「デジタル化した地域通貨で行政施策の効果検証が簡単に」デジタル地域通貨展開のポケットチェンジ社松居健太社長インタビュー前編
Techable / 2023年3月23日 18時30分
人口減少や高齢化が進み、行政の効率化が求められる中、今後日本でもますます普及するであろうデジタル地域通貨。全国各地の自治体で徐々に実験的な試みが始まっています。
東京都渋谷区の「ハチペイ」を始め、新潟県佐渡市の地域通貨「だっちゃコイン」、兵庫県朝来市の「あさごPay」、足立区商工会のデジタルプレミアム付商品券、有人国境離島で利用できる電子クーポン「島バウチャー」など、様々な地域通貨導入を行っているのが、株式会社ポケットチェンジ。
同社のサービス「pokepay(ポケペイ)」は、1店舗の小売店から全国展開のチェーン店、地方自治体まで、あらゆる組織が簡単にオリジナル電子マネー・ポイントを発行・管理できるプラットフォームです。
今回は、地域通貨について有数の実績をもつ株式会社ポケットチェンジの代表取締役である松居健太氏に、一般社団法人官民共創未来コンソーシアムの官民共創データ利活用エバンジェリストである川崎浩充がお話を伺いました。
このインタビューは前後編の2回に分けてお届けします。この前編では、「デジタル地域通貨」について伺いました。(取材日:2023年1月26日)
オリジナル電子通貨発行で地域を活性化——ポケットチェンジのサービス概要をお伺いしてもよろしいでしょうか?
松居:当社でご提供させていただいているサービスの1つに、「pokepay(ポケペイ)」があります。地方自治体を含め、様々な事業者の方が簡単に自社のオリジナル電子マネー・ポイントを発行・管理できるプラットフォームです。
小売店・飲食店・商業施設・ビューティサロン・会員施設などのハウスマネー・ポイントや電子お買いもの券・電子回数券、自治体・DMOなどのデジタル地域通貨や地域電子ポイントなど、店舗や施設・コミュニティにおけるDX化、キャッシュレス化の実現、集客・顧客エンゲージメントの実現をサポートしています。
一言で言うと、自分の色のついたデジタルバリューを発行することで、独自の経済圏を構築することができるサービスです。
——地方自治体ではどのような使われ方をされているのでしょうか?
松居:地方自治体では、ここ2年ほど地方自治体のセクターないし、それに近い「商店街や地元で特定業界を盛り上げたい有志の集まり」「街おこしコミュニティ」の方などに広くご利用をいただいています。
地域通貨や、デジタルプレミアム商品券、特定の業界や商店街の中で使えるコミュニティ通貨だったり、様々なかたちでの実装事例があります。一定の事業期間を定めてキャンペーン的に発行する場合もあれば、地域通貨のように恒常的に発行・運用される場合もあります。
——自治体では、キャンペーンでの利用と恒常的な利用はどちらが多いんでしょうか?
松居:通年で恒常的な利用事例としては渋谷区の「ハチペイ」や佐渡市の「だっちゃコイン」がありますが、現時点では事業期間を定めた利用の方が多いかと思います。
とはいえ、プレミアム付地域商品券などの事業期間が定まったものを発行した後、その成功やノウハウを元に通年の施策を検討して動き出している自治体もいくつか出てきている印象です。あるいは、そういったキャンペーン的な施策を毎年行うというパターンも見られます。
——政府が補助金を出している点も大きいですよね。
松居:そうですね。自治体としては、せっかく補助金が出て地域のDX化なりキャッシュレス化を進められるきっかけをもらえたので、それを活用、構築したアセットを今後も上手く活用していこうという機運が生じているように見えます。
——登録された地域住民データなどの資産を次にも活用していこうという考え方があるということですね?
松居:その通りです。登録・利用ユーザーの資産もそうですし、地域通貨や商品券が利用できる加盟店の基盤や、事業・サービスの運用ノウハウも蓄積されているため、それらを再活用して、より大きな結果に繋げたい思いがあるようです。
また、デジタルだと集計が容易かつはっきりと数字が出るので、次回の施策に繋げやすいというのもありますね。
地域通貨のデジタル化によって見えてくるもの——デジタルだと数字が見やすくなるとおっしゃっていましたが、どのような数字が見やすくなって、どんなふうに活用できるのでしょうか?
松居:紙の商品券の場合、どのお店でどれくらいの商品券が使われたかは商品券を回収した際にわかりますが、それ以上のことはわかりません。
これがデジタルになると、どのユーザーIDをもった人が、何月何日何時何分にどのお店でいくらの取引をしたのか、そのユーザーがどんな順番でどのお店を回ったのかといったことまでがリアルタイムにわかります。
——なるほど、使った方の人物像や辿ったルートが見えてくるわけですね。観光地の近隣300メートル圏内くらいで買い物を終える人が多いなとか、そういったこともわかりそうですね。
松居:そういう定性的にはなんとなくわかっていたことが可視化されます。スマホで回答できるアンケートを併用すれば、自己申告ベースですが、どこから来たか、何人のグループで来たか、どんな目的で来たかなどの情報も収集・蓄積することが可能です。
——毎回データを収集して、そこから得られる知見を利用して次の施策に繋げていくことができているんですね。
松居:デジタルだとキャンペーンの効果も計測しやすいので、次に活かすにはもってこいです。たとえば、全国旅行者支援のような、旅行者へのポイント支給の施策の場合、支給額によってユーザーの行動パターンが異なってくることがわかります。
——それは面白いですね。どう違うんでしょうか?
