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「このままだと国立は埋まらない」 東京世界陸上に危機感、サニブラウンが次世代育成に励む理由

THE ANSWER / 2024年5月30日 10時3分

主催大会「DAWN GAMES」を開催するサニブラウン・ハキーム【写真:UDN SPORTS提供】

■サニブラウンインタビュー、主催大会「DAWN GAMES」に込めた想いとは

 世界陸上で2大会連続入賞中のサニブラウン・ハキーム(東レ)が、「THE ANSWER」のインタビューに応じ、陸上界発展への想いを明かした。6月に小中高生を対象とした100メートルの主催大会「DAWN GAMES(ドーンゲームス)」を初開催。各カテゴリーのトップ選手に参加を呼びかけ、上位者には「世界を見て、肌で感じる機会を与える」という特典を盛り込む希望があるという。

 現役選手としては異例の主催大会を実現させた背景には、25歳にして日本陸上界の未来を見据えた想いがあった。今夏にパリ五輪、来年に東京世界陸上が迫る中、アスリートには結果を出す以外にもすべきことがあると説く。現在の取り組みや課題、世界大会開催まで描く将来の構想などを聞いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

「2年後の今頃東京で世界陸上やるわけだがこのままだと国立競技場は絶対埋まらないから何ができるかね」

 2023年9月13日、サニブラウンはXにつづった。この3週間前、ブダペスト世界陸上の男子100メートル決勝を走破。前年オレゴン大会の7位に続く6位入賞を果たした。2大会連続でファイナリストになる日本人初の快挙。米国とハンガリーで体感した満員の客席は熱かった。

 一方で国内大会にも目を移す。「このままじゃまずいな」。そんな危機感からのつぶやきだった。

 今年5月20日、麻布台ヒルズを臨む東京・港区の所属事務所で行われたインタビュー。なぜ、陸上界を盛り上げたいのか。会議室の椅子に腰かけた25歳のスプリンターは、想いを打ち明けた。

「日本も最近はトップ層の選手たちが増えてきましたが、他の国はもっともっと強いし、層が厚い。アメリカはメダルを総なめにする。日本もいずれはそれくらいになれたらなって考えると、陸上人気を上げて、陸上をする子どもたちを増やしていかないといけない。上が急に強くなることはないので。陸上界をもっと発展させていきたいなと思っています」

 アスリートにとって、自分の競技を盛り上げたいというのは自然な感情。ただ、その先に何があるのか明確にない選手も少なくない。「少し嫌な聞き方をします」と断ったうえで、「そもそも陸上が盛り上がらなくても社会は回っていくのでは」と不躾な質問をした。

 サニブラウンは頷きながら、想いの根幹を明かしてくれた。

 一番のきっかけはコロナ禍の21年東京五輪。無観客の国立競技場で200メートルを走った。「もの凄く寂しかったんですよ」。6万7750席のスタンドには「100人ちょっと」の関係者。まばらな拍手の音はトラックまで届いてこなかった。

「大会と呼んでいいのかわからないくらい。オリンピックではなかったですね、完全に」。大変な状況下での開催に多大な感謝を持ちつつ、声援がパフォーマンスに影響することを強く再認識した。「今まで当たり前だったものがなくなった。やっぱり観客、サポートしてくれている人がいて、やっとスポーツが成り立っている」

 他競技と比べてしまうこともある。23年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は拠点を置く米国にいても、日本の国民的熱量がスマホ画面を通じて伝わってきた。

「やっぱり羨ましいですよね。WBC、サッカーやバスケのW杯と比べると、陸上は少し劣る。世界陸上は一つの催し物にはなっていますけど、それでもテレビの前で見るくらい。例えばいつも見る面白いテレビ番組があって、“その一部”で終わっちゃっているかなと。選手の地元でパブリックビューイングをするとか、国一丸となって応援してくれる大イベントになってほしい」

 スポーツには幸せを呼ぶ力がある。だから、自分の愛する競技を盛り上げたい。では、なぜ陸上はムーブメントになりづらいのだろうか。


昨年9月のスピードトライアルを開催、参加者と記念撮影したサニブラウン(中央手前)【写真:UDN SPORTS提供】

■サニブラウン「陸上は一番わかりやすいはずですが…」

 いま風に言えば、“箱推し”が難しいのが一つだという。

「個人競技は一人ひとりを応援しないといけない。気軽に応援できないわけではないけど、どうしてもエントリーが難しい。陸上は(運動の)原点であって、勝敗も一番わかりやすいはずなんですけど、『見ていてもわからない』という声は多く耳にします。だから、もっと陸上の理解度を高めることも大切です。

