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撮影スケジュールまで計算に入れた合理的なセット――日曜劇場『御上先生』の美術スタッフが巨大なセットに仕込んだ秘密の仕掛けとは?

TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年2月9日 9時5分

TBS NEWS DIG

日曜劇場『御上先生』の教室や廊下のセットは、そのスケールの大きさだけでなく、撮影の効率性まで徹底的に計算されている。限られたスペースと予算の中で、どのようにして複数のシーンを撮影し、リアリティを追求しているのか。前編に引き続き、美術プロデューサー・二見真史氏と、デザイナー・野中謙一郎氏の話からその裏側に迫る。

制約の中で生まれる創造性――1つの空間で複数のセット撮影をする方法とは

多くの芝居が繰り広げられる教室・廊下セットを、約240坪のスタジオを目一杯使用して再現した美術スタッフ。回廊できる廊下や吹き抜け、さらには2階部分まで備えており、まるで学校の一角がそのままスタジオに出現したかのようなセットで作品の世界観の土台となっているが、本作では保健室や進路指導室、さらには生徒の部屋など、異なるシーンも同じスタジオ内で撮影されている。

スタジオいっぱいに広がる教室セットがあるにもかかわらず、どのように場面の切り替えを行っているのだろうか。その秘密について野中氏が語る。

「実は、保健室のシーンは3年2組の教室と同じ場所で撮影しています。天井は共用で、壁面は、保健室用のものと入れ替えているんです」と野中氏。さらに、進路指導室も廊下の吹き抜け部分を利用して撮影されているという。

通常であれば、撮影のスケジュールに応じてセットを建て直す必要が生じるが、本作では巨大なセットを効率的にセットチェンジする仕掛けとして、セットの一部に車輪がついており、パーツごとに倉庫へ収納できる仕様になっているのだ。使用する際は、パーツを入れ替えるだけのため、短時間での切り替えが可能になる。「どこを外し、どこを活かすかをパズルのように組み替えることで、異なるセットのシーンを同じ場所で撮影できるんです」と野中氏がギミックを解説する。

ちなみに、教室の黒板側と後ろの壁も可動式になっており、簡単に取り外せる構造だ。後ろの壁は、背後に続く廊下の壁と一体になっており、両面に装飾が施されている。裏側に何もない壁であれば簡単だが、今回のような設計では外すことが難しいうえに、壁は天井を支える役割も担っているため、取り外し可能にするためには別の方法で自立させる必要があった。

「梁との隙間はほんのわずかで、精密な作業が求められる。大道具の皆さんの力で実現しています」と二見氏は大道具チームへの感謝を述べ、「この仕組みのおかげで、イチから飾り変えるよりも圧倒的に時間を短縮でき、撮影スケジュールの効率化にもつながっています」と連続ドラマの撮影事情にも言及する。

セット作りおいては、監督からの細かなリクエストにも対応しつつ、全体のバランスを取る工夫も求められる。その一例が生徒の部屋の入口の位置に関する相談だ。監督が提案した入口の位置の方が長いストロークで良い映像が撮れたのだが、セットのギミックに影響を及ぼす可能性があったという。

「監督案を採用すると飾り替えにかなりの時間がかかり、作品全体のスケジュールに影響してしまう。そこで、ドアの位置を妥協することで全体のクオリティーを保てることを説明し、監督にも納得してもらいました」と二見氏がやり取りを振り返る。

こうした細やかな計算や調整が積み重ねられた結果、限られたスペースの中で多彩なシーンを生み出しながらもスムーズな撮影進行を実現している。

そもそもドラマ制作は数多くの制限があるものだ。撮影スケジュール、予算、セットの飾り替えに必要な時間など、挙げればきりがない。美術スタッフはいくつもの条件を踏まえたうえで、最適なセットを生み出さなければならないのだ。

「美術というと自由に制作しているイメージがあるかもしれませんが、実はまったく自由ではありません。与えられた条件の中で、どうすればあらゆる面に優れたものが作れるかを常に考えながらデザインしています」と、二見氏が明かしてくれたのは華やかな映像の裏にある緻密な計算。細部まで計算し尽くされたクリエイティブの力がドラマの世界観を支えている。

デジタル化するドラマ美術の世界と、仕事を“趣味”と再定義する美術チームの探究心

劇中では、プログラミングが得意で、自身が作った生成AIを使いこなす生徒の部屋も登場する。その空間演出には、内装とディスプレイを一体化させるTOPPAN株式会社の「ダブルビュー」技術を活用。普段はただの黒い壁のように見えるが、電源を入れるとAIの波形が浮かび上がる映像スクリーンとして変化し、まるで部屋全体がAIそのもののように見えるユニークな演出だ。

「異次元の設定を違和感なく見せるためには、シンプルにパソコンの画面だけでAIを表現するのではなく、あえて突飛で想像を超える技術を掛け合わせてインパクトを持たせることで、むしろリアルに感じさせることができるんです」と、二見氏が演出の意図を語る。

時代とともに数々の最新技術が生まれる中で、ドラマ美術の世界でもデジタル化が加速している。その一例として、本作で初めて導入されたCG制作ソフト「アンリアルエンジン」がある。同ソフトは事前にデザインしたセットをCGで再現し、カメラの画角で見える映像を忠実に再現できる優れたツール。

今回はTBS ACTの未来技術推進部とイノベーションスペース「Tech Design X(テックデザインクロス)」の協力のもと、「アンリアルエンジン」で作成したCGイメージを、監督が手軽にコントローラーで操作できる環境を整えたという。

「セットデザインを提案する段階から、監督がゲームのように操作しながら、どこからどう撮ればどんな映像になるのかを確認できる。撮影のイメージをより具体的に膨らませることができます」と、二見氏がその利便性を語った。

「ダブルビュー」技術や「アンリアルエンジン」にとどまらず、二見氏と野中氏は最新のデジタル技術や3D表現に高い関心を持ち、撮影と並行してバーチャルアートの学習なども進めている。二見氏は「将来的にはリアルセットに加えて、バーチャル空間を活用する可能性も出てくると思っていて」と、今後のドラマ美術のデジタル化を見据える。

ドラマ独自の世界観を再現する美術スタッフだが、没入して制作に取り組む一方で、決して内向きにならず、忙しい合間を縫いながら常に新たな技術やアイデアを探し取り入れている。

「美術として作品に採用できるものがないか、普段からアンテナを張っています」と明かす野中氏に続けて、二見氏は「僕たちはこの仕事を“趣味”と再定義してしまったんです(笑)。仕事ではなく、趣味と考えれば、自然とより深く追求したくなる。それが新たなアイデアにつながっています」と、創造力の源泉を明かしてくれた。

セット作りの技術は日々進化している。限られた条件の中で最大限のクオリティーを追求する姿勢や、現状に満足することなく新しい技術を積極的に取り入れ、ドラマ美術の可能性を広げていく美術スタッフの探究心と情熱が、作品のクオリティー向上に大きく貢献しているのだ。

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