AIが画像の人・背景を分別。カメラや言語認識の機能がパワーアップした「Snapdragon 8 Gen 2」
Techable / 2022年12月15日 17時44分
スマホの心臓部とも言えるSoC(System on Chip)。このSoCとしておなじみの「Snapdragon」を開発するクアルコムは、11月に米ハワイ州で次期ハイエンドモデル向けのチップセットになる「Snapdragon 8 Gen 2」を発表しました。
同製品を搭載したスマホは、すでに中国メーカーの一部が発表していますが、日本メーカーではソニーやシャープが対応を表明しており、23年に発売されるスマホへの搭載が期待できそうです。
Snapdragon 8 Gen 2は、AIの処理能力を高めることで、カメラや言語認識といった機能を強化しているのが大きな特徴です。カメラは、「セマンティックセグメンテーション」と呼ばれる新たな機能をサポートします。
これは、チップセットのAIが、撮影した写真の“文脈”を解釈するためのもの。画像に写っているものが、人なのか背景なのか、はたまた建物なのかといったことをリアルタイムに分析します。
そのうえで、こうした要素ごとに画像を分け、最適な処理をかけていきます。人肌だけをより明るくしつつ、空の青みを強調したり、建物のシャープさを際立たせたりといったこと可能です。
こうした加工は、後処理としてソフトウェアでやっていたこと。PhotoshopやLightroomといったアプリはその代表格です。簡単に言えば、こうした作業をスマホ内で完結してしまい、かつ自動化するというのがセマンティックセグメンテーションです。
言語処理の性能も上がり、複雑な文脈をスマホ側が解釈できるようになります。一例を挙げると、「渋谷近辺で明日から2日間宿泊できる、レストランとジムを備えた4つ星以上のホテルを3つピックアップしてください」といった長めの文章を理解し、その答えを返してくれるようになります。
言語解釈にはソフトウェアも必要になりますが、クアルコムは歌の認識でおなじみのサウンドハウンドと提携。各スマホメーカーに対し、実装もサポートしていくようです。
もっとも、同様の機能は、Snapdragon 8 Gen 2以前のチップセットを搭載したスマホで、すでに実現しています。例えばiPhone。アップルは、チップセットに内蔵するNeural Engineで写真を分析し、最適な現像処理をかけていると説明しています。
iPhoneの機能は「セマンティックレンダリング」と呼ばれ、名称こそ異なりますが、Snapdragon 8 Gen 2に実装される新機能に近いと言えるでしょう。Snapdragonを使うAndroidでも、近い機能をメーカー側が独自に実装しているケースはあります。
一方で、ほとんどのメーカーが採用しているチップレベルで対応することで、端末全体の性能が底上げされることになります。言語処理に関しても同様で、すでに音声認識や翻訳などに対応しているスマホは多くありますが、そのレベルが全体として上がることになると言えるでしょう。
こうした機能に加え、Snapdragon 8 Gen 2は、ハードウェアのリアルタイムレイトレーシングに対応。ゲームなどで、光の反射をより正確に再現できるようになります。
こうした先進的な機能をいち早く実装してきたクアルコムは、ハイエンドモデルで高いシェアを誇っています。ただ、その優位性が崩れかかっているのも事実。すでにスマホ向けチップセットのシェアでは、台湾に拠点を構えるメディアテックにシェアを抜かれています。
日本ではあまりなじみのないメディアテックですが、海外では、多数のメーカーが採用している実績があります。コストパフォーマンスの高さを生かし、価格の安いエントリーモデルやミドルレンジモデルに採用されることが多いのが同社のチップセットです。
20年第2四半期まではクアルコムがトップシェアでしたが、第3四半期に逆転。以降はメディアテックがシェア1位を維持しています。一方で、機能性が重視されるハイエンド向けのチップセットでは依然としてクアルコムが強いのも事実。
この牙城を崩そうと、メディアテックは、ハイエンド向けのチップセットの開発にも注力し、徐々に採用が増えています。こうしたチップセットをいち早く採用した中国では、ハイエンド向けのシェアが急伸。22年第2四半期にはその割合も逆転しています。
クアルコムがSnapdragon 8 Gen 2を発表するのに先駆け、メディアテックもハイエンド製品向けの「Dimensity 9200」を披露。先に挙げたハードウェアレイトレーシングを先行してサポートするなど、性能競争も激化しています。
このDimensity 9200を搭載したスマホは、中国メーカーのVivoが開発。Snapdragon 8 Gen 2搭載の端末より早い11月22日に、「vivo X90 Pro」が発売されました。クアルコムが得意としていたハイエンド向けチップセットの競争も、激化しているというわけです。
とは言え、グローバルでは依然としてクアルコムが強いのも事実です。元々、クアルコムはモバイル製品に搭載されるモデムを開発していたこともあり、通信関連の特許を多く保有しています。また、基地局ベンダーやキャリアとのつながりが強く、最先端の通信機能はいち早く採用される傾向にあります。
こうした事情もあり、キャリアが販売するスマホは、多くがクアルコムのチップを採用しています。日本市場は、その典型例です。メディアテックもキャリアとの相互接続試験などに注力しているといいますが、日本のハイエンドモデル市場に食い込むには、まだまだ時間がかかるかもしれません。
(文・石野純也)
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