AIで農作物の需要予測、フィリピン農業サプライチェーンスタートアップKitaの大躍進
Techable / 2024年4月11日 15時0分
「農産物の産地直送」は、さまざまな効果をもたらす。まず、農産物の鮮度を極力保った状態で小売店または消費者に届けることができる。次に、産地の「見える化」を実現できる。転売が繰り返されるうちに産地があいまいになるということが、新興国や途上国の農業で頻繁に起こっていることから、この「見える化」には大いに価値がある。
これはつまり、不当な中間マージンによって生産者と小売業者から搾取するような中間業者を排除する効果もある。じつはここが最も重要であり、農家を含むMSMEs (中小零細事業者)の経済発展を阻害している原因を取り除く必要があるのだ。
こうした背景から、フィリピンで農産物のサプライチェーン改善に取り組む「Kita」というスタートアップが、国際的にも注目を集めている。
20平米の倉庫から始まったスタートアップ2021年、わずか20平米の倉庫からKitaは始まった。20平米は約12畳だから、キッチンやバスルーム、収納を含めたワンルームマンションくらいのスペースだ。創業者はカルロス・ミゲル・“マーク”・コンシオ氏。創業当初は、コンシオ氏自らが母親の中古ピックアップトラックで野菜の輸送をしていたという。
生産者から農産物を預かり、それを小売業者や飲食店に運ぶ。これだけならただのトラック配送業だが、Kitaの場合は生産者向けのデジタルプラットフォームを用意しているのが特徴だ。
AIを使ってデータを算出し、各農作物の需要予測をスマホアプリに表示する機能も有している。需要を予測できるということは、近い将来の商品買取価格も予測できるということである。在庫管理や小売業者との連絡もこのアプリで実行可能だ。
近代化が遅れているフィリピンの農業に、突如として最先端テクノロジーがもたらされることになったともいえるだろう。
AIが農作物の需要を予測仲買人すなわち中間業者が乱立するサプライチェーンでは、生産者は自分たちの作った作物の適正価格を知らない場合が多い。知識不足から悪質な中間業者につけ込まれ、“詐欺同然”のような買取価格を押し付けられるという事態が当たり前のように生じている。
彼らと戦うには、“情報”という武器がなければならない。Kitaに限らず、新興国の農業流通スタートアップは「作物の適正価格を知らせるシステム」を構築している。アプリを開くか公式サイトにアクセスすることにより、「マンゴー1キロは今の時点では○○ドル」といった情報を把握できるのだ。
Kitaの場合は上述の通り、AIを活用した需要予測をサービスとして提供している。これは中小零細の農家にとっては「AIとの初めての出会い」であることが多いはずだ。
20平米から1600平米にたった20平米の倉庫から始まったKitaは、2023年10月にシードラウンド300万ドルの出資を得ることに成功した。
中古のピックアップトラックは、Kitaのロゴがペイントされた専用のトラックになった。倉庫も温度調整設備を備えた1600平米の巨大貯蔵庫兼オフィスに変貌。Kitaと契約する小売業者も、食品メーカーやレストラン、ホテルといった施設が名を連ねるようになった。何より、1万以上の農家がKitaを利用している点が最も重要である。
フィリピンはそもそも、気候にも土壌にも恵まれた土地で構成された島嶼国家である。農業分野は巨大な雇用を創出し、GDPを稼ぎ出すことにも貢献している。一方で、あまりに非効率かつ理不尽な流通過程が農業の発展を阻害していたのも事実だ。
新興国の農家にまとわりつく中間業者問題は、巡り巡って児童労働問題にもつながっている。家が貧しいと、子供たちは学校を休んで家業を手伝わざるを得なくなる。サプライチェーンの改善は、教育問題の解消をも促すことをここで確認しておく必要がある。
そのうえで、Kitaはまだシードラウンドを終えた段階である点にも注目するべきだろう。今後シリーズA、シリーズBと進んでいく中で、ますます事業を拡大していくはずだ。フィリピンのアグリテック分野は、それまでの遅れを取り戻すだけでなく世界最先端の仕組みを構築している。今後のグローバルな躍進にも期待したい。
引用元:Kita
(文・澤田 真一)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
ついに「農協崩壊」がはじまった…農林中金「1兆5000億円の巨大赤字」報道が示す"JAと農業"の歪んだ関係
プレジデントオンライン / 2024年7月3日 18時15分
-
農産物出荷先とのデータ連携をしている農業者が”約7割”に到達
PR TIMES / 2024年7月3日 10時45分
-
成長著しい「東南アジア経済」に貢献した500社…「フィリピン」からは38社がランクイン!
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月24日 7時15分
-
UAE国家政策の一翼を担うアグリテック|Silal、農家と協力し戦略的に食料備蓄へ
Techable / 2024年6月21日 8時0分
-
国際的な総合科学誌Natureの記事広告でAGRI SMILEのバイオスティミュラント技術が特集されました
PR TIMES / 2024年6月20日 18時15分
ランキング
-
1マクドナルドが「ストローなしで飲めるフタ」試行 紙ストローの行方は...?広報「未定でございます」
J-CASTニュース / 2024年7月17日 12時55分
-
2申請を忘れると年金200万円の損…荻原博子「もらえるものはとことんもらう」ための賢者の知恵
プレジデントオンライン / 2024年7月17日 8時15分
-
3「再配達は有料に」 ドライバーの本音は
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月17日 6時40分
-
4大谷翔平の新居「晒すメディア」なぜ叩かれるのか スターや芸能人の個人情報への向き合い方の変遷
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 20時40分
-
5「380円のデザートを10人で分けて…」“ラーメン屋でラーメンを頼まない”ヤバい客の実態を店主のプロレスラーが赤裸々証言
文春オンライン / 2024年7月17日 11時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)