アプリ「FlyFin」、AIと人間のタッグがアメリカでの税務・確定申告を効率化
Techable / 2024年5月12日 8時0分
アメリカの税務・確定申告関連サービスは堅調な伸びを示している。IBISWorldが2023年10月に発表したレポートによると、過去5年間に年平均3.2%で成長し、2023年の市場規模は139億ドルに達している。2024年から2029年にかけても拡大を続ける見込みだという。
そんな中、主にフリーランスや自営業者向けに税務・確定申告のサービスを提供しているのがFlyFin AI社だ。アプリを銀行口座と連携すれば、AIが支出を自動的に検出・分析し、経費に計上・控除対象にするかどうかを聞いてくる。
人間が手作業で税務・確定申告を行うと、経費の申告を忘れてしまうケースがあるが、FlyFinならその心配もない。取りこぼしがなくなり、節税にもつながるという。同社によると、FlyFinユーザーは平均で7800ドルの節税に成功している。
「税務申告ぎらい」が創業・アプリ開発のきっかけにFlyFin AIは2020年創業。共同創業者でCEOのJaideep Singh氏は、IBMなどでエンジニアやプロダクトマネージャーとして経験を積んだあとに独立した連続起業家。FlyFin AIは、彼が立ち上げた3社目のスタートアップだ。自身の経験から、フリーランスや自営業の税務・確定申告の大変さを理解していた。
Startup SavantのインタビューでSingh氏は、会社員時代には40分で終わっていた手続きが独立後は非常に煩雑になったと語っている。自身で行わなくてはならない税務申告手続きをつい先延ばしにしてしまい、申告期限の4月に間に合わず延滞金を支払うこともあったという。クレジットカードの明細やレシートなどのデータをスプレッドシートにまとめ、公認会計士に提出する作業が億劫だったのだ。また、公認会計士に支払う1500ドル(約23万円)という出費もネックだった。
エンジニアであり起業家である彼は、これを「AIや自動学習で解決できる問題」と捉え、税務・確定申告を自動化すれば大きな恩恵をもたらすことができると考えた。自身の苦労が、FlyFinの創業につながったわけだ。
FlyFinは2021年に800万ドルの資金調達に成功。 2023年にはBIG INNOVATION、REAL SIMPLE SMART MONEY AWARDS、US FINTECH awardsと数々の賞を受賞した。今やユーザー数は25万人を超えている。
AIと人間(公認会計士)で税務・確定申告を徹底的に効率化FlyFinは「税務・確定申告をAIで自動化」というアイディアから生まれたアプリだが、実際にはAIと人間(公認会計士)の双方の強みを生かしたサービスだ。
FlyFinを銀行口座と連携することで、仕訳が必要な支出が発生するたびに通知を受け取ることができる。アプリを開くと、AIが勘定項目を提案。提案が正しければそのまま受け入れ、間違っていれば他の勘定項目を選ぶことでAIがさらに学習を進める。
とは言え、経費に含められるかどうか、判断のつかない取引もあるだろう。例えば同社の公式YouTubeチャンネルでは、俳優をしているユーザーからの「Netflixの料金は経費になるか」という質問に対し、「俳優業で演技を学ぶための契約であれば経費になる」と回答している。
まさにケースバイケースで、AIに判断を任せるのは不安だろう。そんなときは、「人間」の出番となる。
FlyFinは公認会計士のチームを抱えていて、支出ごとにテキストベースで相談できるのだ。さらに、税務・確定申告も公認会計士が代行してくれる。万が一、税務調査が入った際にも公認会計士が間に入ってくれるなど、無料でサポートしてもらえる。
このようなサービスが1か月16ドル(年間192ドル)で使える。Jaideep氏が公認会計士に支払っていた1500ドルと比べると雲泥の差だ。しかも、FlyFinには返金保証まである。
日本でもFlyFinのようなサービス登場が待たれる日本にもAIで確定申告を効率化できるアプリがある。Taxnapという1ヵ月あたり980円のサブスクリプション・サービスだ。筆者も実際に使ってみた。金融機関と連携すれば、支出が発生した時点で通知が入り、勘定項目の提案とともに経費に含めるかどうか聞いてくる。ここまではFlyFinと同じだ。
しかし、Taxnapでは日々の支出について個別に相談はできない。税理士の出番がくるのは税務調査が入るリスク診断の際だけだ。この診断はTaxnapで確定申告書を作成した場合のみ、追加で1万9800万円を支払えば利用できる。
とはいえ、診断結果について質問することは一切できない。診断してくれた税理士とやり取りをするなら、より高額な顧問契約を検討する必要がある。筆者の場合は「税務調査が入るリスクはほぼゼロ」とのことで少しは安心できたが、保証があるわけでもない。Taxnapが税理士との距離を縮めてはくれるものの、まだまだ遠い存在に感じられるのが正直なところだ。
Taxnapの月額980円を1年間払って、さらに診断を受けると3万円を超える。FlyFinの年間費用192ドルを2024年4月の為替レートにて換算すると約3万円。金額はほぼ同じだが、安心感は比べるべくもないだろう。日米では税制度および状況が違うのだろうが、日本でもFlyFinのように税の専門家と気軽にコミュニケーションが取れるサービスが生まれることを期待したい。
引用元:FlyFin AI
(文・里しんご)
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