イスラエル医療テックAISAP、エコー検査AI支援で医療格差解消に貢献
Techable / 2024年6月12日 16時0分
日本人の死因として、トップの癌に次いで15%を占める心疾患。世界全体で見るとこの比率はほぼ倍増し、2021年には全世界の死亡者数約3分の1に相当する2050万人が心疾患で死亡している(World Heart Report 2023より)。
心疾患に限らず、病気を早期発見するには超音波検査が不可欠だ。しかし、スキルのある医師不足により診断を受けるまで数か月かかることも。POCUS(Point of Care Ultrasound)であれば観察範囲をしぼった短時間での検査を検査室外の救急現場などで行えるが、「専門家しか使用できない」という根本問題は解消されていない。
そこで、専門家以外でも迅速で正確な診断ができるソリューションを開発したのが、イスラエルの医療スタートアップAISAPだ。既存のPOCUSデバイスと異なり、心臓血管系内の特定の弁でさえも詳細かつ正確に診断できるという。
同社は2024年5月にシードラウンドで1300万ドルの資金調達を行なったばかり。
AISAPが開発したソリューションは、超音波検査をサポートするクラウドベースのSaaS型プラットフォーム「POCAD」だ。主に2つの機能を提供するもので、患者と接して超音波検査を実際に行う臨床医の支援、およびAI画像解析による診断が可能となる。
検査時にはリアルタイムでガイダンスが提供され、診断に最適な画像をスキャンできる。撮影が完了すると、画像はクラウドに送信されAIによって解析される。解析結果は数分以内にレポートとして医師に返されるという。
POCADで用いるAIモデルは、2400万本以上のビデオクリップから成る30万件以上の研究データで訓練されたもの。Mayo ClinicやPoriya Instituteなど、アメリカやイスラエルにある医療機関の専門家によって検証されている。
さらには、Newsweek「Worlds Best Hospitals 2024」で第9位にランクインしたイスラエルの医療機関Sheba Medical Centerでも有効性の検証が行われた。アメリカのCrozer Medical Centerの救急部門での製品導入も進んでいる。
技術と医療のエキスパートが集まるチームAISAPはベテランのエンジニアや医師らが集まって2022年に設立されたスタートアップだ。
CEOを務めるRoni Attali氏は生理学や神経学分野での博士号とMBAホルダー。CTOのAdiel Am-Shalom氏はイスラエル軍8200部隊出身の凄腕エンジニアだ。また、戦略委員会を率いるTamir Pardo氏は同国諜報機関モサドで長官を務めた人物。
共同設立者のうち3人は心疾患を専門とする医師でもある。Robert Klempfner氏およびEhud Raanani氏はそれぞれ、Sheba Medical Centerの心臓リハビリテーション研究所・心血管予防研究所および胸部・心血管センターの現役ディレクター。同じくShebaで心臓リハビリテーション研究所ディレクター経験を持つEhud Schwammenthal氏は連続起業家でもある。
AIエンジニアと医師からなるプロフェッショナル集団である同社チームは、現在総勢20名以上となっている。
より多くの人への高度な医療の提供に向けて上述の「World Heart Report 2023」の冒頭では、最も必要とする国や層が先端医療にアクセスできていない医療格差の問題が指摘されている。心血管疾患が由来の死亡のうち5件に4件が低・中所得国で起きている一方、高度な医療は高所得国に集中している状況だ。
POCADを開発したAISAPはまさに、誰もが高度な医療にアクセスでき、世界中のどこでも質の高い医療が受けられる社会の実現を目指している。
共同設立者の医師3人が専門とするのは心臓だが、スケーラブルなインフラを導入したPOCADは当然ながら心臓以外の臓器についても即時診断を可能にするもの。VentureBeatの記事にもあるとおり、初めは専門分野である心臓病治療を中心に、ほかの臓器についてもサービスを拡大していく予定だ。
現在すでにイスラエル国内の医療施設で利用されているPOCADは、FDAの承認が得られしだいアメリカ市場でもローンチされる予定だ。医療へのアクセスを平等なものにし、より多くの人を病から救うことができるのか。同社の今後の取り組みに期待したい。
参考・引用元:AISAP
(文・松本直樹)
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