【特集】国内米価高騰のウラで海外輸出が岐路に立っていた…台湾への値上げ交渉に密着 “コメクライシス”後編 ≪新潟≫
TeNYテレビ新潟 / 2025年2月2日 18時5分
コメを取りまく状況についての後編は、国が進める海外輸出についてです。交渉のため台湾の取引業者を訪れた新潟のコメ農家に密着しました。
しかし、そこで明らかになったのは国内で高騰するコメの価格が海外輸出の大きなハードルとなっている現実でした。
◆先細りの日本で海外を見据えたコメ作り
20年前からコメの海外輸出に取り組んできたのは、コメを生産する新潟市の農業法人「木津みずほ生産組合」で代表を務める坪谷利之さんです。
〈木津みずほ生産組合 坪谷利之 代表理事〉
「世界的に見ればまだまだコメの需要なんて伸びしろはあるわけでね。ただ、いまの米価だとなかなか難しいとは思いますけどね。じゃあ安ければいいのかというと安くすれば国内の専業農家ももたないわけだから……」
坪谷さんは父の徳一さんと共に規模を拡大。コメ離れが進む中海外に打って出なければ生き残れないと感じていました。その販路は台湾やアメリカ、ヨーロッパなど世界各国に及びます。
◆国も海外輸出を後押し 生産力も向上へ
人口減少やコメ離れなどの影響でコメの需要が減っている日本。それに合わせてコメを作っていては市場はどんどん先細りしていきます。
そうした中2024年、JAの全国大会で石破総理がこんなメッセージを寄せました。
〈石破首相〉
「世界の中で、農地を減らしている、あるいは主要穀物3品の生産を 減らしている、そんな国はどこにもありません。これから先人口が減る中にあって日本の素晴らしい農産品を世界に出していくということはどうしてもやっていかねばならんことであります」
食料安全保障が叫ばれる中、十分な輸出ができるように国内の生産力を高める考えを示しました。
実際、日本のコメの輸出量は右肩上がりで増え続けています。
◆海外輸出…推進の矢先、岐路に立つ
しかし、いま、輸出米が岐路に立たされているというのです。
2024年9月に開かれたのは、坪谷さんら県内の生産者がコメの輸出のために作った合同会社「新・新潟米ネットワーク」の会議です。
〈木津みずほ生産組合 坪谷利之 代表理事〉
「極端なコメの暴騰もあるんだけど、来年の話だけでなくて今後5年、 10年先のことも見据えて、せっかく20年かけて取り組んできた輸出を、ここで止めることなく続けていくにはどうすればいいかという話ですね」
価格の高騰が、輸出に影響を及ぼしていると言います。
国内で売った方が高く売れる……輸出用のコメが集まらなくなる恐れがありました。
若手メンバーを中心に、台湾へ、値上げ交渉に出向くことになりました。
◆日本食ブームとともに海外でも人気が高いコメ
台湾の首都・台北。
日本食文化が浸透し日本食を提供する飲食店や、おなじみのチェーン店がいたるところにみられます。
交渉の前に視察のため、街へ繰り出した新潟のコメ農家たちが気になっていたのは飲食店で販売されているメニューの価格です。
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「ぱっと見、日本と変わらないな という感じですね。(日本米が)広がる余地はあると思う」
台湾で日本のコメはどう受け入れられているのでしょうか。台湾にある日本食の店を訪ねました。この店のオーナーと料理長は新潟県十日町市の出身です。
新潟の郷土料理と日本酒に客は舌鼓を打っていました。自慢は新潟産のコシヒカリ。
〈客〉
「このコシヒカリにはピカピカの光沢がありますが台湾のコメはこんなに光沢はありません」
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「新潟のおコメが台湾にまずは受け入れられているかどうか」
〈店のオーナー〉
「多分、コシヒカリが一番おコメで知名度があると思います。台湾で。ただ正直、 安いコシヒカリもすごく入ってきてるんで、僕、魚沼の人間なんで、魚沼の新米のコシヒカリとか食べると、全然違うなっていう のが多分わかると思うんですけど」
台湾でも、新潟のコメの美味しさは浸透してきているようです。
自信を深める、新潟のコメ農家たち。交渉を前に作戦会議を開きました。
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「シンプルに国内流通価格が上昇してるから、輸出価格との大きな開きがあって、このままでは(作付けを)輸出に振り向ける人はいないということを、ここは、ただ シンプルにお伝えした方がいいのかなと思うんですけど」
