【東京ゲームショウ2024 会場レポート】海外勢が半数以上の出展、日本市場に視線|AIはゲーム産業の未来をどう変えるか
Techable / 2024年9月30日 13時0分
9月26日から29日までの4日間、千葉・幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2024(TGS2024)」。今年は「ゲームで世界に先駆けろ。」をテーマに、世界44の国と地域から985の企業と団体が出展する史上最大規模での開催となった。
会期前半の26日・27日はゲーム業界関係者やインフルエンサー、メディアなどが来場するビジネスデイ、後半の28日・29日が一般公開日となっており、4日間の総来場者数は27万人を超えるなど、大盛況のうちに幕を閉じた。
今回は2日目のビジネスデイに参加し、国内外の企業出展ブースへ訪問。ゲーム業界を先導する最新テクノロジーの動向や、AI技術のビジネス活用について取材を行った。
会場に入ると、すでに多くの来場者が企業ブースを回る姿が見られた。TGS最大の見どころと言えば、ゲーム試遊の機会や新作タイトルの発表がなされることである。この日はビジネスデイにもかかわらず、各ブースにはゲームを試遊しようと参加者が列をなしていた。
ゲーム開発のQA工程をAIで自動化多数のゲームタイトルが並ぶなか、会場の一角には、ゲーム・エンターテインメント業界向けのBtoBソリューションを展示する「ビジネスソリューションコーナー」や、AIを活用したテクノロジーを紹介する「AIテクノロジーパビリオン」も設置。同コーナーの出展企業にブースで直接話を聴いた。
AIQVE ONEが提供するのは、ゲーム開発のQA(品質保証)工程をAIで自動化する次世代ゲームテスティングソリューション「Playable!」。バグのチェックや仕様書通りの動作確認に要する多くの時間をAIに代替させることで業務効率化が実現できるツールで、リアルタイム性の高いFPS(一人称視点のシューティングゲーム)やアクションゲームよりも、リアルタイム操作を要しないゲームに対応したものであるという。
AIQVE ONE執行役員 QA本部 本部長の佐藤 了一氏は、「QAエンジニアやクリエイターの業務工数を削減させることで、新たな挑戦機会を増やしたい」と述べた。
向き合わなければならない著作権の問題テキストや画像、動画、音楽、ファッションなどAIを活用したコンテンツ制作やAIサービスを提供するMetAI代表のLOZANO DEBITTO氏は、「AI技術を駆使することで、クリエイターの作業時間を従来比の50〜80%削減できる」としつつ、「著作権の問題についてはしっかりと向き合う必要がある」と語った。
「今後、主流になっていくと考えられるのは『自社で蓄積してきたコンテンツをAIに学習させる』ことです。AIのオープンソースモデルではどうしても著作権侵害のリスクがありますが、自社のゲームで培ってきた制作ノウハウやクリエイションをAIで学習させれば、その問題をクリアすることができるでしょう」(LOZANO氏)
さまざまなエンタメ領域で展開されるAI音声合成技術AIテクノロジーパビリオンでは、AI音声合成技術をさまざまな分野に展開しているテクノスピーチも出展。最新のAI技術で人間の歌い方・喋り方をリアルに再現する音声創作ソフトウェア「VoiSona」を提供するほか、カラオケ「JOYSOUND」の歌唱補助機能であるボーカルアシストにはテクノスピーチの歌声合成技術が使われている。
同社はいまアーティストや俳優・声優との協業も進めているそうで、男性アイドルグループ・嵐と企業13社による夢を応援するプロジェクト「HELLO NEW DREAM. PROJECT」では、嵐のデビュー曲『A・RA・SHI』に合わせて自分オリジナルのメッセージソングを制作できるコンテンツに、テクノスピーチの歌声合成技術が採用されたという。
「10月にKONAMIから発売予定の『プロ野球スピリッツ2024-2025』では、実況解説者の収録音声と音声合成AIをハイブリッドさせることで、選手やチームの紹介といった通常の実況から、リアルタイムに変化する戦況までを滑らかに読み上げ、臨場感あふれるシーンを解説するところに注目いただければと思います」(テクノスピーチ 研究開発部 エンジニア 石井 祐多氏)
AI VTuberが24時間365日ライブ配信東京と台湾にオフィスを構えるユビタスは、世界最高のGPU仮想化技術とクラウドストリーミングプラットフォームを運用する企業だ。同社ではゲーム会社が制作プロセスにAIを活用するためのサポートを中心に、AIソリューションの提供を行っている。
