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UAE国家政策の一翼を担うアグリテック|Silal、農家と協力し戦略的に食料備蓄へ

Techable / 2024年6月21日 8時0分

日本の食料自給率の低さは兼ねてより問題視され、近年しばらく40%に満たない数値で推移している。日本よりもさらに比率が低い中、国を挙げて食料自給率の向上を本気で目指しているのが、アラブ首長国連邦(UAE)だ。UAEの食料自給率は2023年時点でわずか17%と、多くを海外輸入に依存している状況である。

UAEにおける食料自給率の低さの要因としては、砂漠地帯で農業に不向きな地理的環境や、耕地の少なさといった点が挙げられる。加えて、続く人口増加に伴う食料需要の増加にも対応せねばならない状況下において、UAEは2018年に「国家食料安全保障政策 2051」を発表し、国内の農業対策と海外からの安定的な食料調達に向け、本腰を入れて取り組んできた。

これは持続可能な社会の実現に向け、10年間で農産品の生産量を30~40%増加させることを目指すもので、「UAEを2051年までに世界食料安全保障指数で世界一にする(※2022年時点では23位。ちなみに日本は同年6位)」が戦略目標の一つとしてあることから、「2051」が同政策名にも含まれている。

そこで、UAE政府およびADQ社の協力のもと、2020年に鋭意設立されたのがアブダビに本社を構えるSilalだ。

UAEの食料安全保障を守る

※同動画は2024年6月現在で再生回数222万回を超え、注目度の高さが伺える。

Silalは、UAEの食料安全保障に対して揺るぎないコミットメントを持っている。戦略的な備蓄と包括的なアプローチを通じ、国民の福祉を保護すると、同社公式サイトでは強い意思が語られている。

「農場から食卓まで」──具体的なアプローチ
①データの透明性:政府機関と協力し、必需品の在庫に関するデータの透明性を確保し、リアルタイム情報に基づく意思決定を支援する。
②優先的な商品:小麦、米、豆類、食用油などの重要な必需品に重点を置く。
③効率重視のアプローチ:最先端の貯蔵インフラを開発し、UAE内での戦略的備蓄を維持する。

さらにSilalでは、緊急事態にも迅速に対応すべく、食料システムの供給やアクセス、また安定性に対する脅威にも対処するための管理を、最先端技術を用いて実施している。

食料安全保障を継続的に維持するために欠かせないのが、国内外のパートナーとの協力だ。同社では提携先との協力を通じて、食料供給チェーンの混乱を監視し、潜在的な課題を事前に特定・対処することで、危機時にUAEにとって重要な商品を確保する活動も行っている。

戦略的食料備蓄を目指した主なプロジェクトとして、Silalが公式サイトにおいて公開しているのが、アブダビのザイード港に設置した最先端の穀物サイロ(=タンク)だ。計10基、それぞれ2万tもの容量を貯蔵でき、温度制御、湿度調整、小麦冷却機能を持つ。このプロジェクトはUAEの食料資源の維持と強力な食料分配を可能とし、戦略的食料備蓄における変革の一歩となった。

Silalの農家への貢献

Silalは地元の農家と協力し、農産物を生産してからそれを市場に供給するまでのプロセスを効率化している。

たとえばSilalはAI、IoTを活用したスマート農業技術を駆使して農業生産性を向上させている。これにより、作物の生育状態をリアルタイムでモニタリングし、必要な対策を迅速に実施することが可能となる。

加えて、農業者に向けたリアルタイムの気象警報やカスタマーサポート機能を提供するSilalアプリをはじめ、盤石なバックアップ体制を築いている。これらが農家の経済的自立支援へ繋がり、地域経済の発展にも寄与しているのだ。

さらにSilalは、地元農家に対して技術的支援や教育プログラムも提供。同プログラムで農家は最新の農業技術を通じて、スキルを磨くことができる。

Silalの活動を支えるインフラ

今年2月、Silalはカリファ科学技術大学と共同で農業ロボティクスセンターを設立する計画を発表した。アブダビのアルアインにあるSilalのイノベーションオアシスにて、ロボットプラットフォーム、センサー、IoTインフラを備えた自律型温室を設置するという。

