インドのインフラ構築を支える、建築資材調達デジタルプラットフォーム「Infra.Market」
Techable / 2024年4月8日 10時0分
2006年に開業したデリー高速輸送システムなど、日本も長年インフラ構築のための資金・技術協力に携わっているインド。インド政府は、2016年発表のSagarmala Programmeを皮切りに、全土におけるインフラ構築の加速に向けて数々のプロジェクトを打ち出している。
同プログラムでは、インドの国際海上貿易ルートとしての役割を強化することを目的とし、7,517kmに及ぶ沿岸線、14,500kmに及ぶ航路の整備に着手している。
2020年のコロナ禍においては、5つの柱(経済、インフラ、システム、活力ある人口動態、需要)に対する経済刺激策「Atmanirbhar Bharat(意味:自立したインド)」を立ち上げた。
さらに同年8月には、インド全土のインフラを世界水準にし全国民の生活の質向上を目的とするNational Infrastructure Pipelineを打ち出した。同プロジェクトのサイトによると、2024年3月現在、現在に2,000以上のプロジェクト開発が進行しているという。
インド政府の狙いは、インドのインフラ部門における投資機会を世界に向けて発信し、資金を誘致することにある。このような政府の数々の施策により、建設業界も膨大な数のプロジェクトを完結させるためのシステム構築が求められるようになった。
こうした背景から生まれたのが、インド最大の建設資材プラットフォーム「Infra.Market」だ。
建築資材調達の壮大なエコシステム2016年に設立されたInfra.Market。その成長スピードは驚異的で、設立からわずか5年でユニコーン企業となり、現在の評価額は25億ドルである。
同社の強みは最先端のテクノロジーを戦略的に活用し、建設資材の“ワンストップ・ソリューション”を提供している点にあるという。
“ワンストップ・ソリューション”は多くの企業が好んで使う言葉ではあるが、Infra.Marketが網羅している領域とその規模は桁違いである。
川上にある製造においては、セメント、鉄鋼、コンクリート、骨材、建築用化学薬品、パイプなど15以上のカテゴリー製品を100以上の工場で製造し、15以上の自社ブランド、6,000以上のSKUを抱えている。
川中であるロジスティクス分野においては、日々2,500以上の製品配送がある。川下においては、BtoB向け店舗を4,000店以上展開。さらに2022年からは、BtoC向けのフランチャイズを展開しており、現在30以上の店舗がある。2024年には100店舗のフランチャイズ新規契約を目指しているという。
このような壮大なワンストップソリューションを可能にしているのが、テクノロジーによるデジタルプラットフォームの構築だ。
BtoBのアプリでは、建設資材の購入から納品までのサプライチェーンの状況を把握することができる。販売店用のアプリでは、仕入れ、融資、在庫、配送など、すべてを効率的に一元管理することが可能だ。
フランチャイズ店舗では“VR体験”を提供。仮想現実と拡張現実の技術を通じて、顧客は自宅にインテリアを置いたときのイメージを確認できる。
さらに、建築家、配管工、請負業者などのパートナーが効率的に資材を調達し、顧客にサービスを提供するための“インフルエンサープラットフォーム”を提供している。
つまり、Infra.Marketのワンストップ・ソリューションとは、建築資材調達に関わるすべてのステークホルダーを同社のデジタル・プラットフォームに繋げることで、壮大なエコシステムを構築していることにある。
テクノロジーによりサプライチェーンにおけるすべてのプロセスを可視化し、価格の透明性、品質の確保、ベンダーの組織化、精度の高いフルフィルメントを実現しているのだ。
「建築資材調達」という壁にぶつかった友人同士で設立「イノベーションとテクノロジーで建設の未来を再構築する」をビジョンに掲げるInfra.Marketは、 Aaditya Sharda氏とSouvik Sengupta氏によって設立された。
インドの建設業界に10年以上携わっていたSharda氏。2021年公開のYouTube動画によると当時、建築資材のサプライチェーンは地理的に分断化されていて、約80%は地元メーカーが供給しており混沌としていたとのこと。そのような状況の中、次第に業界における資材調達を一元化し効率化を図りたいと考えるようになったという。
一方、建設会社で約5年働いた後、インドの名門ビジネススクールIIM BangaloreでMBAを取得し2016年に卒業したSengupta氏。当時、インドにおけるスタートアップ企業が活況する中、BtoBの領域はほとんど未開拓のままで、そこに大きなビジネスチャンスがあると感じたそうだ。
例えば、鉄鋼とセメントはインド全土で広く入手可能であるにもかかわらず、建設に必要な原材料の供給率は15%程度だったという(参考)。残りの85%を調達しようとSengupta氏は、インドの建築資材のサプライチェーンが複雑で細分化されているという調達の壁に直面したとのこと。
インドにおける建築資材調達の非効率さを体感したSharda氏とSengupta氏。友人であった二人は、サプライチェーンのプロセス全体を可視化するデジタルプラットフォームを構築することに共鳴し、Sengupta氏がMBAを取得したその年にInfra.Marketを立ち上げた。
その設立からわずか5年の2021年には、Construction Worldの「Emerging Company of the Year」、Forbes誌の「Tycoon of the Year」を受賞し、その急成長は、業界だけでなく世界でも認められた(参考)。
Infra.Marketは現在、グローバル展開も拡大しており、ドバイ、シンガポール、イタリアなどにも輸出している。
2023年3月、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現に向けた新たな推進計画を表明した岸田首相。グローバルサウスと呼ばれる途上国のインフラ整備の支援に向け、2030年までに750億ドル(およそ9兆8000億円)以上を投資する旨を発表した。
プラン実現に向け「インドは不可欠なパートナーだ」と強調した日本政府。Infra.Marketは今後、日本とも深い関わりになりそうだ。
参考・引用元:Infra.Market
(文・CANAL KASAI)
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