破格の片道専用レンタカーサービス「Simpway」が提供する新たな移動の選択肢
Techable / 2022年4月20日 12時0分
レンタカーで長距離を走る際、目的地で乗り捨てられる片道利用ができれば、移動の自由度は格段に高まります。しかし、現状では高額な手数料が発生し、気軽に利用できるサービスとは言えませんでした。
Pathfinder株式会社(以下、Pathfinder)が開始した新サービス「Simpway」では、東京大阪間のレンタカーを最低5000円で利用することが可能です。
なぜこれほど安価なのでしょうか?また「Simpway」を通じて実現したい目標とは?代表取締役の小野﨑悠介さんに話を伺いました。
豊田通商からスタートアップに――小野崎さんは、Pathfinderを設立する前から自動車業界に関わる事業をしていたんですか?
小野崎:Pathfinderの設立前は豊田通商に勤めていて、自動運転をはじめとしたモビリティサービスの事業開発に携わっていました。
トラックの後続車無人隊列走行技術(※)のプロジェクトでは事務局を務め、社会実装に向けたロードマップの策定にも関わりました。
※有人トラックの後ろを自動運転トラックが追随して走行する技術。豊田通商が経済産業省・国土交通省から事業を受託して、2016年度にプロジェクトを開始した。現在も社会実装に向けた実証実験をおこなっている。
――国を挙げて取り組む大規模なプロジェクトに携わっていたんですね。
小野崎:日本の自動車産業は世界で競争力がある数少ない産業なので、自動運転の開発についても強みを生かしながら進めていく必要がある、と当時から意識していました。それが今回の起業を考え出したきっかけでもあります。
――多くの選択肢があったと思いますが、なぜ現在の事業を選んだのでしょうか?
小野崎:今から自動運転車両を作ってもテスラやGoogle(※)に勝つことは難しいですから、まず考えたのは「日本発のスタートアップとして、どの分野ならまだ間に合うか?」ということでした。
自動運転車両の開発以外に何があるか検討した結果、車両を裏側で支える部分、つまり最適な車両配置をおこなう技術は今後も必要になるだろう、と考えました。
※Alphabet傘下に、Googleの自動運転車開発部門が分社化したWaymo(ウェイモ)がある。
――そのなかでレンタカー事業を選んだ理由を教えてください。
小野崎:既存のモビリティサービスで車両台数が多いのはどこか、と調べて行き着いたのが、国内で約90万台の車両を保有しているレンタカー業界だったんです。
この業界は、大手6社が売り上げの約90%を占める寡占市場で、しかもデジタル技術を活用した効率化があまり進んでいませんでした。「これは参入チャンスがある」と考えて検討を重ね、「Simpway」の誕生につながりました。
東京大阪間が5000円の理由――「Simpway」のサービスについて教えてください。
小野崎:「Simpway」は、一般顧客向けの片道専用レンタカーサービスです。3月22日から、東京大阪間を最低5000円で利用できるサービスを開始しました。
――率直に「安い」と感じる利用料金ですね。低価格を実現できた秘訣はなんでしょうか?
小野崎:レンタカーの片道利用は、乗り捨てられた車両を回送業者が貸し出し店舗まで運ぶのが一般的です。このコストは、片道利用で発生するワンウェイ手数料として、結局は利用者が負担することになっています。
「Simpway」のサービスでは、回送車両を運ぶ目的地と、サービス利用者の移動需要をマッチングすることができます。マッチングが成立すれば、レンタカー事業者は高いコストをかけて車両を回送する必要がなく、利用者は高額なワンウェイ手数料を払わずにレンタカーを安く利用できるわけです。
――マッチングシステムの開発費を考えると、それでも安価だと思います。「Simpway」の料金設定は、どんな狙いがあるのでしょうか?
小野崎:現状、「Simpway」はβ版のサービスに近い位置づけで、料金設定についてもアンケートを実施して検討しました。これまでレンタカーを利用せず、高速バスや新幹線を使って移動する層まで取り込めるラインを考え、現在の料金に落ち着きました。
――新たな利用者を開拓しようという意図があるんですね。
小野崎:また、既存のレンタカー利用者へのアンケートを見ても、高額なワンウェイ手数料を負担して片道利用をする層は全体の10%程度います。
他方で、「もっと価格が安くなれば片道利用をしたい」という層も30%程度いて、需要があることがわかりました。東京大阪間の最低5000円というのは、それらの層も取り込める価格だと考えています。
――3月22日に「Simpway」のサービスを開始して、反響はいかがですか?