松居:あくまで一例ですが、5000ポイントを支給されると、その人が旅をする前にもともと使うと決めていた場所でポイントを消費することが多いようです。具体的には、宿泊費ですね。ポイントを宿泊費として使っておしまい。
付与額が3000ポイントだと宿代としてはちょっと足りないので、予定通り自分のお財布から払って、貰ったポイントは地域の飲食店やお土産屋さんに使う、といったような行動が起きていそうだということが見えてきました。
これを踏まえると、街中でより消費を促すにはどんなキャンペーンの設計をすれば良いか、どんなかたちでポイントを還元するのが良いのかといったことを考えることができます。
——すごい。毎回そういったことを可視化して、それに対して新たに仮説をもち、次の施策を実行することで、どう変わっていったのかみたいなことも捉えていけるわけですね。
松居:そうですね。観光客向けのポイントの話を例にお伝えしましたが、地域住民の方に向けた施策でも似たようなかたちでの示唆が得られます。
リアルタイムの詳細データが行政の予算配分をより効果的・効率的に松居:産業や観光の振興を考えるのであれば、消費を活性化する、経済を活性化するという文脈でなんらかのかたちでデジタルを使う必要があります。そうした時に、決済や行動データなどを取れることと、地域経済を直接的に、適切に刺激できることは非常に大事だろうなと考えています。
——ポケットチェンジさんのサービスだと、マスに向けてというより、地域住民など特定の方に対して目的をもって、色のついた経済圏を創造するためによりフィットした施策を打ち、効果検証できるということですね。
松居:自治体の様々な予算には目的や使途が明確にあります。観光予算は、地域の観光産業の活性化のために役立っていないといけませんし、子育てのための予算ならば、当然子育てをする人へ貢献するものになっていなければなりません。
しかし、目的をもって組成された予算が具体的に人々の行動にどう影響しているのか、厳密にはどれくらいの効果があったのかは測ることが非常に難しい状況でした。
自治体の予算配分をより効果的・効率的に、効果検証をより厳密に。その観点でも、我々のサービスがお手伝いできることがあると思っています。
——先ほど出てきた渋谷区のハチペイの事例ですと、目的によって使える方を限定することは行われていたのですか?
松居:はい。ハチペイという大きな経済圏の中で、渋谷区内の店舗・施設であれば誰でも使える経済圏、マイナンバーカード認証によって渋谷区民であると確かめられた方のみ使える経済圏、渋谷区へふるさと納税を行った方のみが使える経済圏など、いくつかの色分けされた地域通貨が存在しています。
——今のお話ですと渋谷区という経済圏の中で地域通貨が使えるお店があり、その中でも対象者によってもらえるバリューが変わって、さらにそのバリューが使えるお店というのも制御できるかたちになっていると。
松居:その通りですが、渋谷区内にはペイが色々あっても、お店側はそれぞれ通貨のインターフェース(決済端末・様式)を揃える必要はありません。
1つの店舗用の二次元バーコードやNFCタグで複数の異なる通貨を受け付けることができるようになっています。お店の負担は変わらずに、経済圏の数を柔軟にデザイン可能です。
お店側もユーザー側も混乱することなく、様々なデジタル通貨をシンプルに利用できるようにすることは大事だと思います。
また、ちょっとだけ残ったハチペイのポイントを別の経済圏でも使えるみたいになると便利ですよね。通貨間でバリューの交換や移転ができる方がユーザーにとっては利便性が上がりますので、複数のデジタル通貨間で残高を交換するようなこともできるようになっています。
——デジタルバリューを創り出す主体を増やすと同時に、通貨の乱立によって利用者の利便性が下がるようなことも回避できるよう設計されているんですね。
インタビュー後記地域単位での経済を循環させる意味で、地域通貨の役割は今後さらに重要度が増していくことでしょう。そのような中で、デジタルバリューの活用により各種データを元にした政策実現も可能となることが理解できました。
インタビュー後半は、マイナンバーカード認証を行うことで、デジタルバリュー活用の広がりの可能性と普及への課題について伺います。
(インタビュー後編へ続く)
<インタビュイープロフィール>
松居健太
株式会社ポケットチェンジ
代表取締役
東京大学大学院工学系研究科卒。在学中より、スタートアップ立上げや大規模国際NPOなどの経営に携わった後、マッキンゼーに入社。マネージャーとして、小売流通業界などの事業・組織改革、戦略立案、オペレーション改善等に従事。2010年、(株)チケットスターを創業。設立3年目に取扱高50億、黒字化を果たし、楽天グループに事業売却。15年に(株)ポケットチェンジを共同創業。事業開発、アライアンス、営業、資金調達等、ビジネス面の全般をリード。
<著者プロフィール>
川崎浩充
株式会社Public dots & Company
官民共創データ利活用エバンジェリスト
金融系業務13年、IT系業務を13年経験し現在に至る。1社目のオリエントコーポレーションでは、2000年からpaymentビジネス営業・企画、ECモール運営など実施後、全社横断DXプロジェクト(加盟店軸のビジネスモデルから顧客軸のビジネスモデルへの変革)を推進。
中期経営計画策定を実施後、顧客WEBサービス再構築、金融API設計及びAPI利活用ビジネスの立ち上げから専門部署設立までを遂行。大企業での経営決定プロセスと新規事業構築を経験。
2社目のデジタルガレージでは、新たなテクノロジー・デジタルによるDX事業や新規事業企画の推進と組織スケールを得意とし、ゼロから10年で年60億、100人の組織まで拡大させた実績をもつ。同時に複数の子会社役員の他、5年にわたって複数のスタートアップ支援、メンタリングを行い、次世代事業の創出にも注力。公共領域の新規事業部も設立を行う。
現在は官民共創における事業開発支援や民間データ活用による可視化領域などに従事。
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