交渉の本番はあした。高くなった日本のコメを受け入れてもらえるのでしょうか。
◆台湾交渉の一部始終 日本政府への指摘も
台湾へ値上げ交渉にやってきた新潟のコメ農家たち。いよいよ本番です。
台湾でデパートなどと取引する卸売業者・信徳の幹部から熱烈な歓迎を受けます。これまで20年、もっとも長い付き合いとなった取引相手です。
〈通訳〉
「台湾人、それから中国人の考え方の中には、遠くから来た友達には歓迎をしなければいけないという考えがあります」
コメ農家たちに緊張が滲みます。重たい口を開きました。
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「早速なんですけど、いまの日本のおコメの状況を…おコメの店頭価格がいま去年の約1.5倍から2倍ぐらいの値段で売られています。そうしますと、農家からおコメ屋さんが買い入れる値段も1.5倍から2倍になっています。農家にとって輸出用米を作りたがらないような状況になっているということです。国内用の方が手取りがいいので」
値上げの交渉であることを悟り表情が変わりました。こう、切りかえしてきました。
〈台湾の卸売業者・信徳の幹部〉
「・・・」
〈通訳〉
「台湾もおコメをたくさん育てていますので輸出もできますよ、という話になっているんですけど…」
台湾国内で代わりになる安いコメはたくさんあるのだと極端な値上げに反発を見せます。コメ農家たちが最低でも1.5倍は値上げする考えであることを切り出すと、その疑問は日本の政府に向けられました。
〈台湾の卸売業者・信徳の幹部〉
「・・・」
〈通訳〉
「もしこんな状況が台湾で起こったら台湾の政府は交代しますよ、政権交代します。これはもう冗談じゃなくて、ありえないことです。日本はおコメがこんな倍数の感じで上がっていった時に政府は何もしないんですか?日本の政府はこういうコメの仕入れ価格の保証というのはないんですか?金額の保証というのは……」
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「保証はないですね」
〈通訳〉
「台湾にはあるそうなんですね」
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「要するにコストは上がっているのに価格転嫁が今まで全くできなかった。それが、やっと見合った価格に なったのがことしだった」
受け入れがたい上げ幅に表情が曇ります。
〈台湾の卸売業者・信徳の幹部〉
「アア1.5倍…why、 1.5倍…」
長年のつながりを揺るがす価格の高騰。交渉は行き詰まっていました。
◆「いまの国内価格では輸出はこれ以上増えない」生産者の葛藤
新潟のコメ農家たちが輸出するコメの値上げを申し出た台湾交渉から1か月。台湾の業者・信徳から結果が届きました。
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「ある程度、信徳さんに関しては 値段の話はなんとかわかってもらえたかな、というところです…」
日本の切実な状況は信徳にしっかり伝わっていました。
しかし……台湾の他の業者からは、強気なメッセージが届きました。
〈新潟のコメ農家(交渉メンバー)〉
「結論は50%アップはとても受け入れられないと。5割アップなら取引量はゼロにして他をあたると」
国内での価格の高騰は海外輸出のハードルとなりました。20年前、海外でもっと勝負ができる未来を思い描いていました。
〈木津みずほ生産組合 坪谷利之 代表理事〉
「すべてはいまの国内米価ですよね。異常というかね。我々生産現場からすれば、やっと生産費が追いつくような価格に落ち着いてきたと。ただし、いまの国内価格では輸出はこれ以上増えないです。適正な海外の米価レベルで戦う必要があるんですよね。当然我々も努力するけども、我々の努力だけでは補えない部分は、行政あたりのバックアップが必要だということです」
世界情勢が不安定となる中主食・コメの生産力を高めるために輸出を増やしていくことが求められています。
日本のコメを未来につなぐために……
海外進出を見据えたコメへの対策も必要とされています。
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