牛のゲップからメタンを取り除くワクチン開発、ArkeaBioがビル・ゲイツ氏創設BEVから資金調達
Techable / 2024年5月22日 18時0分
牛は大量のメタンを放出する動物である。そのため、乳牛および肉牛を生産する畜産業は、地球温暖化の要因の一つに数えられている。
だからといって、牛肉や乳製品の生産・消費を急にやめるわけにもいかないので、最近の酪農分野では牛に与える飼料の工夫が行われている。今回紹介するアメリカ・マサチューセッツ州のスタートアップArkeaBioは、それとは全く異なるアプローチでメタン削減に挑戦している。
ArkeaBio社は抗メタン生成ワクチンを開発しているのだ。
牛が大量のメタンを放出する構造本題に入る前に、牛が大量のメタンを放出する理由を農業・食品産業技術総合研究機構の公式サイトを参考にしながら述べていこう。
牛が持つ4つの胃のうち、第一胃と第二胃には多くの微生物が存在している。それが牛の食べた飼料を分解し、牛が栄養として吸収できる形にする。さらに、微生物自体が増殖しながら第三・第四胃へ流れていき、牛のタンパク源になる。その過程で、二酸化炭素や水素などのガスが副産物として発生。水素はメタン古細菌などの作用でメタンになっていく。最終的に、このガスはゲップやおならという形で体外に出される。
食べたものを複数の胃の中で段階的に発酵させていくという、非常に合理的な構造なのだが、現代ではそれが地球温暖化を加速させているとのこと。
「ゲップの中身」を変える技術ならば、メタンを生成する菌を抑制すればいいのではないか。
この着想に基づきArkeaBioが開発したワクチンは、意図的にメタン生成菌の数を減少させて温室効果ガスの放出をセーブするというものだ。ArkeaBioが開発したワクチンを投与された牛は、「クリーンなゲップやおなら」をするようになる。
このワクチンには今のところ商業段階でのまとまった実績こそないが、メタンの排出を抑制できれば地球温暖化問題に相当の効果があるのではないかと期待されている。
アメリカ環境保護庁EPAの発表によると、2022年にアメリカが排出した温暖効果ガスの約8割は二酸化炭素で、メタンは11%に過ぎない。しかし、メタンの温暖効果は二酸化炭素の25倍と言われるほど強力。家畜によるメタン排出量を二酸化炭素換算すると年間30億トンを上回り、これは全世界で発生する温室効果ガスの約6%に相当するという。
ITジャイアンツのファンドが資金提供牛のゲップやおならはさすがに止められない。代わりに「ゲップの中身」をどうにかしよう。こうした発想の転換から生まれた技術は、世界中の投資家から熱い視線を集めている。ArkeaBioは5月8日にシリーズA投資ラウンドで2650万ドルの資金調達を発表したばかり。
このラウンドを主導したBreakthrough Energy Venturesは、Microsoftの創業者ビル・ゲイツ氏が設立したファンド。資金提供者にはAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏、ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏、アリババ創業者のジャック・マー氏、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏など、国際的な影響力を持つ巨人が勢ぞろいしている。
Breakthrough Energyが目指すのは、気候変動問題の解消に直結するスタートアップの発掘だ。これまでの出資先を見ると「低炭素コンクリート製造」や「空気中から飲料水を生成」、「低価格材料で作るバッテリー」といった、地球環境保護のための新テクノロジーを取り扱うスタートアップがズラリと並ぶ。
今までの食習慣を変えることなく、温暖化問題解消に大きく貢献しようとするArkeaBioの抗メタン生成ワクチン。ようやくスタートラインに立ったばかりの新技術だが、その動向は注目に値するはずだ。
参照:
ArkeaBio
(文・澤田 真一)
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