今回の展示では、AI VTuber「Ubi-Chan(ユビちゃん)」の没入型VR体験と、NPC(プレイヤーが操作しないキャラクター)にAIを実装した対話型アドベンチャーゲーム「晴天咖啡館(サニーカフェ)」が紹介されていた。
Ubi-Chanは、台湾初のAI駆動型バーチャルインフルエンサーで、LLM(大規模言語モデル)とRAG(検索拡張生成)を活用し、企業や自治体の受付業務、イベントのモデレーターや案内役など、動的な表情や会話を交えたインタラクティブなコンテンツの提供が可能になっている。
なかでも、筆者が特に関心を持ったのはUbi-ChanがYouTubeチャンネルを持っていることだった。人間ではなくAIだからこそ、24時間365日ノンストップでYouTubeのライブ配信が可能になり、そこに新たな体験を見出せる可能性があると感じた。
「YouTubeでは、人間が大まかな企画の方向性をプロンプトで入力するだけで、Ubi-Chanが配信を行ってくれます。24時間365日ニュースを伝える“AIキャスター”としての応用も可能で、今後のユースケース拡大が期待されています」(ユビタス プロジェクトディレクター 翁 振原氏)
日本市場に商機、“ビデオゲーム制作の民主化”を目指してスペインのスタートアップであるHechicerIAは、ビデオ制作やビデオゲーム、VRにおけるコスト削減の最大化を図るために、テキストを3Dビデオに数秒で自動変換するAIツール「Current Anima」を提供している。
同志社CEOのAlvaro Saez氏によると、「ビデオゲームという観点において、日本の市場は世界最大かつ最も重要な市場のひとつだと考えている」という。
HechicerIAは、日本の大手ゲーム企業のバンダイと提携し、日本市場にサービスを提供していくことが大きなビジネスチャンスにつながると捉えているそうだ。
「以前はビデオゲームを制作するのに数か月から数年は必要でしたが、今ではAIツールを使うことでビデオゲームのストーリーやコンテンツの制作にかかるコストが削減され、企業の生産性は大幅に向上しています。
これは多くのアーティストやクリエイターにとって重要なポイントであり、“ビデオゲーム制作の民主化”に貢献できるように日本市場でプレゼンスを高めていきたい」(Alvaro氏)
AIのさらなる進化は、シンプルで研ぎ澄まされたゲーム体験になるTGS2024には、アジアや北・中・南米、中東、アフリカ、欧州など、世界各地からの出展も目立った。
その中でTGS初出展となったイタリアパビリオンを訪問。観光業界向けのメタバースやAIを開発するTravel Verse プロダクトマネージャーのAntonio Amendola氏は「E3(アメリカ)、gamescom(ドイツ)と並ぶ世界3大ゲームショーのひとつである日本のTGSに参加し、ビジネス機会を得るために参加した」と話した。
同氏は「ゲーム産業のみならず、世界中のいろんな産業にAIは大きな変革をもたらしている」とし、AIの可能性について次のように見解を示した。
「シリコンバレーの関係者が言うには、『AIを取り入れていないスタートアップは、投資家も集められない』ということでした。それぐらい、今の時代にはAIが求められているわけです。ゲーム産業でもここ2〜3年のうちに、AIが完璧に入り込んで、新たなゲーム体験を創出するきっかけを与えると考えています」
一方で、著作権に関しては「画像や映像、音楽を生成するAIは著作権侵害のリスクがあるが、人間の内面に訴えかけるAIはその問題には当てはまらない」と続ける。
展示しているプロダクトのデモに登場する猫のキャラクターに質問を投げかけると、いろんな返答が返ってくるようになっているという。
AI技術の発展によって、あらかじめプログラミングされた返答ではなく、AIが人間のように回答を考えて会話してくれるわけだが、「こうしたコミュニケーションの部分については、著作権の問題は絡まない」とAntonio氏はコメントした。
今後、AIがエンタメ分野をどのように変えていくかについてAntonio氏に伺うと、「多くの人が想像していることは逆で、非常にシンプルな方向に向かっていく」と予測し、「現在は物理的な大きさや派手さが目立ちますが、将来的には小さくなっていくと考えています。自分の話すAIがインテリであればあるほど、人間のように自然と接することができ、大袈裟な装置は不要になるでしょう」とコメントした。
(取材/文・古田島大介)
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