メニューだ。
Twitterは、自分がフォローしたアカウントの投稿を読むツールだった。どんな傾向の投稿が読みたいか、選ぶのはユーザー。つまりユーザーに主権があったのだ。ところがXでは「おすすめ」が一番左に配置され、自分がフォローしてもいないアカウントの投稿をいきなり目にするようになった。
表示されるのは、ある程度リプライや「好き」がついた投稿で、どぎつい内容が多い。著名人への批判や不満、政治的な内容、特定の思想信条に根ざした内容、そして家族への愚痴や時にはDVの暴露、さらにポルノ的な投稿まで流れてくる。
もちろん前からこうした投稿はあったし、それが炎上することもあったわけだが、「おすすめ」ではどぎつい投稿が次々に流れてくるので、炎上が起きやすくなったと私は捉えている。
Twitterにあったユーザーの主体性が失われ、Xは炎上の「芽」を垂れ流す、エグいマスメディアになってしまった。
こんなSNSはもうSNSとは言えない。FacebookもXも、もはや居場所にしていられない。同じように考える人は多いようで、米国生まれながら健全な新生SNSであるBlueSkyや、12月に突如登場した日本製SNS、mixi2などが急激にユーザーを増やしている。だがなかなか代替にはならず、どうしたものかと悩んでしまう。
日本政府は規制できるか?我々は「つながり」を断つべきか?
SNSの荒廃は、2024年から世界レベルの問題になっていた。各国で規制の動きがあり、ブラジルは一時期Xを国内から締め出した。これにはさすがのマスク氏も折れ、再開に至った。
オーストラリアでは16歳未満のSNS利用を禁止する法案が可決され、今年11月に施行される。各SNS事業者がどう対応するか、注目だ。
日本でも総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」で議論が進んでいる。「対処」とあるように、規制に踏み込む前提と思われるが、具体的には各プラットフォームにモデレーションを求めることになりそうだ。つまり、自主的なチェックと対応を事業者自身が行うと。
Meta社は先述の通り、ようやく2024年9月から日本でも始めたファクトチェックを米国に続いて廃止してしまうかもしれない。
各事業者に求める要求と、それぞれの方針が噛み合うかは読めない。特にマスク氏は簡単に意思を曲げないので、対応は望めないのではないか。
政府の要望がMetaやXと対立した時、どうなるか。日本製鉄のUSスティール買収への米国の反応のように、国家レベルでの対立に向かう可能性だってある。なにしろマスク氏はトランプの支援者なのだ。大統領の後ろ盾で何を言いだすかわからない。
メディアの成長を減速させかねないSNS不信
SNSへの不信は、メディア運営にも大きく影響を及ぼしそうだ。
ネット上でコンテンツに触れてもらうために、SNSは欠かせない。テレビや新聞もネット上にメディア展開し、Xアカウントを持って記事の拡散に努めている。SNS抜きでは読者を獲得できないといっても過言ではない。特にXの荒廃が進みユーザーが退出していくと、記事へのアクセス数が大きく減少する可能性は高い。
SNSはネット上でのメディアのエコシステムの血液のようなものだった。血流が止まると、メディアの生命も絶たれるかもしれないのだ。
メディアだけではない。ネットを前提に生まれたベンチャービジネスで、メディアと同じようにSNSを血流としてきたものは多い。SNSが信じられない空間になればなるほど、ベンチャー企業の成長にも支障が出かねない。
SNSは、2010年代を中心にした短い時代に成立した、幻のような空間だったのかもしれない。いま、私はそう考えはじめている。
「シェア=共有」がもたらす幸せは幻想か
2009年にTwitter、2010年にはFacebookを使いはじめ、私はそれまでの交友関係を大きく超えたたくさんの人びとと「つながり」を得た。私の情報発信を受け取ってくれる人は格段に増え、実際に会うこともあった。仕事上の交流が拡大しただけでなく、様々な考え方に触れることができ、人間としても進化できたと感じている。
以前は考えられなかったことであり、それは単にインターネットによるものでもなく、SNSだからこそ実現できたことだ。個人が発信し、発信した同士で交流できるのがSNSの最大の特長だ。
大きな視点で捉えると、グローバリズムの賜物でもあった。
SNSは国境を越えて活動する巨大IT企業が運営する。TwitterもFacebookも、米国企業であることはもはや意味をなさず、我々日本人も米国人も他のすべての国々の人びとのためのサービスだった。そうだと信じてこの十数年を過ごしてきた。
だがそれは幻想だったのだ。2つのSNS企業は米国企業であり、為政者に振り回されるし、買収されると本質は変わる。ただのサービスなのだから。
ザッカーバーグ氏は「共有が世界をより良くする」との理念を唱えていたが、もはや嘘っぱちだ。SNSで世界はより悪い方向へ傾いているとしか思えない。
そして何より、私たち個人の考え方も修正を迫られている。「シェア=共有」が新しい理念であり、今までにないやり方で幸せをもたらすと信じた。だがそれは諍いや対立を起こすものでもあり、時に犯罪にもつながる。人間の負の側面を増大させることもあり、いまはその方が強く出て、様々な問題を引き起こしている。
海外のサービスに頼っているとその分、見知らぬ国の人びとの悪意に巻き込まれかねない。国内でも相手をよくよく選ばないと、とんでもないことになる。
「シェア=共有」がもたらす幸せは性善説に則っていて、しょせん世の中は性悪説で見つめるべきだったのか。私はそうではないと思いたいが、人類全体がその答えを見出すべき時なのだろう。
〈執筆者略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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