リチウムイオン電池火災に特化、米FCLが独自開発の消火剤で市場に新風
Techable / 2024年7月8日 8時0分
近年、スマートフォンや電気自動車など、我々の生活に欠かせない存在となったリチウムイオン電池。その小型・軽量・高出力という特性から、あらゆる分野で急速に普及が進んでいる。
世界のリチウムイオン電池市場は、2024年の794億4,000万ドルから2032年までに4,468億5,000万ドルに成長すると予測されており、予測期間中の年平均成長率は23.33%に達する見込みだ(参考)。
米国でも、ノートパソコンやスマートフォン、電動スクーターなど、多くの消費者向け製品にリチウムイオン電池が使用されている。ただ、リチウムイオン電池には火災のリスクがあるという。
そこで、Full Circle Lithium(以下、FCL)は家電製品や電動スクーター、電動バイク、EVなどのバッテリー火災に特化した消火剤「FCL-X」を開発した。
市場の急成長と火災リスクの増大今後も需要の拡大が見込まれるリチウムイオン電池だが、いっぽうで火災リスクといった課題もある。現行のリチウムイオン電池は、電解液に可燃性の高い有機溶媒を使用しているため、過充電や内部短絡などによって発火・爆発を引き起こす危険性があるという。
米国の火災安全研究所の調査によると、2023年に北米で発生したリチウムイオン電池火災は少なくとも445件発生しており、214人が負傷したとのこと。ニューヨーク市だけでも、2021年から2023年にかけてリチウムイオン電池搭載機器の火災が15倍に増加している(参考)。
日本の総務省消防庁の統計では、2022年の1年間でリチウムイオン電池に起因する火災が150件発生し、過去最多を更新。死傷者も出ており、深刻な問題となっている。
この難題に真正面から挑むのが、米国・カナダを拠点とするリチウム製品メーカー、FCLだ。FCLが開発したのは、FCL-Xという、リチウムイオン電池火災に特化した消火剤。
この独自の消火剤は、発火したリチウムイオン電池に直接噴霧することで、短時間で確実に火を消し止める。従来の消火剤では困難だった再発火も防ぐことができるという。
FCLは、今月に米国の大手EV工場にFCL-Xを初めて販売したと発表。現在、他のEV OEM、2万7,000以上の米国消防救助部門、商業・産業プレーヤーなどを対象とした商品化への取り組みを進行中だ。
大手EVメーカーとの実証実験でも高評獲得FCL-Xは大手EV メーカーやジョージア州の港湾当局との実証実験で高い評価を得ている。約800℃で燃える57kWhのEVバッテリー火災に対し、約450LのFCL-Xを使用して15分以内に消火し、再発火はなかったという。
FCLは、FCL-Xがテストにおいて他の化学消火剤や水よりも少ない量で、有毒な煙を抑えながら消火できたと述べた。
FCLは2022年の創業以来、リチウムイオン電池のリサイクルや、電池材料の再利用技術の開発に取り組んできた。現在の時価総額は約1989.94万カナダドルだ(7月3日時点)。
今年3月に公開されたYouTube動画で、FCLのCEOであるCarlos Vicens氏は「FCLは過去1年半程度で1,500万カナダドルの資金調達に成功した」と語っている。投資家からの注目度も高そうだ。
現在、同社はジョージア州に2,000トン/年の生産能力を持ち、最大10,000トン/年まで拡張可能なリチウムカーボネート製造工場を保有している。これは、過去20年間で北米で唯一の新規グリーンフィールド工場でもある。
リチウムイオン電池は今や社会のインフラとも言える存在だ。一方で、火災リスクという負の側面も抱えている。FCLは独自技術で、このジレンマの解消に挑む。リチウムイオン電池の未来を左右する一手となるか。業界の注目が集まっている。
参考・引用元:
PR Newswire
Full Circle Lithium
(文・嘉島亜麻実)
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