同センターでは、AI駆動のロボットプラットフォームを用いた作物監視を研究し、早期の病害検出や化学物質の使用削減を目指す予定だ。

さらにSilalは5月にUAEで最大規模の自動化パックハウスをオープン。パックハウスとは、収穫後の農産物を選別、洗浄、パッキング、保管する施設だ。

広さ14,000㎡にも及ぶSilalの巨大なパックハウスは、自動化システムを用いて収穫後の作業を効率化することで食品の品質を保ち、流通過程での劣化を防ぎ、廃棄物を削減しながら最適な取り扱いを目指す。なお、Silalの作物の65%がこの自動化パックハウスで処理されているという。

QRコードで作物の輸送経路を追跡可能に

Silalは農業従事者のみならず、一般消費者にも身近な存在として寄り添っている。昨年、同社は消費者が農場からフォークまでの食品のライフサイクルを追跡できるよう、ブロックチェーン技術を導入した。消費者は、Silalアプリ上で製品のQRコードをスキャンすることで、作物の原産地や輸送経路に関する情報を得られる。

この取り組みは、画面に表示されるデータが信頼できるものであり、改ざんされていないことを消費者に保証するものだ。

食料供給の透明性を高めることで製品の品質を保証し、効率的な供給を維持し、食中毒の予防や問題発生時の原因特定が可能になる。これによって食の信頼性が高まり、消費者の信頼と忠誠心を獲得することにも繋がっているという。

Silalの成長を支えるリーダー

SilalのUAEにおける活躍は上述の通りだが、UAEで政府の援助を受けながら、同社を率いる人物は何者なのか。

設立以来およそ2年間CEOを務めたのが、Jamal Al Dhaheri氏だ。同氏は、アメリカのパシフィック大学で理学工学管理の学士号、ザイード大学で経営学修士号を取得し、SENAAT、アブダビ基礎産業公社(ADBIC)のCEO、Union Water and Electricity(UWEC)のCEO、アブダビ水電会社(ADWEA)の副所長やアブダビ国営石油会社(ADNOC)のオペレーションエンジニアなど、錚々たる企業において重要なポストを担ってきた。

Silal創業時より同社を先導してきたJamal Al Dhaheri氏は、2022年9月にCEOの座を退き、アブダビ空港のCEOおよびEmirates Steel Arkanの副会長に就任し、今なお同国において精力的に活動している。

その後を引き継いだのが、Salmeen Al Ameri氏だ。同氏は、イースタンワシントン大学でビジネス運営・管理の学士号、ソルボンヌ大学でコミュニケーション・管理・マーケティング&メディアの修士号を取得。その後Al DahraのCEO、DSVのボードメンバー、Agthia Groupの副会長、アブダビ下水サービス会社(ADSSC)のボードメンバーなど、多くの企業で高いポジションを経験してきた。

彼は従業員に力を与えながら収益性を高めるという志のもと、Silalの成長を支え続けている。

UAEのアグリテック市場とSilalの未来

UAEのアグリテック市場は、政府主導の積極的な投資や民間企業の懸命な取り組みによって、急速に成長している。グローバル調査機関GMI Researchのレポートによると、2023年~2030年にかけてCAGR15~20%と高い伸び率で成長する見込みだという。

Silalのターゲット市場は、UAE国内だけでなく、湾岸諸国や中東全域に広がっており、その影響力はますます拡大していくことであろう。「国家食料安全保障政策 2051」を打ち出したUAEの今後の食料事情の変化が楽しみであるのと同時に、国家政策の右腕を担うSilalの活躍から目が離せない。

参考・引用元:
Silal公式サイト
Jamal Al Dhaheri氏 LinkedIn公式アカウント
Salmeen Al Ameri氏 LinkedIn公式アカウント

文・Mika Ito
英国在住。元総合商社勤務、現在は在宅フリーランスとしてWebライター・業務支援等に携わる。

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