 あとは野球やサッカーは年俸が目に見える。陸上競技はプロのシステムが日本で確立されておらず、まだ部活動という粋を脱していないんですね。そういう部分でも、今の子たちはYouTuberだったり、野球選手だったり、目に見えるものが多いものに憧れる傾向があると自己分析しています。

 陸上競技はオリンピックのメインイベントと言っても過言ではないスポーツ。陸上競技にお金が回るのもそうですし、もっともっと目に触れて、注目されてもいいんじゃないかなという想いです」

 選手にできるのは、競技で結果を出すことだけじゃない。「その外で現役選手もですし、引退した選手も、陸上連盟の方々も総動員してやっていかなきゃいけない」。そこで開催が実現するのが自身の主催大会「DAWN GAMES(ドーンゲームス)」だ。

 男女別に100メートルで争われ、対象は小学4~6年生、中学生、高校生。6月9日に西日本エリア予選(ヤンマースタジアム長居)、6月29日に東日本エリア予選(大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森)を行い、各カテゴリーの上位8人が秋の決勝大会に出場する。

 DAWNは英語で「夜明け、始まり」を意味する。「日出る国」の日本に因み、「このチャンスから飛躍してほしい」という想いを込めて命名した。特徴的なのは決勝大会の上位者に与えられる特典。未定部分があるものの、「TEAM Hakim」のメンバーに選出し、自身が拠点を置く米国の施設などに招く構想もあるという。

「世界を見て、肌で感じる」という特典を取り入れたいのは、高校卒業後に米フロリダ大に進んだ自身の経験が基になっている。

「いろいろなものを見て、肌で感じて今の自分があります。『海外が絶対に全員に合っている』とは思わないですが、少なからず海外に触れる機会は必要。自分がどの位置にいるのか、一番わかる機会です。日本で活躍して急に世界の舞台にポンッて入れられて戸惑うより、少しでも目と肌で感じるだけで心に余裕ができます。人生全体でも役に立つ経験。非常に大事にしていきたい部分ですね」


昨年9月に「DAWN GAMES」のメディア向けプレゼンテーションを行ったサニブラウン【写真:UDN SPORTS提供】

■インタビュー中に語気を強めた言葉「それが選手たちの意見ですね」

 冒頭に記した通り「日本の陸上界を盛り上げたい」という想いが始まりだが、DAWN GAMESの終着点は世界を見据えている。日本で発展させ、将来的には各国で開催。上位者が集まる世界大会までも頭の片隅に描く。「自分の最終的な目標ですね。そのために、まずは日本から始めたいです」

 壮大な夢のため、すでに行動に出ている。「人を巻き込むとなると、やっぱりコネクションが必要」。世界陸上など海外の大会では、バスで一緒になった海外選手やスタッフとの何気ない会話を心掛ける。「自分の今いる枠にとらわれないように。意見を交わすだけでいろんなアイデアが飛んでくる」。日本でも他種目の選手と話す機会をつくった。

 時には仲良くなった海外選手に「今、どう思ってんの?」と陸上界への想い、夢、課題を聞く。特に米国の選手たちは劣等感を抱いているという。

「アメリカンフットボール、野球、バスケとかがあって、その下に陸上がある。人気もですし、動くお金の量が全く違うんですよ。他の競技ならもの凄く裕福になれるようなレベルなのに、陸上を選んだことによって明日もわからないような生活の選手だっていっぱいいます。アメリカ人の選手たちは『やっている競技が間違ってる』『失敗した』って言っていたり」

 約20分のインタビュー。ここからが語気を強めた部分だった。会議室に熱を帯びた声が響く。

「可能性、もの凄くあるんですよ、陸上って。一番わかりやすい、観戦しやすいはずのスポーツ。体一つで(凄さを)共有しているわけですし。もっともっとやっていけることがいっぱいあるのになって。それが選手たちの意見ですね」

 インタビュー前日のセイコーゴールデングランプリでは、国立競技場に2万人が集まった。サニブラウンは次世代育成に励みながら、選手として結果を残す場面がすぐにやってくる。パリ五輪の目標は「金メダルを狙っていきたい」と即答。陸上を通じ、受け取ってほしいものがある。

「背中を追いかけてもらったり、子どもたちが元気に走り回るきっかけになったり、いろいろな影響を与えられればと思います。自分も子どもたちから学ぶことだってもの凄く多い。自分が頑張っていく上で、陸上界の発展もそうですが、陸上にとらわれず、スポーツ界全体を発展させていければと思います」

 君にもできるんだぞ。そんなメッセージを190センチの体躯に込め、トラックを駆ける。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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