走行中の電気自動車にワイヤレス給電! 新しいインフラシステムの実現をめざす大学発ベンチャーの挑戦
Techable / 2022年4月5日 11時0分
カーボンニュートラルが注目されるなか、EV(電気自動車)や電動キックボードといった電動モビリティへ高い関心が寄せられています。
従来のガソリン駆動の乗り物とは異なり、電気で動くこれらのモビリティには「充電」が欠かせません。現状では有線で行われるケースがほとんどですが、それをワイヤレスで実現するために挑戦している企業があります。
豊橋技術科学大学発のベンチャー企業として、ワイヤレス電力伝送技術の社会実装をめざす株式会社パワーウェーブ代表の阿部晋士氏に話を伺いました。
「走行中給電」の実現をめざし会社を設立——大学発のベンチャーとのことですが、設立の経緯などを教えてください。
阿部:私はもともと、大学の研究室でワイヤレス給電技術を使った走行中給電について研究開発に取り組んでいました。
そのまま教員になって研究を続け、企業との共同開発などにも取り組んできましたが、技術を社会実装していくためには大学としてだけでなく法人の立場としても推し進めていきたいと考え、昨年会社を設立しました。
会社としてはまだ2年目ですが、研究開発自体は10年以上続けており、そのなかでいろいろな取り組みも行っています。たとえば、2016年3月に大学構内に道路を作り、その上をバッテリーレスの車が走るワイヤレス走行中給電の実証実験を行っています。
——モビリティ業界全般として、ワイヤレス給電の技術は現在どのような段階にあるのでしょうか?
阿部:現時点では、工場内で使う無人搬送車でワイヤレス給電に対応したものが製品化されています。
また、BMWからもプラグインハイブリッド車向けにワイヤレス充電システムが登場しています。しかし、電動モビリティ自体が普及していない背景もあり、一般にはそこまで使われていない現状があります。
——すでに製品化されているワイヤレス給電技術と、御社が開発している技術との違いをお聞かせください。
阿部:今紹介したような現行のモビリティ向けのワイヤレス給電システムは、「磁界結合方式」という仕組みが使われています。これは皆さんにおなじみのスマートフォンのワイヤレス充電器でも使われているもので、コイルに電流を流してそこで磁界を作り、その磁界を受け取って電力の受け渡しをするものです。
一方で、私たちのワイヤレス給電システムは「電界結合方式」というものを使っています。これは、コイルを使うのではなく、金属の板である電極を使い、電気をやりとりします。電極に電圧を与えると電界が発生し、その電界を車体側の電極が受け取ってバッテリーやモーターに供給するという仕組みです。
——「電界結合方式」は、既存の「磁界結合方式」に比べてどんなメリットがあるのでしょうか?
阿部:磁界方式の場合、決まった場所での給電は得意なのですが、そこから少しでもずれてしまうと電気を送ることができなくなるという課題があります。一方で電界結合方式は、電気を送る側の電極を伸ばすことで移動しても電気を受け取ることが可能です。
また、部材の自由度が高いこともメリットです。金属の板だけでなく、金属テープやアルミホイルのようなごく薄い素材や、網などを使うこともできるので、設置場所や目的に応じた柔軟な対応が可能です。
金網は踏みつけても壊れにくいですし、もし一部が切れてしまっても電気が通るので、強度が求められる場所に使うことができます。また、コストを抑えたい場合には安価な素材を選んだり、特殊な形状の車体には電極を車体の形状に合わせて作ったりといった選択もできます。
太陽光発電と組み合わせた活用の可能性も——再生可能エネルギーと組み合わせた活用も視野に入れているとのことですが、それにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
阿部:近年、太陽光発電などの再生可能エネルギーは、発電する方法ばかりが注目され、そのエネルギーをどこで使うかという部分があまり議論されていないように感じています。
せっかく再生可能エネルギーで発電をしても、それを使う方法が限られていると化石燃料の消費を抑えることになかなかつながりません。そこで、いかに電気を使いやすくするかが重要になってきます。
その都度ケーブルの抜き差しをすることなく電気を送ることのできる私たちの技術は、利用者への負担なく、再生可能エネルギーを活用していくうえでの接点を担うことができるのではと考えています。
今後は大電力化や回路の小型化をめざす——ワイヤレス電力伝送技術の実用化に向けて、現在取り組んでいる課題などはありますか?
阿部:より使いやすくするための改善として、まずは「大電力化」をめざしたいと思っています。電力を大きくすることで充電時間を短くでき、より効率的なワイヤレス充電を行えるようになります。
また、車高が異なるモビリティにも問題なく充電を行えるようにするため、電極同士の距離が離れていても電気のやりとりができる「長距離化」も課題として取り組んでるところです。
そしてもう一つが、回路の小型化です。電極で受け取った電力を変換するには回路が必要ですが、その回路を小型化することでさまざまなモビリティに搭載しやすくなり、利用の幅が広がることが期待できます。
——実際に導入する場合のコスト面での課題はいかがでしょう?
阿部:私たちのシステムを社会実装していくためには、技術的な課題に加えていかにコストを下げるかも重要になると思います。
現状ではモビリティごとに専用のシステムをゼロから作っているのですが、この先は各モビリティで共通して使える部分については、共通のシステムとして製造して販売できる体制を作っていきたいです。
そして、モビリティや利用環境によって異なる特殊な部分のみメーカーや施設と協働で設計開発していくことで、導入にあたっての全体のコストを下げることができると考えています。
——最後に今後の展望についてお聞かせください。
阿部:今後の実装の展開方向は、「停車中から走行中」「管理区域から一般区域」という2つの軸で考えています。
おそらく最初に広まっていくのは、管理区域での停車中の充電になると思います。つまり、工場の中などで産業用ロボットや無人搬送車に使うイメージですね。その後、管理区域内での走行中給電に広がり、次の段階として一般の人が使える場所での活用があると考えています。
一般区域では、まずは電動キックボードや小型EVの駐車場での停車中の充電。そして、その先にある大きな展望として、一般の道路への走行中給電システムの実装があります。
たとえば、高速道路の1車線を「給電可能レーン」のようにして一般の人が日常的に使えるインフラとして使えるようになればいいですね。最終的には、私たちの会社のことは誰も知らないけれど、知らないうちに皆がこの技術の恩恵を受けているような社会になっていったらうれしいです。
(文・酒井麻里子)
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