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イスラエルMindTension社、EMG活用デバイスでADHD診断を“正確な科学”に

Techable / 2024年6月8日 18時0分

ADHDに関する認識と関心の高まりにともない、世界的に診断率が上昇し続けている。特に増加傾向の強い日本では、大人も子供も診断に詰めかけクリニックの混雑が続く状況だ*。

しかし、ADHDの診断には複数回の受診が必要で時間がかかるうえ、診断結果が明確でない場合もある。血液検査や脳波検査、画像検査などの“客観的”な手段が使えないうえ、過剰診断や誤診を問題視する専門家も多い。

このようなADHD検査の現在の在り方に疑問を唱えるイスラエルのスタートアップMindTensionが独自のデバイスとソリューションを開発した。 臨床医がADHDをより効率的かつ正確な方法で評価・診断・治療できるようになり、客観性・信頼性の高い良心価格の診断を可能にするという。

EMG(筋電計)を使って注意力を測定

MindTensionはイスラエル南部のキブツ(共同体)ニルアブを拠点とするデジタルヘルス企業で、医療デバイスを開発している。「テクニオン」の通称で知られるイスラエル工科大学での研究活動から生まれたスタートアップで、設立は2020年。

イスラエル最古の大学にして世界最高峰の工科大学で、世界有数の科学者たちが12年にわたり研究に取り組んだ結果、独自のアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを用いたデバイス「MindTension」と診断プラットフォームによって迅速かつ超高精度の注意力測定を行う。わずか5~6分でADHDの兆候を検出可能だとしている。

MindTensionは、EMG(筋電計)システムを活用するもの。まず、デバイスを介して聴覚情報で脳幹を刺激する。次に、独自アルゴリズムを使用してまばたきを含む眼輪筋の微小な動きを追跡、観察する。聴覚刺激に対する脳幹の反射および抑制のレベルで注意欠陥の度合いを測る。音に対する驚きの反射が大きいほど、あるいは抑制レベルが低いほど注意力が低いということになる。

視覚情報に対する意識的な行動を調べる従来の検査とは対照的な、聴覚情報に対する無意識の反射に注目するアプローチだ。生理学に基づき注意力を数値で測定することで、“不正確な科学”だった注意力検査を“正確な科学”に変えるという。

不正確で主観的な現在のADHD診断方法を問い直す

MindTension社の主張によると、「現在のADHD診断は“不正確な科学”」であり、「業界で標準とされている検査は患者側の協力に依存」し、「数百もの神経経路がからむ複雑な行動に依拠しているため正確性が劇的に下がる」。

ADHD業界で用いられるコンピューターによる検査は、主に視覚刺激に対する被験者の反応を分析するが、この反応は脳の複雑な回路を経たもの。診断の支援になるよう設計されているが、精度が不十分で扱いにくく、複雑かつ主観的であるという。

現在のADHD診断は、アメリカ精神医学会が作成する「DSM-5」(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)の基準に基づき、臨床医が“主観的”な情報を組み合わせて下す。「診断には不確実性や不正確性があり時間がかかるため、患者や家族のみならず医療制度、保険会社、ひいては社会全体に苦痛と不要なコストを生じさせる」というのが同社の指摘だ。

正確な検査で治療薬処方の最適化を実現

MindTensionが検査の正確性にこだわる理由は、薬剤処方の最適化を図るためだ。ADHDの治療薬である「コンサータ」(メチルフェニデート)や「ストラテラ」(アトモキセチン)、「インチュニブ」(グアンファシン)などには動悸や心拍数上昇、めまい、眠気などの副作用もある。過剰・過小な投与では、患者にとって困難が生じてしまいかねない。

そこで、MindTensionの正確な検査結果と診断支援によってADHD治療薬の処方が大幅に改善されるというわけだ。一度の診察で治療薬の効果を測定してその場で調整を行うことで、必要な薬の最小有効量を特定し、効果を最良化できる。ADHDの症状を管理し、日常生活での困難・課題に患者がうまく対処できるようにするという、治療薬の本来あるべき効果が発揮されるのだ。

ADHDの治療薬は注意欠陥だけでなく感情の調節障害を改善することもできる。発達障害を持つ人の中には感情を調節するのが苦手で、極端な感情表現のせいで家族や友人、同僚との関係が悪化してしまう人もいる。感情調節不全を定量化できるMindTensionによって最適量の治療薬処方が実現すれば、子供にとっても成人にとっても大きな助けとなるだろう。

注意力が必要な職業分野にも応用可能

MindTension社はADHDを第一のターゲットとしているが、公式サイトにはその他のロードマップとしてメンタルヘルスの問題や症状を検知するアルゴリズムの作成も挙げている。

さらに、医師やパイロット、長距離ドライバーなど高い注意力を必要とするさまざまな職業分野にも同社のデバイスとシステムを応用する予定とのことだ。航空会社や病院で働く人々、重機作業などに従事する人員の注意レベルを評価することで、就業に適した状態かどうか確認が可能になるという。

Israel21cの報道によると、MindTensionのデバイスはアメリカでFDA承認プロセスを進めており、2024 年中には承認が下りるだろうとのこと。また、1月にはニューヨークはマンハッタンにあるマウントサイナイ病院にて共同臨床研究プロジェクトをローンチしたことが同社LinkedInで発表されている。開業から160年以上の歴史を持つマウントサイナイ病院は、マウントサイナイ医科大学の附属病院にしてADHD研究の世界的なリーダーだという。

その数か月後には、オーランドで開催されたAPSARD ADHD(ADHDおよび関連障害の米国専門家協会)カンファレンスにも参加。Psychiatric Timesによると、この会議ではアメリカ初の成人向けADHD診断・治療のガイドラインの開発についてディスカッションが行われた。MindTensionがメインマーケットとするアメリカでは、これまで正式な評価方法と臨床ガイドラインがない状態にもかかわらず成人のADHD診断が急増していたのだ。

今年中に公表されるというこのガイドラインの内容次第では、同社のアメリカでの事業に大きな展開が見られそうだ。

引用元:MindTension

*アメリカの全国人口調査では、1997年から2016年までの20年間で有症率が6.1%から10.2%に増加したことが判明(National Library of Medicineの2022年レポート)。日本の増加傾向はさらに顕著だ。2022年に信州大学医学部が発表した調査結果では、2010~2019年度の間にADHDの年間発生率が0~6歳の子供で2.7倍、7~19歳で2.5倍、20歳以上で21.1倍に増加。文部科学省の「令和2年度 通級による指導実施状況調査結果」によると、2008年に3406人だった注意欠陥多動性障害の児童数が2020年には3万3827人とほぼ10倍に増加している。

(文・Mickey Ohtsuki)
危険と言われる南ア・ヨハネスブルグを拠点にアフリカ南部を飛び回って帰国後、199x年代から産業翻訳のフリーランスを始め、2000年からテクニカルライター/Webライター業も開始。世界各地のスタートアップには、ちっぽけな探求者たちが巨大な既存勢力と戦うロマンがある。『なんでも評点』筆者。

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