【コラム】これまでの5Gと何が違うの?各キャリアが導入を始める“真の5G”について解説
Techable / 2022年1月28日 18時0分
高速通信規格の5Gが日本でスタートしてから、間もなく2年になろうとしています。
一方で、現状の5GはNSA(ノン・スタンドアローン)と呼ばれる4Gを引き継いだ方式を採用しており、ネットワークを制御する「コア」も共用しています。既存の設備をそのまま使えるため、スムーズに導入できる反面、多くの機能が4Gに引きずられてしまうのがNSAのデメリットです。
そんななか、“真の5G”と呼ばれる5G SA(スタンドアローン)の導入が、徐々に始まっています。
ソフトバンクはいち早くコンシューマー向けに最初にSAを導入したのは、ソフトバンクです。同社は、固定回線の代替としてモバイル回線を利用する宅内据え置き型ルーターの「SoftBank Air」の最新モデルに、5G SAを採用しました。
エリアは限定されますが、大容量の5Gだけに通信を流すことができ、スマホなどで使われている4Gのトラフィックに影響を与えないのは5G SAのメリットと言えるでしょう。固定回線の代替として使われるだけに、低遅延化が見込めるのもSAを採用した理由だと見られます。
SoftBank Airでいち早くコンシューマー向けに5G SAを採用したソフトバンクですが、他社はどちらかというと法人ユーザーを優先しています。法人向けのほうが、低遅延や多端末接続というSAの利点を生かしたサービスを開発しやすいからです。
まずは法人向けに展開するドコモソフトバンクに続き、5G SAを21年12月に開始したドコモは、法人向けのソリューションとセットでサービスを展開しています。
たとえば、ドコモは、TBSと屋外でのテレビ中継に5G SAを利用する取り組みを進めています。エヴァンゲリオンの制作でおなじみのカラーとも、リモートワークで制作ツールにアクセスできるサービスを実現しようとしています。
前者は5Gならではの高速通信を生かした取り組みで、NSAでも実現できそうですが、後者はドコモ内のサーバー上に置いた制作ツールにアクセスするため、低遅延は必須。5G SAならではのソリューションです。
筆者もドコモの展示会で披露されていたツールを使ってみましたが、サーバー上で動作させているにも関わらず、あたかもタブレット内にインストールされたアプリのように高いレスポンスで文字を書くことができました。
高い処理能力を要求される制作ツールは、クライアント側のPCなどで動かすより、サーバー上に置いたほうが効率は上がります。こうした仕組みをMEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)と呼びますが、その実力を発揮した事例の1つと言えるでしょう。
KDDIや楽天モバイルも5G SAの環境は整えており、法人との取り組みが始まり次第、サービスを開始できると見ていいでしょう。遅くとも、22年内には何らかの形で4社が5G SAでのサービスをスタートさせることができるはずです。
法人からスタートした5G SAですが、ソフトバンクはすでにコンシューマーに展開しており、ドコモも22年夏にはコンシューマー向けのサービスをスタートさせる予定。22年は、一般のユーザーも5G SAを体験する機会が増えてくるはずです。
一般ユーザーにメリットをどう訴求していくか一方で、コンシューマーに展開するにあたっては、5G SAのメリットをどう訴求するかが課題になりそうです。一般のユーザーが利用できるサービスの中で、5G SAの実力を生かせるものはそこまで多くないからです。
どちらかと言えば、コンシューマー向けには“超高速”の側面がフィーチャーされており、アプリや動画などのダウンロード需要が高いことを踏まえると、5G NSAでも十分という見方ができます。
また、一時的なことですが、5G SAでは、5G NSAよりも速度が低下する懸念もあります。これは、5G NSAが通信の際に、5Gだけでなく4Gの電波も組み合わせて利用しているためです。
この仕組みを「デュアルコネクティビティ」と呼びますが、4Gを束ねた結果、5G単独でのスピードよりも4G+5Gのほうが速くなるという逆転現象が起きています。低遅延化などのメリットを見出しづらく、しかも速度が低下してしまうとなれば、一般のユーザーが5G SAに移行する理由がなくなってしまいます。
エリア拡大もまだまだこれからエリアの拡大に関しても、課題が残ります。現状では、5Gのエリアはまだまだ限定的。
4Gから5Gへの周波数転用を進めているKDDIやソフトバンクは、都市部であればそれなりに5Gがつながるようになりましたが、ドコモや楽天モバイルは5G専用に割り当てられた周波数でエリアを展開していることもあり、局所的にしか5Gで接続できません。
先に挙げたMEC内の制作用ソフトウェアに接続するユースケースでは、アニメーターのリモートワークが想定されています。この場合、各アニメーターの自宅を5G化していなければならず、都市部の高トラフィックエリアが中心の今のエリア展開では、不十分になることが考えられます。コンシューマーでも法人でも、エリアが広がらないと受けられる恩恵は少なくなってしまいます。
とはいえ、5G用に割り当てられた新周波数帯だけで4G並みのエリアを構築しようとすると、必要となる基地局数が膨大になりすぎてしまい、コスト的に割に合わない可能性が出てきます。4Gから5Gに転用した周波数帯を含め、効率よくエリアを拡充していく必要があります。
速度的には専用周波数帯に見劣りする4Gからの転用ですが、低遅延を生かすことができるため、5G SA時代には価値を発揮できるかもしれません。
(文・石野純也)
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