小野崎:多くの反響をいただいています。現時点では2台の車両でテスト運用をおこなっているのですが、すでに週末はゴールデンウイークまで予約が埋まっている状況です。サービス開始前に4500名、開始後に1400名もの方に、会員登録をしていただきました(4月1日時点)。
レンタカーのアウトレットモールを――なぜ大手のレンタカー事業者ではなく、御社がこのサービスを実現できたと考えていますか?
小野崎:片道専用のレンタカーが成立するには、回送車両を使って安く提供するだけではなくて、レンタカー事業者と利用者の双方が持つ課題を解決する必要があります。
じつは、大手のレンタカー事業者でも、低価格で片道利用ができるトライアルをおこなった例はすでにあります。ただ、1社単独だと常に提供できるほどの回送車両を確保できず、マッチングが成立しづらいのが現状です。
利用者にとっても供給が極端に不安定で、たまたまスケジュールが合ったときに利用できるサービス、というのが従来の位置づけでした。
――御社は、どのようにその課題を解決できると考えているのでしょうか?
小野崎:まずは多くの車両を確保する必要があります。私たちは「レンタカーのアウトレットモール」という考え方で取り組んでいます。
――アウトレットモールですか?
小野崎:私たちがアウトレットモールの運営会社のように、複数のレンタカー・カーシェア事業者と提携し、回送車両を確保することで供給を安定させる考えです。また、多くの台数を確保することができれば、マッチング率を高めることができます。
――複数の事業者の回送車両を集約して提供するから、「レンタカーのアウトレットモール」と呼ぶわけですね。
小野崎:Pathfinderはワンウェイ方式のレンタカー型カーシェアリングの事業許可を取得していて、自社車両を配備できる体制を整えています。
以前のアウトレットモールはB級品を集めて販売していました。それだと供給が不安定ですから、現在はアウトレットモール専用品を製造・販売するようになりました。
同じように、片道レンタカーの需要がある場所には、いつでも使える車両が配備されていなければなりません。そのために、一定台数の自社車両を保有する必要があると考えています。
マッチングの自由度を高めるために――車両が東京などの大都市に集中してしまう「偏在」については、どう対応していくのでしょうか?
小野崎:1つの方法として、ルートの分割があります。飛行機に直行便と経由便があるように、東京から大阪まで運びたい回送車両を、東京から名古屋、名古屋から大阪と、移動需要に応じて分割することも今後対応したいです。
また、複数の利用者が乗り継ぐだけではなく、1人の利用者が中継地で車両を乗り換えて移動することもあり得るでしょう。乗り換える手間が増えても「その分、料金が安くなるなら構わない」と考える人はいるはずですから。
そうした柔軟な運用ができるようになれば、マッチングにもいろいろな選択肢が生まれると考えています。
――中継地を設ける運用は、応用の幅が広そうです。
小野崎:この考え方は、地方から地方へ車両を運ぶときにも応用できます。地方のレンタカー需要はシーズンによって変動しやすいですから、シーズンオフに眠っている車両を需要のある地域へと再配置して活用していく必要があります。
たとえば、いったん地方から東京まで運転してもらい、東京から別の地方へ車両を運ぶことができれば、さらにマッチングの自由度はあがると考えています。
大都市をハブとして挟むことで利用者数は劇的に増えると考えていますから、現在このサービスの早期導入に向けて取り組んでいます。
自動運転社会への移行を見据えて――今後も、自動車を所有せずにレンタカーなどの形態で利用する人は増えていくでしょうか?
小野崎:レンタカーの車両数は、コロナ禍の影響でわずかに落ち込んだものの、これまで右肩上がりに伸び続けてきましたから、今後も増え続けると考えています。さらに自動運転へと置き換わっていけば、この傾向はもっと進むと思います。
そうなると、モビリティサービスを効率良く供給する車と、ぜいたくな楽しみとして所有・占有する車という形態に分かれていくでしょう。
――モビリティサービスに求められるものも変わっていくでしょうか?
小野崎:モビリティサービスについては、極限まで効率化して車両の稼働率を高める必要があります。事業者目線だと、利用者の需要を先取りすることも必要ですし、稼働率を高めるために車両の再配置や回送に戦略的に取り組むことがテーマになってくると思います。
――そのなかで御社はどのように事業を進めていく考えですか?
小野崎:自動運転の普及が進んでいるとはいえ、全てのクルマに導入されるまでには長い過渡期がありますから、しばらくは車両を人の手で移動させる必要があります。
私たちは、モビリティサービスに関わる事業者が再配置や回送、利用者の行動変容などをセットで簡単に運用できる仕組みを提供したいと考えています。
(文・和田翔)
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