従来指標ではない新しい価値を提案する株式会社Shiftall【開発者の矜持 #06】
Techable / 2021年1月15日 12時0分
彩る影をデザインする照明「RGB_Light」、服装のかぶりを教えてくれる姿見「Project: NeSSA」、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE」——。
これらのユニークなプロダクトを開発しているのは、製品の設計・開発から販売・サポートまでをトータルで行う株式会社Shiftall。
今回は、同社CEOの岩佐氏とエンジニアの狐塚氏に取材を行い、プロダクト開発における矜持を聞いてきた。
役割は「金脈」を見つけることーー御社はパナソニックの100%子会社とのことですが、グループ内ではどのような立ち位置なのでしょうか?
岩佐:一言でいうと、パナソニックのイノベーション創出の拠点のひとつ、という感じです。
少しさかのぼってお話しますと……私、もともとパナソニックで働いていたんですが、13年くらい前に辞めて、Cerevoという独立ベンチャーを立ち上げたんです。
Cerevoでは、必要十分な品質で、小ロットで機動的にプロダクトを市場に投入するというスタイルで開発を進めていました。要するに、軽く早くモノ出して、市場の声を聞いていくというスタイルですね。
私は「アジャイルマーケティング」と言っているんですが、もう市場に出す前に何が売れるのかがわかるような時代は——特にIoT分野においては——終わったと思っていて。パナソニックも新規事業についてはこの見解が一緒で、そういうスキームやノウハウ、チームが欲しいということで一緒にやることになったんです。
なのでShiftallの重要な役割は、とにかく新しい金脈を探すということなんですよね。
ーー金脈、ですか?
岩佐:パナソニックにおけるヘッドフォン事業とかテレビ事業とかは、すでにそれなりの売上と利益を出していますよね。それを鉱山に例えていて……音楽を聴くため、あるいは映像を見るためのデバイスとして「金鉱山」がもう見つかっているわけです。
あとは機材と人を投入して効率よく掘ればいい。それが彼らの強みでもあります。
でも逆に、売れるかどうかがわからないものを作ってみて、企業のロゴを付けて市場に出して、お客さんの声を聞いて……という「金脈探し」は彼らにはなかなか難しい。ここにShiftallの存在意義があるんです。
で、もし僕らが金脈を見つければ渡してあげればいいんですよ。「あとは任せた!」って。
既存製品の延長線上にないイノベーションーーShiftallでは数多くのプロダクトを開発していますが、その上で大事にしていることはありますか?
狐塚:そうですね……まあ、当たり前かもしれませんが、細かいところまでこだわるということですかね。普通人が見ないようなところ、100人中98人が見ないようなところをきっちり作る、ということは大事にしています。
例えば、IoTのプロダクトについている「ボタン」をきっちりセンターに出す、とか。ボタンって、穴が空いているところに埋まってるじゃないですか。その四隅の隙間が均一になっているかどうか。
超大手メーカーの家電とかだと大体ぴったりセンターが出てるんですが、製品によってはずれているものもあるんです。
ーー意識して見たことありませんでした……。
狐塚:ほとんどの人がそうだと思います。でも多分、意識しなくても感覚的にはそういう細かい部分がきっちりしている製品をかっこいいと感じるんですよね。
これは有名な話なんですが……車ってボンネットとフェンダーの間に隙間があるじゃないですか。あの隙間って結構重要でして、狭ければ狭いほどかっこよく見えるんですよ。
お客さんはそういう部分を意識しては見ませんが、作る側はそれを意識的につくる必要があると思うんですよね。
ーーなるほど、まさに開発者の矜持ですね。岩佐さんはいかがでしょうか?
岩佐:自分は少しビジネス視点も入りますが、「従来の製品の延長線上にないイノベーションを起こす」というのを大事にしています。
パナソニックのヘッドフォン事業部でも「新しい商品」は作っているはずです。でも多分従来製品の延長線上にある製品だと思うんです。おそらく、今より音質が良くて、フィッティングが快適で、バッテリーのもちが良くて、ノイズキャンセリングの性能が高くて……など。
僕たちは、そういった従来指標ではない新しい価値を提供したいんです。
例えば、光の三原色の原理を応用して白い光の中にカラフルな影をつくる「RGB_Light」という照明を共同開発したんですが、これって大手メーカーの照明事業部からは出てこない製品だと思うんです。
高演色型のLED照明っていうのは青色LEDに赤と緑の蛍光体を混ぜ合わせて白をつくります。色がずれて見えたら不合格なんです。でも僕らがつくったのは、あえて影が3色に出るという照明。つまり彼らからしたら不良品なんです(笑)。
これまで「価値」だと思われてこなかったものを「価値」として提案するというのは、そもそも受け入れてもらえるかわからないですし、売れるかどうかが全然読めないんですよね。
でもそれをしないと僕らが僕らじゃなくなっちゃうので、やり続ける。それが矜持ですかね。
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