Ricult、衛星×AIを駆使して新興国の農村を支援。農家対象の金融事業も
Techable / 2024年5月19日 10時0分
日本は世界的に見ても、気象観測システムが充実している国ともいえる。雨雲レーダーやアメダス(地域気象観測システム)だけでなく、日本独自の気象観測衛星も打ち上げている。農家は日々の天気予報を見れば数日後までの詳しい天候の変化を知ることができ、その情報を農場の管理に活用できる。
自国の気候に寄り添った人工衛星を開発でき、しかも自国のロケットで宇宙まで打ち上げられる国は世界では少数だろう。
だが、そうした状況も近いうちに変化するかもしれない。アメリカに拠点を置く2016年設立のスタートアップRicultは、人工衛星とAIを駆使して新興国の農村に技術革命をもたらしている。
人工衛星とAIを駆使前述でRicultを「アメリカに拠点を置くスタートアップ」と紹介したが、経営者はマサチューセッツ工科大学の学生だったタイ出身のAukrit Unahalekhaka氏とパキスタン出身のUsman Javaid氏だ。従って、それぞれの出身国とベトナムにてRicultを運用している。
Ricultは、衛星画像や気象情報などをAIで分析し、農園の状態や収穫時期を予測・情報提供する。毎日の天候や異常気象に対する警戒、予想収穫量、それらのデータを基にした専門家のアドバイスもユーザー(現地の農家)に提供する。
それらのデータが表示されるのは、スマホアプリ上。Ricultのプラットフォームを取り入れた農家は、農園管理に関する最新の情報をいつでもスマホで確認できるのだ。もちろん、遠方にいたとしてもインターネット環境さえあれば自分の農園の現状を知ることができる。
すでに500万エーカーの農地を分析してきた実績を持つRicult。これまでサポートしてきた農家の数は60万近くにのぼる。
農家対象の金融事業もRicultは天気予報や農業衛星情報の提供だけでなく、農家に対する金融事業も行っている。
これは新興国の農業関連スタートアップに共通することだが、オンライン分析サービスを普及させるには金融事業の展開も考慮しなければならないという事情がある。
全国各地に地方銀行や信用金庫、組合の支部がある日本とは違い、東南アジアや南アジアの国々の一次生産者は当初から「頼れる金融機関」を持たない場合が多い。融資がないために新しい農地を購入することも機材を揃えることもできず、貧困から抜け出せないままという例は珍しくない。逆に言えば、トラクターを購入する資金さえ工面できれば収穫量は飛躍的に増えるはずだ。
Ricultは、そうした農家に対して50万ドルの経済支援を行ってきた。
日本からも出資先にも触れたRicultの異常気象検知システムは、衛星画像などのデータからAIが起こり得る現象を分析するというものだ。
AIは日々学習し、賢くなっていく。今やAIで文章を作成することができ、イラストも描けるということは誰しもが知るところになった。いずれは人間の気象予報士よりも精度の高い天気予報も提供できるかもしれない。また、異常気象が頻発している現代においてAIによる予測はもはや欠かせないものになっている。
そんなAIを活用しているRicultは、世界各国の投資家から注目の視線を集めている。日系企業も例外ではなく、2021年5月には日本の双日がこのスタートアップに出資している。
人工衛星とAIを組み合わせ、その上で金融事業も展開するアグリテックスタートアップは、食料危機の可能性を本気で想定せざるを得なくなった我々現代人に大きなヒントを与えてくれるだろう。
ここ数年は異常気象や動乱・紛争の勃発などで食料価格が高騰し、それに応じて「農業の効率化・近代化」が強く要望されるようになった。Ricultは、そうした世界的課題を解消する急先鋒になり得るスタートアップと言えよう。
参考・引用元:
Ricult
双日株式会社
(文・澤田 真一)
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