ロナルドとドナルド それぞれの“力による平和”【報道1930】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年2月4日 22時2分
Peace through Strength(=力による平和)…第2幕を開けたトランプ大統領が就任式のあと陸海空の米軍人たちの前で掲げた安保戦略のスローガンだ。この“力による平和”とはいかなるものなのか読み解いた。
「トランプは取引重視だ。“君が何かしてくれたら僕も何かするよ”という考え方…」
アメリカ大統領はアメリカ軍の最高司令官でもある。その立場に立ったドナルド・トランプ氏は軍人たちの前でスピーチした。
「我々は勝利した戦争だけでなく終わらせた戦争も成功とみなす。だが最も大事なのは突入しなかった戦争を成功と評価することだ。これぞ“力による平和”だ。我々は戦争をする必要がない。軍を強くすれば軍を使う必要がないんだ…」
この“力による平和”という言葉をトランプ大統領は1期目から使っていた。その言葉の意味をアメリカ・戦略国際問題研究所(CSIS)のカンシアン氏はこう説明する。
CSIS 安全保障部門 マーク・カンシアン上級顧問
「“力による平和”にはアメリカ国民や同盟国にとって2つの意味がある。ひとつはアメリカの強さが紛争を抑止する平和な世界を作るということ。もうひとつは紛争を抑止しつつも必要であれば紛争に勝利する能力を持つ強いアメリカという考え方…」
簡単に言えば圧倒的な力を持った軍隊がにらみをきかせていれば誰も戦争を始めないだろうということか…。“力による平和”は歴史上度々使われてきた言葉だとカンシアン氏は言う。例えば42年前、当時のロナルド・レーガン大統領は言った…「我々は力によって平和を維持できる。弱さこそが攻撃をいざなう」
レーガン元大統領は“力による平和”を掲げ軍事力を強化し、東西冷戦を終結に導いた。
“力による平和”を掲げたロナルドとドナルド。しかし2人のそれは似て非なるものだとカンシアン氏は語る。
CSIS 安全保障部門 マーク・カンシアン上級顧問
「レーガンはヨーロッパやアジアの同盟国と強く結びついた国際主義者だった。一方トランプには“アメリカ第1主義”“孤立主義”という下地がある…。トランプ陣営の言う“力”はアメリカを守ることに重点を置いている。だがレーガン時代はアメリカや同盟国・パートナーを守ることを意味していた(中略~今後トランプは)パートナーや同盟国へのコミットメントを引き下げ関係をより取引志向にするだろう。トランプは取引重視だ。“君が何かしてくれたら僕も何かするよ”という考え方…」
強い軍が平和をもたらすという共通点はあるがレーガン氏は国際主義時代の“力よる平和”であるのに対し、トランプ氏は利益本位で“脱価値的”だと語るのは、アメリカの外交・安全保障を専門とする慶應大学の森教授だ。
慶應義塾大学 森聡 教授
「理念に沿った世界を作ろうという(レーガンさんのような)国際主義の発想はトランプさんには無い。何故ならそれをしてきたためにアメリカは消耗してしまったから…」
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 准教授
「パクス・アメリカーナ(アメリカの平和)という言葉があります。ラテン語の平和(=パクス)から来てるんですけど“○○の平和”って世界史上にいくつかあって…。○○っていう国が軍事的覇権を持って一定の秩序が作られる。元々ヨーロッパ文化における平和という言葉と力って結びついてきた…」
慶應義塾大学 森聡 教授
「トランプさんってアメリカに対するビジョンはあるんですけど、世界に対するビジョンはないんですよ…」
とは言えアメリカ大統領は世界に関わっていく。そして、世界はそれに揺り動かされる。まずは、ロシアとウクライナだ。
「ウクライナは主権国家じゃなくなっちゃう」
トランプ大統領が停戦させると言い切ったウクライナ戦争。トランプ氏就任後ゼレンスキー大統領は言った。
ウクライナ ゼレンスキー大統領
「トランプ大統領は今年中に戦争を終わらせるためにあらゆることをすると私に言った。我々は今年中に戦争を終わらせたい。しかし“早急に”というだけでなく何よりまず“公正に”だ」
トランプ氏は就任式の後、いくつもの大統領令にサインしながらこう言っていた。
「ゼレンスキーはディールしたがっているがプーチンはどうかな…、ディールすべきだと思うよ。プーチンはロシアを破壊していて大問題を抱えることになる」
22日にはSNSにプーチン氏に向けた投稿をしている。「この馬鹿げた戦争を止めろ。もしディールをしないならロシアからのすべての輸入品に高水準の関税・制裁をかける」
一方、プーチン大統領は「アメリカの新政権との対話には前向きだ。もっとも大切なことは危機の根本原因に対処することだ」
対話に前向きというが、ロシアの停戦条件はロシアが占領した4州からのウクライナ軍の撤退、NATO加盟断念。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 准教授
「(その撤退と断念は)プーチンが停戦交渉を開始する条件で、つまり話し合いしたかったらこれはまずやれと…。実際の停戦条件は政権交代して親露派の大統領を呼び戻せ。で、軍の解体。その通りにしたらウクライナは主権国家じゃなくなっちゃう」
プーチン氏の高すぎるハードルに対して“力による平和”は通用するのだろうか…。
慶應義塾大学 森聡 教授
「ウクライナ支援を一時的に増強してロシアを劣勢に立たせて交渉につかせる…。でも上手くいくのか…。無期限にやっていたらバイデン政権と同じ」
プーチン氏に制裁解除を条件に譲歩させるというアイディアも効果があるとは思えない。さらに心配はトランプ氏にとって戦争を終わらせることが目標なのでプーチンが譲歩しないならウクライナに折れさせるという方法を選ぶかもしれない…と森教授は言う。さらに最悪のシナリオは、停戦が上手くいかないで時間だけが流れると…
慶應義塾大学 森聡 教授
「停戦ができないなら、ウクライナ支援の負担はヨーロッパに転嫁していく。これはヨーロッパの問題だろって…。こういったところも6月のNATO首脳会談で話されるかと…」
このトランプ的“力による平和”、台湾ではどうなるのだろう?
「台湾有事…、とんでもない大損なんですよって」
台湾では今“疑米論”が出ている。つまり有事の際、アメリカは本当に助けてくれるのか?
トランプ氏は去年、もし中国が台湾に侵攻したら150~200%の関税を課すと言った。牽制とも取れるが、取り様によっては“経済制裁だけで軍は動かない”となる。
森教授も台湾のために出口のない中国との大国間競争に突入していくのは考えにくいと話す。
慶應義塾大学 森聡 教授
「トランプさんは長期化する武力紛争には突入したくない。一方で中国に負けた大統領として歴史に名を遺すのも嫌だ。従って仮に台湾危機が起こった時に取り巻きの外務安保チームは直ちに米軍を急派すべきだと…。トランプさんもそれには乗るだろうと。で対峙した状況に至った時に電話をかける…。習近平さんと何とか手打ちできないかって。ひとつのシナリオとして…。でもそこでディールできるかはわからない。できないかも…、その不確実さをトランプさんがどこまで自覚しているかわからない」
小泉准教授は、アジアで最もアメリカと親密な日本がトランプ氏の利益至上主義というキャラクターをつくべきだという。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 准教授
「台湾有事なんて起きようもんならアメリカの投資も吹っ飛びますよって…。とんでもない大損なんですよ、だから一緒に抑止していきましょうっていう働きかけを…。日本政府もやってるでしょうが、利益を共有してますよね、その中で協力していきましょうっていう形を作っていく…」
(BS-TBS『報道1930』1月23日放送より)
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