創業者は数学者と博士。イスラエルのスタートアップNeuraLight、神経疾患の診断と治療に貢献
Techable / 2024年2月28日 12時0分
2023年は、パーキンソン病研究にとって飛躍の年となった。4月にはマイケル・J・フォックス・パーキンソン病リサーチ財団がこの難病のバイオマーカーを発見したと発表。脳脊髄液中の「α-シヌクレイン」という異常タンパク質を測定することで、初期症状の正確な診断が可能であるとした。8月末にはドイツ製薬大手バイエルが初期の臨床試験で行った幹細胞治療によって症状緩和の兆候を確認したと発表。年末には日本製薬大手の住友ファーマなども人のiPS細胞から作製した神経細胞をパーキンソン病の患者の脳へ移植する臨床試験をアメリカで開始した旨を発表している。
パーキンソン病患者に対する眼球運動測定の有効性を確認同年9月には、パーキンソン病における横断的な臨床結果についてイスラエルのスタートアップNeuraLight社も発表を行っている。診断支援や病状進行のモニタリングを行ううえで、パーキンソン病に対する同社プラットフォームの有効性が研究によって確認されたのだ。
パーキンソン病患者に異常な眼球運動が見られることは数十年前から認識されており、眼球測定法(OM)が臨床評価および診断のための貴重なツールとして提案されていた。しかし、OMと臨床評価ツール、疾患の重症度の相関関係については、最近まで正確には把握できていなかった。
昨年行われた研究では症状の度合いが異なるパーキンソン病患者215人を調査し、NeuraLight社の技術による結果と国際運動障害学会によるUPDRS(統一パーキンソン病評価スケール)を比較。パーキンソン病患者と健康な人とのOMだけでなく、重度患者とそれ以外の患者のOMに差異があることを確認した。パーキンソン病の診断および病状進行の観察にOMが有効であると証明されたのである。
スマホで撮影した顔面の映像から眼球運動測定データを抽出NeuraLight社は、AIと機械学習活用により神経学の臨床開発および診断、精密医療を変革するイスラエルのスタートアップ企業だ。眼球測定データを使用して AI主導のプラットフォームを構築、世界中で10億人以上いるという神経疾患患者に精密なケアを提供している。
眼球測定データの抽出には患者の顔面の映像を用いる。この映像は専門的な医療用カメラなどではなく、ごく一般的なウェブカメラやスマートホンのカメラで撮影したもので構わない。
カメラで患者の顔面の映像を撮影すると、AI駆動プラットフォームがその映像から微細な眼球測定数値をすべて抽出し、客観的かつ高精細なデジタルマーカーが提供される。これらのマーカーを現在使用されている臨床評価項目と組み合わせることで、たとえ遠隔であっても患者の神経学的状態をより正確に把握できるという技術だ。
神経疾患では診断を決定するうえで客観的検査や基準が存在せず、診断ツールのばらつきが大きいため診断までに時間がかかっていた。その結果として誤診率の増加や患者ケアの低下、不適切な治療、医薬品開発の障害につながっている。同社のプラットフォームはこうした現状を打破するものである。
“夢想家”チームを率いる創業者2人は数学者と博士2021年創業、社員数30人以上(うち女性が40%)、現在世界各地に6拠点を持つ同社チームは科学者や起業家、エンジニアから成り、「神経学的評価とケアのデジタル化を実現するプラットフォームの構築」を推進する「夢想家」たちだ。
「数字で見る NeuraLight社」の一覧に「社員犬2匹」という項目を記載する(他の数字としては13テラバイト以上の眼球測定データを収集、100万人を分析、資金調達3000万ドル以上などが挙げられている)同社のオフィス写真からは、カジュアルでリラックスした雰囲気がうかがえる。
共同創業者兼CTOのEdmund Benami氏は連続起業家にして数学者。20年以上にわたって世界水準のチームを構築し、新規AIアルゴリズムの設計や信号処理、コンピューター画像認識、AIなどについて技術上の課題に取り組んできた人物だ。
また、共同創業者で博士号を持つGil Shklarski氏は世界的にも著名な技術者。Flatiron Health(Rocheに売却)のCTOを務めたほか、エンジニア2人だけの技術チームを350人の規模にまで成長させた経験を持ち、専門はソフトウェアやDevOps、IT、セキュリティ、製品設計、データサイエンスなど多岐にわたる。
NeuraLight社はパーキンソン病だけでなくアルツハイマー病、ALS、多発性硬化症にも重点を置いているとのこと。「症状の査定とケアをデジタル化することで神経疾患に苦しむ人々の生活を変える」ことをミッションに掲げる同社。神経疾患の効果的な予防・診断・治療が実現した、人々がより長く健康に暮らせる世界を目指すとしている。
(文・Techable編集部)
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