【CEOインタビュー】生成AIがNPCに生命を宿す?リアルな挙動を実現、ゲーム開発を革新|元Google DeepMind研究リーダーが率いるArtificial Agency
Techable / 2024年9月25日 18時0分
ゲーム内でプレイヤーが操作しないノンプレイヤーキャラクター(NPC)の多くは、プログラムで定められた行動しかとらない。それはしばしば単調な動作となり、プレイヤーがゲームに飽きる原因ともなりうる。
NPCが同じ会話や行動しかとらないのは、技術上の限界であり仕方ないことと受忍されていたが、生成AIが生命感のある動作と会話能力をNPCに与えることで、この制約を突破できる可能性が出てきている。
本稿で取り上げるのは、カナダのエドモントンを拠点とするスタートアップ、Artificial Agencyだ。生成AIのゲームへの適用に取り組んでいる。
同社は人工知能研究の最先端企業、Google DeepMindの元研究メンバーにより共同設立された。AI研究者のみならず、トップクラスのゲーム開発者も同社に名を連ねている。
この未知なる分野を探るためにも、Artificial AgencyのCEOを務めるBrian Tanner氏へインタビューを敢行した。Brian Tanner氏は、20年もの人工知能の研究経験を持つGoogle DeepMindの元研究開発リーダーである。
Artificial Agencyの開発する生成AIエンジンとは―― 御社の開発する生成AIエンジンは、どういったことを可能にするのですか?
Brian: ゲーム内でのプレイヤーの実行時の意思決定をゲームに統合し、開発者の設計したAIエージェントへの行動に変換ができます。エンジンは主に3つの入力に基づいて行動を生成します。役割(「キャラクター」は誰で、その目標は何か)、知覚(キャラクターはどのように世界を見て観察するか)、そして行動(キャラクターが選択できる行動)です。ゲームからの動作の要求をしたとき、エンジンはこれらの入力とゲームの文脈に基づいて適切な決定をキャラクターに下します。
―― NPCをよりリアルなキャラクターとして作ることができるということですか。
Brian: はい。NPCに関しては、受動的な脇役キャラクターを、プレイヤーの意図や環境での活動を認識して話し、攻撃し、感情を表現し、行動するより動的で知的なアクターに変換することができます。さらに、行動エンジンの応用はNPCを超えて、非具現化されたエージェントをより知的に動作させることもできます。
たとえば、ゲームの制御システムにAIを用いれば、プレイヤーの進行状況、ゲームへの反応、そして全体的な関与度に注意を払うことができます。これによって、エージェントはダイナミックな出来事の発生、チュートリアルの表示、エキサイティングなコンテンツへの誘導など、ゲームのダイナミクスを高めることができます。
―― 生成AIエンジンの導入によって、どのような点でゲームがより楽しいものになると考えますか。
Brian: 私たちは、生成的な行動がゲームをプレイヤーにとってさらに楽しく没入感のあるものにすると考えています。ゲームはプレイヤーの選択や行動に適応し、彼らにとって全く独自の体験を生み出すことができるようになります。
―― 新たなジャンルのゲームが生まれることもあるのでしょうか?
Brian: 私たちが最も興奮していることの1つは、私たちの生成AIエンジンが全く新しいカテゴリーのゲームへの道を開く可能性です。これがどのような形で実現するかについては、多くの異なる方法がありますが、エンジンはこれまで以上にクリエイティブで、表現力豊かで、ソーシャルで、個別化されたゲームの開発を可能にします。この可能性は無限大です。
これまでNPCを含むキャラクターの操作は、開発者がプログラムによって定義するのが一般的だった。これはしばしば退屈な作業になることもあるという。では同社の生成AIエンジンを用いることで、開発者の仕事はどのように変わるのか。開発者の仕事の変化について話を伺った。
―― ゲーム開発者の仕事はどのように変化しますか?
Brian: 私たちの行動エンジンは、開発者にクリエイティブな力を解き放ち、かつては実現不可能か財政的に難しかった体験を創造するためのツールとなります。この技術は開発者の仕事を置き換えたり、その役割を変えたりするものではありません。むしろ彼らの仕事を、最も単調で時間のかかる側面から解放します。
―― 退屈な仕事を減らすことで、ゲームの開発が開発者にとってより楽しいものになると。
Brian: 特にスクリプティングに関しては、行動ツリーやフローチャートを書くことの退屈さについて、スタジオから常に話を聞いています。開発者はプレイヤーと1-2人のキャラクターとの行動的相互作用をスクリプト化するのに多大な労力を要します。キャラクターを増やすと、その課題は指数関数的に増加し、あるいは完全に不可能になります。
私たちのシステムを使用すると、ゲーム開発者はより複雑で洗練されたゲームの制作が可能となります。多数のキャラクターがイベントで駆動され、それぞれ独自の意図を持って相互作用させることができるのです。創造性は依然として開発者の手にありますが、私たちの技術は退屈さを取り除き、ゲームの開発を“プレイするのと同じくらい”楽しいものにすることが可能となるでしょう。
―― 御社の生成AIエンジンを使用するのに、特別なスキルは必要でしょうか。
Brian: エンジンを使用するにあたって、開発者は技術に慣れる以上の新しいスキルは必ずしも必要ありません。私たちは多くの開発者と一緒にこの製品を構築しており、彼らがその能力を見たときに、彼らから熱意と興奮以外の何も聞いていません。
―― 御社のサービスは、大手のゲーム会社から小規模な開発者まで利用できるものですか?
Brian: 現在、私たちはいくつかの著名なトップのゲームスタジオと密接に協力して生成AIエンジンを開発しており、2025年に製品として広く利用可能になると予想しています。まずは大手スタジオに技術を展開し、その後、インディーズスタジオを含むより幅広いユーザーに拡大していく予定です。
大小のスタジオから、時間、予算、リソースの制約により、構築しようとしたゲームの60%しか提供できないと聞いています。チームが予定していたものすべてを提供することを助けるうえで、この技術が革新的な変化を与えると私たちは信じています。特に小規模なスタジオは、より複雑なゲームを制作し、自分たちのこれまでの裁量以上の成果を上げる大きな機会があるでしょう。
―― 日本語での使用も可能ですか?
Brian: 私たちが使用する基盤モデルは多言語対応であり、日本語も含まれます。私たちは日本のゲーム業界のパートナーと協力して、そこにあるユニークな機会を見つけたいと思っています。
―― ちなみに、ゲーム以外の分野での活用は?
Brian: 当社のサービスはゲーム以外の分野にも大きな影響を与える可能性があります。行動する人々をリアルな形でシミュレートする能力の欠如がボトルネックとなっている産業が多くあります。教育やシミュレーションなど、1対1の対話から、動的シミュレーションでの仮想的な人間の群衆を動かすことまで、すべてに応用できます。
同社は今年、シードラウンドで1,200万ドル、これまでトータルで1,600万ドルの資金調達を行い、着実に技術開発を進めている。Brian氏の話にもあったとおり、来年の製品リリースに大きな期待を寄せたい。
参考・引用元:
Artificial Agency
(取材/文・松本直樹)
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