【フィンランドのスタートアップ探訪】スタッフの位置状況までスマートに把握、オフィスや病院で活用広がるHaltian社の施設管理IoTシステム
Techable / 2024年7月18日 18時0分
「ヨーロッパのシリコンバレー」として知られるフィンランドだが、首都ヘルシンキは過去に「ワークライフバランスに優れた都市」として世界1位をとっていることでも名高い。ちなみに2023年3月にRemoteが発表したワークライフバランスに関するランキングでは、フィンランドは60か国中15位、日本は38位だ。
本企画では、フィンランドに住む筆者が人々の暮らしの様子を写真とともに伝えながら、社会にイノベーションを起こしているスタートアップ事業に着目。事業者へのインタビューをまじえながら現地からレポートする。
今回は、オフィスの労働環境を管理するIoTシステムを提供するHaltian社を直接取材した。
夏休みシーズンに入った6月のフィンランドフィンランドでは、6月から学校が夏休みに入る。子供たちは10週間、そして大人もしっかり休みを取るのだ。
フィンランドは、1年の半分くらいが“冬”。長くて、寒い、そして暗い冬を過ごしてみると、太陽の光や暖かさ、夏のありがたみが身に沁みる。四季があるとはいえ、冬に比べて極端に短い北欧の夏を、勉強や仕事をひとまず忘れてしっかりエンジョイするのがこの国の文化として根付いている。
“フィンランドには1か月の夏休みがあるらしい…”そう聞いたことのある人もいるかもしれない。実際に現地では、有休30日のうち4週間を夏休みにあてる人が多い。
それだけではなく、有休中はなんとお給料が約1.5倍になるのだ。日本人の私なんかは「休暇中って何かとお金つかうよね」と、雇用者側も気を使ってくれているんだなと勝手に良い方に解釈をしてしまう。
ここで、やっぱり日本人の私が勝手に心配してしまうのは「ところで、休み中は誰が仕事をしているの?」である。
一昔前だと、会社の休憩室においてある原始的な手書きの夏休みスケジュールで同僚の休みを確認することも。ときには、勤務中のはずの同僚が会社中を探しても見つからず、じつはサマーコージからリモートで仕事をしていたことが判明するなど、何かとスタッフの居場所や勤務状況がわからず悶々としてしまうこともあった。
もちろん夏休みに限らず、こうした出来事は起こりがちだ。オフィスや施設が広ければ広いほど、「○○さん、どこ行った?」ということがあるのは日本でも同じだろう。
こうしたオフィスの労働環境を多角的なアプローチで管理するシステムを作っているのが、フィンランド・オウル市に本社を置くHaltian(以下、ハルティアン社)である。
IoTとセンサーを使った不動産施設のスマート管理システムハルティアン社は2012年、元ノキアのエンジニアが立ち上げた会社で、IoT とセンサーを使った不動産施設のスマート管理システムを提供している。テクノポリス社が運営するオフィスエリアの一角に本社が入っており、最上階にはサウナ施設も完備されている。
出迎えてくれたオフィスアシスタントSofia Klouvatosさんに、まずはオフィスを案内してもらった。
ソファにテレビ、まるで自宅リビングのようなオフィスハルティアン社のオフィスはオープンオフィスで、思いついたときに自由に打ち合わせができるよう、ところどころにボックス席や電話ボックスのようなものが置いてある。
共同スペースには淹れたてのコーヒーが置いてあり、小腹がすいたらいつでもつまめるように、果物やクッキーが用意されている。さらにはゲームコーナー、大型テレビや大型ソファーまで。まるで自宅のリビングのようだ。
Sofiaさんによると、スタッフが過ごしやすいようにオフィスのレイアウトや無料フード・ドリンクに気を配り、定期的にクイズ大会・イベントなどを行っているとか。典型的な堅苦しいオフィスからはほど遠い自由空間で、エンジニアの方々が仕事をしている様子が印象的だった。
オフィス内のスタッフ状況まで管理できるIoTシステムフィンランドではこうしたオフィス環境は珍しくないが、ハルティアン社が提供しているのは、オフィスをより“スマート化”するソリューションである。
同社が提供するIoT とセンサーを使った不動産施設向けのスマート管理システム「Empathic Building」について、プロダクトマネージャーのJarno Majava 氏に話を伺った。
―Empathic Buildingはどこで、どういう形で採用されているのでしょうか。Majava:当社のEmpathic Buildingは、オフィス、病院、ロジスティクスセンター、船舶など多岐に渡って採用されていて、著名なオフィスビルや世界トップの物流センターでも使用されています。
