【アフリカスタートアップ投資の注目業界:Vol.10】日系アグリテックも現地で躍動、バリューチェーン横断×デジタル活用
Techable / 2024年10月25日 13時11分
本稿は、アフリカビジネスパートナーズによる寄稿記事である。同社は、ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げやスタートアップ投資に関する支援を提供している。現地のビジネス最前線を知る同社独自の視点から、投資家が注目するべきアフリカのスタートアップトレンドを毎月ピックアップして紹介していく。
これまでvol.7、vol.8、vol.9の前3号にわたって、農業スタートアップにフォーカスをあててきた。第10回となる本号では、同じ農業スタートアップのなかでも、日本人がアフリカで起業したスタートアップをとりあげる。
農協運営をデジタルテクノロジーで効率化ケニアで農協運営の効率化に取り組むのが、VunaPayだ。農協は組合員である農家から作物を受け取り、支払いをおこなう。VunaPayのアプリはその業務を助けるものだ。
農協は、農家から作物を受け取る際、農家ごとに作物の重さや内容を記録する。VunaPayのウェブアプリを使うと、この受け取り情報をデジタルで記録できる。農家の土地の広さといったプロフィールも記録することで、計量や入力のミスを防ぐ。これまでに受け入れた作物の量や在庫の情報もデジタル化される。
農家への支払いは、アフリカの農協がいつも苦労する点だ。農家から先に作物を受け取り、あとから売却するため、その間の運転資金が必要になる。VunaPayはケニアの大手金融機関との提携により、農協が融資を受けられるようにしている。ここで、農家とその作物の情報をデジタルで記録していることが役立つ。金融機関が与信に使えるためだ。この融資により農協は、作物の受け取りと同時に農家への支払いを行うことができ、農家は数週間から数か月待たされていた支払いをすぐに受け取ることができる。作物をすぐに現金化できれば、農家は必要なタイミングで種子や肥料を購入して収量を増やし、収入を増やすことができる。
VunaPayは、2023年にHeifer Internationalがスポンサーを務めるアクセラレータープログラムで助成金を獲得している。Heifer Internationalは、世界中の小規模農家らを支援することで飢餓・貧困問題の解決を目指す団体。さらに2024年5月には、ケニアの通信会社サファリコムと住友商事がアーリーステージスタートアップを対象に実施したSpark Acceleratorプログラムで、受賞企業9社のうち1社に選ばれた現在注目のスタートアップだ。
「小規模農家へのファイナンス」を軸に事業を多角化上述した農協業務そのものを一貫しておこなっているのが、ガーナのDegasだ。穀物を栽培する小規模農家向けに種子や肥料などの農業資材を貸し付け、農家は収穫した作物の一部で代金を返済する。農家は後払いで農業資材を入手できるため、収量を増やすことが可能になる。一方、収穫した作物は品質を検査したうえで受け入れ、先に支払い、Degasが需要家に販売する。この一連の業務に自社のデジタルプラットフォームを使っている。
農家の与信判断では、モバイルアプリや現地オペレーションを通じて収集したデータをもとに、AIによるスコアリングを行っている。2023年だけで2万7,000軒、同年末時点で累計4万6,000軒の農家にサービスを提供してきた。
外部の資金提供者と農家をつなぐマーケットプレイスの構築を目指したり、マイクロファイナンス機関と提携することで、Dagasが蓄積した農家の与信データに基づく融資の機会を促している。
近年は、土壌の有機物を増加させることで炭素を隔離する栽培方法、いわゆるリジェネラティブ農業のアフリカ版の確立に、ネスレと共同で取り組んでいる。実現すれば、肥料の使用量を減らして作物の生産コストを下げるだけでなく、カーボンクレジットを生成し農家にとっての追加収入にできる。
Degasは2023年12月に、融資と第三者割当増資による9.7億円の資金調達をおこなった。これにより、2018年の創業以来の累計調達額は約22億円に達した。2023年には、シアナッツをガーナで調達する不二製油グループ本社と提携し、調達先の農家にDegasのサービスを導入した。その後、2024年には双日からの出資を得ている。
栽培にみずから取り組むスタートアップもアフリカでの栽培にみずから取り組むスタートアップもある。Bloom Hills Rwandaは、岩手県八幡平市から生産許諾を得たリンドウをルワンダの農園で栽培している。アフリカからはバラをはじめとした花卉が欧州に輸出されているが、Bloom Hills Rwandaも欧州に販路をみつけた。同社は日本の農業技術を活かし、恵まれた自然環境と豊富な若手人材のいるアフリカに雇用を創出し、“日本からは遠いがアフリカからは近い市場”である欧州への販売につなげたことになる。
また同社は、栽培におけるテクノロジーの活用にも取り組んでおり、ドローンを用いた栽培による生産性向上や物流の改善も試みている。
たとえば、地上走行型ドローンでリンドウの生育状況を撮影し、AIの画像認識で分析することによって、生育不良を発見したり収穫時の品質を予想したりできるようにした。また、品質予想データをもとに農園スタッフに収穫を依頼し、収穫したリンドウを飛行型ドローンで倉庫に運ぶことによって農園内の物流改善にも取り組んだ。
「バリューチェーン横断×デジタル活用」のサービスでアフリカ農業を底上げ本連載では前3号にわたって、川上の栽培、収穫物を市場に届ける川中、精密農業にそれぞれ特化したスタートアップをとりあげてきたが、今回取り上げた日系アグリテックはBloom Hills Rwandaも含めていずれも、栽培から集荷、販売、支払いまでバリューチェーン横断で一貫して関わっていることが特徴だ。
農業をビジネスとして成功させるには、栽培だけでなく、品質や収量の管理、販売先の確保、資金繰りの管理が必要となる。日本では農協がその役割を担い農業を大きな産業へと発展させたが、アフリカではまだ農協の運営能力が十分とはいえない。VunaPayやDegasの事業は、デジタルテクノロジーを活用することでそれを補い、アフリカの農業の底上げを図っている。
一貫した関わりが有効であるならば、日本の農協の仕組みがアフリカの農業に示唆を与えることもあるだろう。Bloom Hills Rwandaのように、ほかにも日本がライセンスを持つ作物をアフリカで栽培することもありえることで、それは日本の農家にとっても新たな販路の獲得につながる。今回とりあげた3社のような日系のアグリテックスタートアップが活躍することで、日本とアフリカの農業が協力しあえる面もあるはずだ。
文・藤原梓(アフリカビジネスパートナーズ)
参考:
アフリカビジネスに関わる日本企業リスト
週刊アフリカビジネス711号(2024年9月2日号)
Disrupt Africa
双日ニュースリリース
≪アフリカビジネスパートナーズ プロフィール≫
https://abp.co.jp/
アフリカビジネスに特化したコンサルティングファーム。2012年設立。ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げや事業拡大、スタートアップ投資に関する支援を提供。スタートアップ関連では、日本企業やCVCに対する有望スタートアップの紹介や、出資の際のデューデリジェンスを中立的な立場から提供している。2022年にはアフリカのスタートアップの調達金額やビジネスモデルを紹介した「スタートアップ白書」を発行。毎週「週刊アフリカビジネス」をメールで配信し、スタートアップの動きを日本語で提供している。
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