スマート窓開発のアトモフがめざす「家ごとメタバース」
Techable / 2022年9月13日 10時0分
「メタバース」という言葉も耳慣れたものとなり、最近ではさまざまな企業が導入しています。
そんななか、窓型のスマートディスプレイAtmoph Window2を展開するアトモフ株式会社は「家ごとメタバース」の実現をめざしています。
同社が挑戦するメタバースとはどのようなものなのか、そしてこれからの「家」の可能性などを代表の姜京日氏に伺いました。
まるで “どこでもドア”!世界とつながる窓型スマートディスプレイ——まず御社の事業内容についてお聞かせください。
姜:アトモフ株式会社は、「日々を、冒険にする。」を理念に、窓型スマートディスプレイAtmoph Window2を開発しています。
Atmoph Window2は、壁にかけたり、机の上に置いたりするだけで世界とつながれる、“どこでもドア”の窓版のような製品です。Wi-Fiでインターネットにつながり、世界中の風景動画をサウンドと共に楽しむことができます。動画の種類は現在1500ほどあり、毎月どんどん増えています。
漫画家や作家、音楽家、建築家といった職業の方々にも愛用者が多く、たとえば漫画『ONE PIECE』の作者である尾田栄一郎先生も当社の製品の愛用者として知られています。
——テレビやパソコンではなく、窓を通した風景という点が、創作意欲のようなものを刺激するのかもしれないですね。
姜:窓としての開放感に加え、窓を通したユーザー同士のつながりも大切にしています。同じ風景を見ている人数が表示されたり、各地のリアルタイムの風景を見ることができたりと、風景を通して人と時間を共有できます。
また、現代において“よく住む”ことを考えるとき、ただ自然があればいいというわけではなく、情報とつながっていることも必要です。Atmoph Window2は、Googleカレンダーとの連携や、決まった曜日と時間にアラートができるデイリールーティーン機能など、ユーザーの生活を便利にする機能も兼ね備えています。
2022年の春には、ジェスチャー操作にも対応し、「進化する窓」として、新しい機能や体験をアップデートし続けています。
——御社は2014年創業とのことですが、これまでニーズの変化などはありましたか?
姜:創業当時は窓型スマートディスプレイの魅力を伝えるのに苦労しました。「わざわざ窓で風景を見なくても、現地に行けばいいのでは?」と言われることもありましたね。
しかし、コロナ禍で自由に移動できなくなったり、在宅ワークが普及したりするなかで、「Atmoph Window2から風景を眺めることで旅行に行っている気分になれる」といった声が多く聞かれるようになりました。実際に、個人のユーザーの割合が高まっています。家のなかの環境をよりよくしたいと思う人が増えたのでしょう。
——世界の風景を独り占めできるなんて、贅沢ですもんね。動画作りでこだわりはありますか?
姜:撮影に使っているのは、高画質の6Kのカメラです。現地に当社メンバーが直接行ったり、世界各地にいるプロのカメラマンに協力を依頼したりして対応しています。
ポイントは、すべての動画を人間が窓から自然に見ているようにすること。構図や水平線の位置など、窓からの見え方というのは、人間の目の構造から決まっているものなのですが、YouTubeなどで見るほとんどの動画はそうなっていません。
当社では、人間が窓から見たときと同じ景色になるよう、画角や構図を決めて撮影しているんです。
ユーザー参加型のCG世界への序章「新京都」——リアルさを大切にしているとのことですが、最近ではオリジナルCGコンテンツもリリースしていますね。
姜:ファンタジーや過去の世界、彼方の宇宙など、CGでなければ表現できないものもあると考えたからです。
今後はメタバースのような、ライブかつインタラクティブなCGに取り組むことを視野に入れています。世界各国の撮影風景に加え、2022年3月からは本格的にオリジナルCGプロダクションに参入し、6月に近未来の京都を舞台にしたオリジナルCG世界「新京都」をリリースしました。
——「新京都」とは、どのような世界なのでしょうか?
姜:「新京都」は、京都北部の海沿いに誕生した2060年の未来都市という設定です。空飛ぶクルマやユニコーン型のペットロボットといった未来のテクノロジーをUnreal Engine 5の技術で表現しています。
「多様かつ自由でグローバル」や「緑あふれる地球を取り戻す活動が、都市レベルで義務になっている」など、当社として「こうあってほしい2060年 in 新京都」を表現しています。
——2060年という、遠すぎず近すぎずの未来を考えるのは、難しそうですね。
姜:そうですね。技術的なことよりも、設定を考えることが難しかったです。「2060年って、一体どんな世界になっているのだろう」や「2060年に街で流れているのは、どんな広告なのか」など、いろいろと悩みました。現代とまったく同じということはないでしょうから。
——「新京都」には、コーヒーショップ「MUNE Coffee from Shin Kyoto」もあるそうで。2060年も、人々はコーヒーを愛飲していると考えたのですね。
姜:私たちがコーヒー好きということもあり、「2060年もコーヒーは飲まれているのかな。カフェインが禁止なんてことになっていたら?」「いや、そもそもお店ってあるのだろうか」など、いろいろと考えました。
「新京都」では、コーヒーは“レトロ”な飲み物となり、2060年は何周期目かのブームになっていることにしています。
私たちが普段からよく行く京都のリンコーヒーさんに「2060年の未来にあるカフェのコーヒー豆を現代でも飲めるようにしたい。未来と現在をつなぎたい」と話をしたところ共感してくださり、毎月1日に個数限定でアトモフ公式ストアでコーヒー豆を販売しています。
コーヒー豆にはアラビカ種100%のプレミアムコーヒーを使用しており、苦味と甘味のバランスが取れた、しっかりとした味わいが特徴です。
——今後の展望を教えてください。
姜:「新京都」のみならず、当社オリジナルのCGの世界を、Atmoph Studios(アトモフスタジオ)として展開していく予定です。一番挑戦したいのはドラマ制作ですね。CGでも、実際の俳優を起用してでも、ドラマ仕立てでコンテンツを作っていくということなども考えています。
スマート窓から始まる「家ごとメタバース」
——御社は窓を通して家と世界をつなぐさまざまな取り組みをされていますが、最終的にはどのような空間(家)を作ることをめざしているのでしょうか?
姜:新しい世界を体験してもらうだけではなく現実とシンクロしたバーチャルな世界、さらにはユーザーも参加できるオープンな場所をつくることをめざしています。
「新京都」は、これから展開していくユーザー参加型のCG世界への序章として、窓の向こう側にある未来都市を眺めることで、VRデバイスが不要な「家ごとメタバース」を実現していく布石です。
そこでは、Atmoph Windowが未来の窓として、家庭の新しいインターフェースになると信じています。
(文・和泉ゆかり)
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