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「組込み型会計」で中小企業の負担を軽減するLayer、会計システム大手に挑む

Techable / 2024年6月6日 16時0分

米国の著名ベンチャーキャピタリストAngela Strange氏が「すべての企業はフィンテックになる(Every Company Will Be a Fintech Company)」と題したプレゼンを行ったのが2019年のこと。2021年に「組込み型金融」(エンベデッド・ファイナンス)と呼ばれる分野が勃興し、大きなうねりが起きた。

組込み型金融サービスは急速に普及し、今ではAmazonやAppleをはじめ大手ECプラットフォーマーShopifyなどの非金融事業者が、オープンAPIを経由で自社アプリに金融サービスを統合、直接エンドユーザーに提供している。

組込み型金融に続いて「組込み型会計」サービス登場

そして今、アメリカやイギリスで注目されているのが「組込み型会計」(エンベデッド・アカウンティング)サービスだ。

2024年5月には組込み型会計スタートアップの資金調達が相次いだ。米サンフランシスコのLayerが15日に、英ロンドンのEmberが17日に、米マイアミのTealが20日にそれぞれ資金を調達。各社とも、会計システム市場シェアトップの大手に挑む意気込みを見せている。

今回が初の資金調達となったLayerは、プレシードラウンドで230万ドルを獲得。新たな市場の開拓をリードし、中小企業(SMB)の会計業務革新を目指すという。Better Tomorrow Venturesが主導した今回ラウンドに参加したのはSquareやPlaid、Unit、Checkなど。Layerが顧客とする「中小企業向けソフトウェア企業」が名を連ねた形だ。

ブランドのサービスにイネーブラーの会計ツールを組込み

組込み型金融と同じく、組込み型会計サービスには下図のとおり3層の役割が存在する。「イネーブラー」層にあたるLayerは、簿記・会計機能を提供する役割だ。
POS/モバイル決済サービスのSquare、レストラン業界向けPOSシステムのToastといった企業は、「ブランド」層。Layerの会計ツールを自社ソフトウェアに組み込み、エンドユーザーである中小企業に提供する。

ブランド層企業のメリットは、金融サービスや簿記・会計サービスを統合したビジネスモデルによって、より快適でシームレスな顧客体験を提供できることだ。エンドユーザーへの提供価値および顧客維持率を高め、新規顧客の開拓も加速できる。

エンドユーザーの中小企業はDXで業務軽減・コスト削減

イネーブラーとブランドのパートナーシップは、エンドユーザーである中小企業の業務軽減やコストカットに貢献する。

POSと会計ソフトが別々の場合、売上データや仕入れ費用データを会計ソフトに手作業などで入力が必要だ。銀行口座決済やクレジットカード処理を記録する手間もある。しかしLayerのツールが組み込まれていれば、これらの作業をシームレスに自動化できるのだ。

Layerの共同創業者兼CEOのJustin Meretab氏は、TechCrunchのインタビューでこう語っている。「中小企業のユーザーたちが、Layerの組込み会計画面で“初めて”自社の損益を明確に把握できたと言うので驚きました」

会計ソフトを別途使用すると、全体を俯瞰したデータ分析は難しい。しかし、会計・簿記サービスが組み込まれていれば、中小企業は新たな投資をせずにデータ経営を実現でき、DX推進に直結する。

イネーブラーがブランドの立場もエンドユーザーのニーズも把握

そもそも、Layer社CEOのJustin Meretab氏は、同社にとって現在の顧客企業かつ投資家でもあるSquare社の出身。かつてはMeretab氏自身が上図の「ブランド」企業の社員だったのだ。

さらに、Squareでプロダクトマネージャーおよび金融サービス担当として務めた6年間は、「エンドユーザー」の要望が直接届く立場にあった。組込み型会計市場のポテンシャルに気づいたのも、そうしたエンドユーザーの声がきっかけだ。

共同設立者兼CTOのDaniel O'Neel氏は、WealthfrontやSherlockでエンジニアとしての経験を持つ人物。Meretab氏と共に1年を費やして、組込み型SMB会計システムをこの世に生み出した。資金調達の発表に際し、「垂直ソフトウェアプラットフォームに会計ソフトを組み込む方法は1年前まで存在していなかった」とLinkedInで振り返っている。

会計ソフト大手のQuickBooksに取って代わることを目指すLayerだが、実現の可能性はどれだけあるだろうか。Fit Small Businessの分析によれば、QuickBooksはアメリカの会計ソフト市場で81%という圧倒的なシェアを誇る(日本のシェアトップは弥生シリーズ)。

「顧客の顧客」も自社の顧客、エンドユーザーを顧客とシェア

LayerがQuickBooksの独占市場を切り崩す可能性は、新しいビジネスモデルによるCAC(Customer Acquisition Cost:新規顧客調達コスト)の低さにあるかもしれない。

エンドユーザー獲得のためにマーケティングや営業努力が必要となるレガシーシステムに対し、Layerはエンドユーザーを自ら開拓する必要がない。直接の顧客であるShopifyやSquare、ToastなどがエンドユーザーのIT基盤として普及し標準化しているからだ。顧客企業の顧客であるエンドユーザーをシェアできるため、LayerのCACはゼロとなる。

「イネーブラー」が注力すべきは、豊富なユーザー基盤を持つ「ブランド」との戦略的パートナーシップ確立だ。だからこそ、LayerのプレシードラウンドにSquareやPlaidといった中小企業向けソフトウェア企業が参加した意味は大きい。

三方よしの組込み型SMBアカウンティングツールを提供するLayerの競合には、上述のEmber、TealのほかにHudlerやFisklなどがある。各社が切磋琢磨することで新たな市場が拡大するだけでなく、中小企業のエンパワーメントにもつながるはずだ。

参照:

Layer

日本の会計システム市場調査(2024年4月株式会社PIGNUS発表)

(文・五条むい)

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