施設にEmpathic Buildingを導入することによって、いろんなことがわかるようになります。たとえばオフィスでは、各部屋の温度、湿度、換気、騒音、電力消費、使用率がデータとしてあがり、スタッフが過ごしやすいように空調などを調整することができます。
デジタルツインではオフィス全体がスクリーンに映し出され、スタッフのロケーションデータ、デスクの使用状況、会議室の予約状況がリアルタイムで確認できます。これを導入することで、今まで悩みだった「営業部長はどこいった…?」がなくなるかもしれませんね。
一方ビルの管理者は、人の出入りや電力消費をデータ化することによって、無駄な電力消費を減らすことができます。
たとえばロジスティクス産業では、広い敷地内で物の紛失や機械の故障が起こらないようハルティアンのセンサーを導入。ポンプ室、機材、機械、荷物などにセンサーを取り付け、稼働状況、温度管理、位置管理など環境をモニタリングし、業務効率化に貢献しています。
―病院ではどういった使われ方をしているのでしょうか?Majava:じつはここ最近、最も注目を浴びているのが病院なんです。
イギリスの国営医療サービスNHSが運営するMilton Keynes University HospitalやノルウェーのStavanger University Hospitalなどで導入されているのですが、病院スタッフからの評判が本当にいいんです。というのも、これまでは「スタッフが見つからない」「検査機械が見つからない」など、高度な医療技術を誇る最先端病院でありながら医療従事者にとってはストレスが溜まる労働環境だったそうです。
ところが、ハルティアンセンサーを取り付けてからは、医療従事者の居場所や検査機器や医療器具などさまざまな器械の使用状況や保管場所をリアルタイムで確認できるようになり、病院としての機能が改善したということです。
―ところで「Smart washroom」というのも気になるのですが、これは何ですか?トイレ用のセンサーということですが…。Majava:これはトイレの利用度合いやハンドペーパーやタオルの充填率を識別するセンサーです。これによって、清掃業者は掃除場所の優先順位をつけることができるので、混雑する空港でもトイレットペーパーがきれたり、汚れたままになったりすることがなくなります。
アメリカのジョン・F・ケネディ国際空港やヘルシンキ・ヴァンター空港では弊社のSmart washroomが採用されています。綺麗なトイレは、空港に限らず利用者には嬉しいですよね。いつも綺麗に保たれているトイレには、ハルティアンセンサーが貢献しているんです。
同センサーは小型かつ超省エネで、取り付けも簡単だという。そしてセンサーから集められた履歴などのビッグデータをどう分析して活かすのかなどはユーザー次第。このポテンシャルは無限ともいえよう。
フィンランドのさまざまな施設管理を支えるハルティアン社のIoT技術から、次は何が生まれるのだろうか。
Haltianについて
元ノキアの製品開発を担当していた5人の先駆者により2012年9月に設立。革新的なエンジニアリングで瞬く間に“一流のエンジニア集団”へと発展する。不動産向けのニーズにいち早く着目し、独自のIoT製品群を作り出し、世界的なIoTハウスへと発展、2020年にはEmpathic Buildingが加わり、倉庫、ロジスティクス、病院、オフィススペースに、より良い空間と持続可能な未来を提供。日本国内では、清水建設が本社オフィスを中心に複数採用し、同社が開発した建物OS「DX-CORE」を活用した位置情報に基づく空調のパーソナライズを行うなど、同社の技術と組み合わせたサービスの日本展開を模索中。
Haltian cloud には30万機以上 IoTデバイスが接続されており、100万平米を Haltian digital twins によってデジタル化。28か国にクライアントを持ち、従業員140 人がグローバルに活躍中。
詳しくはHaltian公式サイト
≪著者プロフィール≫
ケラネン陽子/ フィンランド在住27年・ビジネスコンサルタント
石川県白山市出身。大学卒業後、フィンランドへ移住。オウル市で経営学を学び、これまで約20社の海外・日本事業を担当。2018年にコンサルタント会社を起業。2023年より本格的に事業活動を開始し、「世話好きなおばちゃん」のような親しみやすさと実用的なサービスで、日本進出を目指す外国企業をサポート。夏限定の野外フェスやフローティングサウナが大好きな2児の母。
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