【アフリカスタートアップ投資の注目業界:Vol.9】ドローンや衛星画像、AIを用いた精密農業がアフリカの農業を変える可能性
Techable / 2024年9月30日 17時7分
本稿は、アフリカビジネスパートナーズによる寄稿記事である。同社は、ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げやスタートアップ投資に関する支援を提供している。現地のビジネス最前線を知る同社独自の視点から、投資家が注目するべきアフリカのスタートアップトレンドを毎月ピックアップして紹介していく。
前々号、前号と2回にわたってアグリテックにフォーカスをあててをとりあげてきた。今号では、アフリカの農業スタートアップのもうひとつの注目領域である、精密農業を取り上げる。アフリカでは平均を目安とした従来型の農業が主流であるものの、昨今、農地や農産物の状況をAIなどのテクノロジーを用いて精緻に観察、制御する手法が生まれつつあるのだ。
ドローンや衛星画像、AIを用いて農作業を効率化
南アフリカのAeroboticsは、果樹園向けにドローンやAIを用いた栽培支援サービスを提供している。ドローンで撮影した画像をAIで分析することにより、樹木の健康状態や病害虫の被害が把握できるほか、灌漑が不均一なエリアを特定して灌漑機器のメンテナンスを効率化したり、区画や品種ごとの樹木の数を正確にカウントして植え替えのタイミングを最適化したり、収穫量を予測することが可能になる。
また農薬を使わない害虫対策として、害虫の天敵昆虫をドローンに積み込み、空中から散布するサービスも提供している。ドローン1台あたり1日最大200ヘクタールに昆虫を散布することが可能で、これは手作業と比べて25倍速いスピードである。散布を行うごとに、農園のどの区画にどの昆虫を散布したかをアプリ上で可視化し、詳細なレポートを作成している。
Aeroboticsは2014年の創業以来、シードラウンドで60万ドル、シリーズAラウンドで400万ドル、シリーズBラウンドで1,650万ドルを調達している。
アフリカの果樹園向けに事業を展開するイスラエルのSupPlantは、幹や果実および葉に直接取り付けたり、土壌に埋めたりするセンサーを使って、幹の太さや果実の大きさの変化、葉の温度、土壌の水分量といったデータを収集する技術を活用したサービスを展開している。収集したデータをAI搭載のソフトウェアで分析することで、農家が最適なタイミングで収穫を行ったり、樹木のストレス症状を検知して対策を講じたり、適切な方法で灌漑農業を行うためのアドバイスを提供する。
同社は南アフリカ、モロッコ、ケニアで事業を展開している。2012年の創業以来の累計調達額は4,000万ドルを超えており、2022年のシリーズBラウンドでは2,700万ドルを調達した。
チュニジアで事業を展開する仏スタートアップSeabexは、衛星画像を用いて農産物の生育状況に関する指標を算出したうえで、それに応じた灌漑に関する農家へのアドバイスをモバイルアプリで提供している。農家は農地の区画数に応じたサブスクリプション料金を支払う。同社によれば、このアプリを利用することで、農家は水の使用量を平均30%削減し、農作物の収量を平均20%増やすことができるという。これまでに5万ヘクタール以上の農地の管理に使われてきた。
Seabexは2024年にシードラウンドでの資金調達 を行っており、調達資金はチームの拡大とAIによる分析機能の強化に費やすとしている。
タンザニアのMazao Hubは、小規模農家向けの土壌分析サービスを提供している。農家は専用のスキャナーで土壌データを収集した後、AI搭載のプラットフォームで土壌の肥沃度を分析したうえで、栽培に適した作物、施肥のタイミングや量に関するアドバイスを携帯電話で受け取ることができる。小規模農家でも利用できる手頃な価格が特徴で、これまでに8万件以上の土壌分析を実施してきた。2024年にMazao Hubは20万ドルを調達している。
精密農業向けの機器を製造するアフリカ企業も誕生している。
エジプトのSi-Ware Systemsは成分測定のためのユニークセンサーを開発する、いわゆるディープテックスタートアップだ。同社のセンサーを使うと、土壌診断による必要な栄養素の判断や、収穫時の農産物の品質測定が行える。累計調達額は1,900万ドルで、2021年には900万ドル近くを調達している。
南アフリカのAquaCheckは、土壌の水分量や温度を測定するセンサーと灌漑管理用ソフトウェアをセットで提供している。センサーは南アフリカ国内の工場で製造している。ソフトウェアでは、センサーで取得した土壌のデータにもとづき、農家が最適な灌漑農業を行うためのアドバイスを作成する。
アフリカにおいて精密農業は、農業用水として使用できる水資源が限られている乾燥地で水使用量を抑えて灌漑を行ったり、資金力に乏しく肥料や農薬の購入量が限られている小規模農家が無駄のない散布を行ったりするうえで特にニーズがあるだろう。
アフリカにおける農業の主な担い手である小規模農家に利用してもらうには、農産物の売買マッチングや農業保険といった農家が必要とする他機能と組み合わせたり、肥料や農薬を割引で購入できるといった理解しやすいメリットを提示することが有効かもしれない。
文・藤原梓(アフリカビジネスパートナーズ)
参考
アフリカ農業に関する13の基礎情報
アフリカ業界地図:ケニアの農産物バリューチェーンの概要
週刊アフリカビジネスヘッドラインニュース427号(2020年12月21日号)
週刊アフリカビジネスヘッドラインニュース434号(2021年2月22日号)
週刊アフリカビジネススヘッドラインニュース588号(2022年3月21日号)
週刊アフリカビジネス707号(2024年8月5日号)
≪アフリカビジネスパートナーズ プロフィール≫
https://abp.co.jp/
アフリカビジネスに特化したコンサルティングファーム。2012年設立。ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げや事業拡大、スタートアップ投資に関する支援を提供。スタートアップ関連では、日本企業やCVCに対する有望スタートアップの紹介や、出資の際のデューデリジェンスを中立的な立場から提供している。2022年にはアフリカのスタートアップの調達金額やビジネスモデルを紹介した「スタートアップ白書」を発行。毎週「週刊アフリカビジネス」をメールで配信し、スタートアップの動きを日本語で提供している。
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