インド版PayPal?ユニコーンRazorpay、シンガポール政府系投資ファンドから資金調達
Techable / 2024年4月4日 20時0分
インドで現金主義が少しずつ弱まり、オンライン決済が広がりを見せている。インド準備銀行によると、同国の現金流通量は減少傾向にあるという。一方、2022年度のオンライン決済の件数は1000億件を超えた(参考)。この数字は、2018年度の実に5倍近くに当たる。
この状況下で大躍進を遂げたオンライン決済プラットフォームがRazorpayだ。運営会社であるRazorpay Software Private Limited(以下「Razorpay」)は2014年に創業し、2020年にユニコーン企業の仲間入りを果たした。さらに、2022年にはForbes誌の「プライベートクラウド企業100社」にも選出。インド企業で選ばれたのはRazorpayだけだった。
同社はクレジットカードやデビットカードはもちろん、電子マネーやネットバンキング、さらには政府が主導する電子決済システム(UPI)などでの支払いを仲介する。インド版PayPalと言えばイメージしやすいが、税金の支払いや無担保ローンなど、ユニークなサービスも見逃せない。
メディアの注目を集める共同創業者たちRazorpayには2人の共同創業者がいる。CEOのHarshil Mathur氏と、マネージングディレクターのShashank Kumar氏だ。
Harshil氏は大学で機械工学を専攻していたが、プログラマーとしての顔も持っている。学生時代に書いたプログラムの中には、Razorpayで使われているものもあるという。大学卒業後は、フルタイムのエンジニアとして働いていた。
Shashank氏もHarshil氏と同じ大学の出身。Microsoftでエンジニアとしてソフトウェア開発に携わった人物だ。
2人はインドのオンライン決済に変革をもたらすべく起業を決意。「オンライン決済をシンプルに」することをミッションに掲げてRazorpayを設立した。
同社の公式サイトは、インドにおけるオンライン決済の問題点として「規制の複雑さ」「利害関係者の多さ」などを挙げつつ、「ユーザーがオンライン決済に慣れていない」点も指摘。Razorpayのサービスを見ていると、ユーザーにフォーカスし、使いやすさを徹底的に追求しているように思える。
ユーザー重視で順調に成長するRazorpayを率いる2人は、メディアからの注目度も高い。Forbes誌(インド版)の「世界を変える30歳未満の30人」(2017年)、Fortune誌(同)の「世界を変える40歳未満の40人」(2019年)、Entrepreneur誌(同)の「世界を変える35歳未満の35人」(2021年)にも選ばれた。
「おもてなし精神」でシンプルな決済を実現Razorpay公式サイトの支払いのデモを試してみたところ、シンプルそのもので、オンライン決済が初めてでも、直感的に支払いを済ませられそうだった。
こうしたシンプルな仕組みの裏では、さまざまな工夫がなされている。たとえば支払い画面の色は、それぞれの店のイメージカラーが採用されるという。エンドユーザーに違和感を抱かせないためだ。
また、一見すると「問題」とは思えない「ちょっとした不便」にも踏み込んでいる。たとえば、クレジットカード番号をRazorpayに登録しておけば、店が変わっても再度入力しなくても済む。通常は電子マネーを使う際に各電子マネーのサイトやアプリへのログインが求められるが、Razorpayならその必要もない。
店側がRazorpayの支払い画面を導入する場合も、特別なプログラミングの知識は必要ない。テンプレートを選び、必要事項を記入していくだけだ。
Razorpayはこのような「おもてなし精神」で、ミッションである「オンライン決済をシンプルに」を実現している。
PayPalとの提携・マレーシア企業の買収Razorpayはインドだけでなく、世界も見据えている。2020年12月にはPayPalと提携して国際送金を取り扱い始めたほか、2022年2月にはマレーシアのフィンテック企業であるCurlecの買収を発表。2023年7月に「Curlec by Razorpay」の立ち上げを発表し、マレーシアでも決済の仲介を担い始めた。
自国で培ったきめ細かいノウハウは、マレーシアでも大いに活用できるだろう。シンプルな決済より複雑な決済を好む人はいないからだ。
シンガポール政府系投資ファンドから資金を調達Razorpayは2021年4月、シリーズEラウンドで1億6000万ドルを調達し、評価額が30億ドルに達した。この資金調達を主導したのは、Sequoia CapitalとGIC(旧:シンガポール政府投資公社)だった。
一国の政府がRazorpayの今後の成長に期待しているとも解釈できるわけで、GICからの資金調達の意義は大きいだろう。
決済金額の拡大が飛躍のカギかここまで順調すぎるほどの成長を遂げてきたRazorpay。今後、インドでオンライン決済の金額が拡大すれば、同社もさらに飛躍できるかもしれない。
冒頭で書いたとおり、2022年度のオンライン決済の件数は2018年度比で5倍近くになったが、金額は1.3倍程度の伸びに留まったからだ(参考)。少額の決済に好んで使われているのだろう。
インド全体のオンライン決済金額が拡大すれば、Razorpayの収益にも寄与することは間違いない。Razorpayは加盟店の売上に応じて手数料を得ているからだ。とはいえ、Razorpayはローンの取り扱いや海外展開など、収益源の多角化を進めている。次の一手にも注目したい。
参考・引用元:Razorpay
(文・サト)
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