中国AI「DeepSeek」の衝撃!高性能・低コストはなぜ可能に?【播摩卓士の経済コラム】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年2月1日 14時0分
「AI競争におけるスプートニク・ショックだ」という文字が米メディアに踊りました。スプートニク・ショックとは、米ソ冷戦期の1957年に、旧ソ連が人工衛星スプートニクの打ち上げに世界で初めて成功し、自らの技術優位を信じ切っていたアメリカ国民に大きな衝撃を与えた出来事のことです。
中国のスタートアップが開発した「DeepSeek(ディープシーク)」が、、アメリカのオープンAI社の「Chat(チャット)GPT」を超えるとも言われる性能のAIを、しかも10分の1以下のコストで開発したというニュースは、AI開発のルールを変えたとして、ワシントン、ウオール街、そしてシリコンバレーに大きな衝撃を与えました。
ChatGPTに匹敵、コストは10分の1以下
中国のディープシークは、1985年生まれの梁文鋒氏が、2023年に浙江省杭州市で創業した新興企業です。このスタートアップが開発した「ディープシークR1」というモデルが、アメリカでトランプ大統領の就任式が行われた1月20日に発表されました。
同社によれば、R1は主な性能で米オープンAI社のチャットGPTに並ぶか、それを凌ぐ一方、その開発費は560万ドル、8億6000万円だったとしています。この額は、オープンAI社が「GPT4」にかけた開発費7800万ドルの14分の1、グーグル社の「Geminiウルトラ」の開発費1億9100万ドルの、なんと35分の1に過ぎません。
これが本当なら、「AI開発にはカネがかかる。従って、世界から資金が集まるアメリカの優位性は揺るがない」という、いわば「神話」が崩壊することになります。
覆ったAI開発の「常識」、「ゲームのルール」が変わった
こうした事実が明らかになった27日、アップ・ストアの無料ダウンロード回数で、「ディープシーク」が、「チャットGPT」を抜いてトップに立ちました。
翌28日には株式市場にはショックが走りました。アメリカのAI関連株が軒並み売られ、中でもAI用半導体を一手に引き受けるエヌビディア株は1日で17%も下落、エヌビディアの時価総額は1日だけで、90兆円以上も失われたのです。
それはそうでしょう。これまでの「常識」が覆されたからです。その常識とは、「AIの開発には、多くのことを学習させなければない、そのためには大量のデータセンターが必要で、金と時間がかかる。そして、効率よく学習させるためには、同時並行的に処理ができるエヌビディア製のGPUという半導体が欠かせない」というものです。
つまり、エヌビディアの高性能の半導体が手に入らない中国企業には開発できないはずでした。本当なら、いわば「ゲームのルール」が根本から変わったことになります。
DeepSeekはなぜ開発できたのか
新興中国企業が高性能AIをなぜ低コストで開発できたのでしょうか。
まず指摘されているのが、オープンソース型という開発手法です。自社のイノベーションをオープンソースとして公開し、広く改良を重ねていくと共に、逆に、公開されている他社のモデルも活用していくやり方です。
その際に「蒸留」という手法を採用したことも注目されています。別の高性能のAIを先生役に据えて、一からデータを学習させるのではなく、先生役の大規模な学習内容を小規模なモデルに反映させることで、開発効率を向上させることができたと言われています。
アメリカは前のバイデン政権下で、高性能半導体の対中国輸出規制を始めました。エヌビディア製半導体では、2022年に最新のAI半導体「H100」の対中輸出が規制され、翌23年には、性能を落として対中輸出を続けていた「H800」も規制対象になりました。ディープシークは輸入可能だった時代に手元に集めた2048個の「H800」をフル活用したと、ウオールストリートジャーナル紙は伝えています。
「データ不正利用」疑惑に、対中規制強化の動きも
こうした事態にアメリカ国内では危機感が急速に高まっています。
早くも米議会では、これまでの対中半導体規制は不十分だったのではないか、との声が上がり、早くも規制極化を求める動きが出てきています。
また、そもそもディープシークが、米オープンAI社のデータを不正利用した疑いも持たれています。ディープシークがオープンソースのAIモデルをフル活用したことは、先に述べた通りですが、ブルームバーグ通信は、ディープシークがオープンAI社の非公開の大規模言語モデルのデータを盗み出し、利用した疑いがあると報じています。
DeepSeekは安全なのか
さらに、TikTokでも問題になっているように、中国のプラットフォームが果たして安全なのかという警戒感も急速に高まっています。中国企業は、中国政府から求められれば、個人情報を含めた保有データの提出を拒めません。
このためイタリアやアイルランドのデータ保護当局が、すでに、ディープシーク社に対し、ユーザーのデータの取り扱いについて説明を求めた他、オーストラリアの科学相も公に安全性への懸念を表明しました。ブルームバーグ通信は、イスラエルのサイバーセキュリティー企業の話として、すでに世界で政府と取引のある数百社がでぃぷしーくの使用を制限したと報じています。
戦略的な技術の分野で対中国の競争優位を保持することは、今のアメリカの最重要の国家戦略であり、AIの開発と利用は、その戦略そのものです。
第二の「スプートニク・ショック」を受けたアメリカが、今後どのような手を打つことになるのか、米中関係、ひいては国際情勢にも、大きな影響を及ぼすことになりそうです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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