【人とくるまのテクノロジー展 2024】子供の車内置き去りを防止するレーダー式検知センサー、SMKとカナダPontosenseが共同出展
Techable / 2024年5月29日 17時0分
社会問題となっている“自動車への子供の置き去り事故”。JAFの2023年の調査データによると子供を残して車を離れたことのある人は全体の54.9%にも上り、事故の危険性がうかがえる。また昨年4月に保育施設の送迎バスへの置き去り防止装置設置義務が課せられたのも記憶に新しい。
世界的でもこうしたトラブルは問題となっており、自動車内で子供が熱中症で死亡する事故のうち55%が無意識の置き去りによるものというデータも。深刻化に伴い、子供置き去り検知機能を義務化する州も出てきている。
この問題を解決すべく各国で標準化や規制化が進んでおり、その波は部材メーカーにも押し寄せている。
日本の電子部品メーカーSMKとカナダのスタートアップPontosenseは、AIやミリ波レーダーを活用した「子供置き去り検知センサー」を、5月22~24日に開催された『人とくるまのテクノロジー展 2024』に出展。デモンストレーションを行った。
今回はSMK イノベーションセンター事業開発部2課・瀬戸 雅英氏に技術や仕組みをうかがった。
Euro NCAPの要件を満たす高感度の「子供置き去り検知センサー」ヨーロッパでは新車の性能や安全性を評価する「Euro NCAP(European New Car Assessment Programme)」に子供の置き去り検知機能が昨年に追加された。「子供置き去り検知センサー」は、その要件を十分に満たすセンサーだ。
同製品を車の天井に設置することで、乗員の有無、乗車人数、乗車位置、子供か大人かを判断する体格判別まで、わずか5秒で判定できる。
これまでは人を検知する際にカメラや重量センサーが使われることが多く、特に現在規制されているシートベルト未着用のシートベルトリマインダーの多くは重量センサーが使用されている。
しかしこれらのセンサーだけでは、子供の置き去り検知には不十分で、カメラには死角ができてしまうし、子供と荷物をうまく識別することも難しい。
一方、「子供置き去り検知センサー」は60GHz帯 FMCW方式レーダーを使用しており、ベビーシートに固定された赤ちゃんも識別できる。ベビーシートは前向き・後向きに設置されたり、子供に掛けた毛布で本体が見えづらくなったりと、カメラの設置位置によっては見えない場合もあるが、レーダー式であれば検知が可能だ。
もし置き去りが検知された場合には、車両に対してアラートを鳴らすだけでなく、エアコンを起動させる仕組みになっている。特にエアコンの起動はEuro NCAPに規定されており、EVの普及が進むヨーロッパならではの機能。
また同製品はシートベルトのリマインダーのほか、防犯機能も搭載している。この防犯機能は侵入者を検知するもので、車両が施錠されている状況で車室内または車両の周辺に人がいることを検知し、アラートで警告する。
『人とくるまのテクノロジー展 2024』でのデモの様子実際のデモの様子を紹介しよう。
デモでは心電図、呼吸を感知できるようにしたベビーシートに乗せた赤ちゃんの人形にセンサーが反応している状況を見ることができた。
想定されているGUIはその大きさなどから赤ちゃんであることをしっかりと検知しており、精度の高さがうかがえる。テスト映像ではシート下の子供もしっかりと検知する様子が見られた。
デモ画面ではGUIをPCに表示する仕組みになっていたが、「将来的には社内通信のCANにつながって自動車や外部機器との連携も可能だ」という。車のダッシュボードで確認するのはもちろん、カギを閉めたあと、スマホで確認することが想定されている。
運転手のストレスや眠気、状態異常を検知する「生体情報検知センサー」今回のイベントでは、SMKとPontosenseのもう一つのプロジェクトとして、「生体情報検知センサー」も同時に紹介された。
こちらは「子供置き去り検知センサー」と同じく、電波によるセンシング技術を活用したセンサー。シートの中に埋め込むことで、乗員のバイタルデータ(心拍、呼吸、心拍変動)で健康状態を把握できる。
レーダー技術を利用し、非接触で生体情報を取得できるため、乗員の負荷も少ないのが特徴。特に「車の振動や乗員の体の動きなども考慮されたアルゴリズムで検知しているため、走行中でも使用可能」というところが差別化のポイントだ。
この検出されたバイタルデータから疲労度や眠気、車酔いなどの健康状態を推定でき、ドライバーの不調に対してアラートといった何らかのアクションを起こす仕組みだ。ストレス、眠気であれば香りや車内照明を利用して運転に集中できるように促すという活用が想定されている。
特に心臓発作など、突如運転ができなくなる予兆を発見し、車を路肩に止めるよう促したり、将来的には自動運転に切り替わり、強制的に手動の運転を止めて対処したり……などの活用も想定されている。
この製品もレーダーである必要性は高い。カメラでは「眠い」といった事象はとらえられるが、車内の明るさをはじめとする環境の影響を受けやすく、正しく検知できないシチュエーションもある。またウェアラブル端末を着けての計測も考えられるが、それらを非装着で運転してしまうケースも多いだろう。
レーダーであれば車に常備されていて、表面に出るサインよりも先にバイタルデータから予測できる。
デモ映像では同製品と比較用センサーによる心拍、呼吸数を計測していたが、停止時でプラスマイナス5%、運転時でもプラスマイナス10%と誤差はわずかで高い精度がうかがえる。
このソリューションは、一般はもちろんのこと、ドライバーを抱えるタクシーや運送業などにも有効だという。
開発はオープンイノベーションの取り組みからスタートもともとSMKはカメラやコネクター、タッチパネル、通信モジュールなどを取り扱う部材メーカー。
これまで、より安全性の高い社会に向け、オープンイノベーションの活動を通して多くのスタータップの最先端の技術とSMKの持つ量産製造、販売のコラボレーションという新規事業開発に取り組み、多くの実績と経験を積み重ねてきた。
年間1000社以上もの欧米、イスラエルのスタートアップ企業の技術を探索し、各種技術検証、PoC、量産化に向けた活動を続けている。
その一環として、2022年6月よりPontosenseと「子供置き去り検知センサー」「生体情報検知センサー」において協業を検討、同年12月よりPoCを進めて今回の発表に至った。
どちらの製品も2~3年後には量産、普及が見込まれるSMKとPontosenseは2026年に「子供置き去り検知センサー」、2027年に「生体情報検知センサー」の量産化を目指している。
「子供置き去り検知センサー」はここ2~3年で世界的に義務化が進むとみられるという。一方「生体情報検知センサー」は「子供置き去り検知センサー」ほどスピード感がないものの、それでも2027年から2028年には量産、普及が見込まれている。
SMKの顧客の多くは国内外の完成車メーカーに直接部材をおろしているTier1部材メーカー。現在はその数社からの引き合いがあり、さまざまな要件を検討し製品のブラッシュアップが行われている。
特に両件とも確実性が重要で、子供の置き去りに関しては100%の検知が求められる。それでもこの数年の間にバージョンアップしていき、多くの完成車に搭載され、安全な車社会が築かれることが期待される。
参考・引用元:
SMK
Pontosense
PR TIMES
子供置き去り検知センサー紹介ページ
生体情報検知センサー紹介ページ
(文・亀川将寛)
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