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532億円MLB超大物も輩出 低収入、過酷競争のマイナーリーガーに出世払い…広がる融資ビジネスに賛否

THE ANSWER / 2024年6月8日 10時33分

パドレスのフェルナンド・タティスJr.【写真:ロイター】

■連載「Sports From USA」―今回は「スポーツ選手にお金を貸す融資会社の存在」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「スポーツ選手にお金を貸す融資会社の存在」について。

 ◇ ◇ ◇

 アメリカには、マイナーリーグの選手を対象に「出世払い」でお金を貸している会社がある。メジャーで選手経験があるマイケル・シュワイマー氏が2016年に設立したビッグ・リーグ・アドバンデージ社である。わずかな収入しか得られず、過酷な競争を強いられるマイナーリーガーが野球に集中できるようにお金を融資または投資している。

 同社のビジネスモデルは、お金を投資したマイナーリーガーが一度もメジャー昇格できずに選手生命を終えた場合には、貸したお金の返済は求めない。しかし、メジャー契約できた場合には、その年俸の一定の割合をビッグ・リーグ・アドバンテージに返さなければならない。お金を貸したマイナーリーガーがメジャーリーグで活躍するようになることで、同社のビジネスモデルは成立する。いくつかの米メディアによると、ビッグ・リーグ・アドバンテージの一般的な返済割合は、年俸の8~10%といわれている。今では、どのチームもデータを取得し、選手のパフォーマンス予測を行っているが、この会社も独自の分析によって選手の将来性を予測するのがビジネスの生命線であり、各選手への出資の可否や出資金額を決めているのだ。

 マイナーの選手がメジャーに昇格できたというだけでは巨額の年俸は得られない。フリーエージェント資格を得てよい契約を勝ちとるか、フリーエージェント資格を得るまえであれば、所属球団が引き留めの意味合いで大きい契約を提示してくれることで、巨額の年俸を手にすることができる。ビッグ・リーグ・アドバンテージには、レッズのエリー・デラクルーズ、マーリンズのジャズ・チザムら、500人以上の選手が融資を受けているが、同社のここまでの成功例はパドレスのタティス・ジュニアである。タティス・ジュニアがメジャー3年目だった2021年にパドレスが新たに彼と契約を結び、14年総額3億4000万ドル(約532億円)で契約したからだ。

 メジャーに昇格できない選手からは返済を求めないので、ビッグ・リーグ・アドバンテージ社も大きなリスクも背負っている。しかし、一方、メジャーリーガーになった選手からは年俸の8~10%を返してもらうことを高利貸しのような融資、搾取的という批判も出ている。

 そこで、マイナーリーグ時代に融資を受けたヤンキースのオスワルド・カブレラ内野手と、ツインズのベイリー・オーバー投手に話を聞いた。

■現役選手たちの声「キャリアを築く助けに」「今返すのはつらいが…感謝」

 ベネズエラ出身のカブレラは「僕の家族はアメリカに来たのだけれど、働くことができなかった。僕に出資をしてもらったお金で家族を助けることができた。今、僕のお金から一定のパーセンテージのお金を返している。でも、そのお金によって僕は野球に集中することができたので、キャリアを築く助けになったと思う。もちろん選手によって、どのように感じるかは違うだろうが」と言う。

 オーバーは「2019年に彼らが僕のところにやってきた。僕は最初の子どもが生まれたばかりでシーズン中も家族とともに暮らしたいと思ったけれど、マイナーリーグの給料は十分ではない。それで彼らに助けてもらうことにした。2020年は(コロナウイルス禍で)シーズンそのものがなかったから、その時も助けになった。そういった期間、とても助けになるものだった。僕は(お金に関係なく)いつでも野球に集中できていたけれど、家族をサポートできるようにということが大きかったから。今、稼いだお金のいくらかを返すのはつらいことではあるけれど、でも、僕が必要としていたときにしてもらったことに感謝している」と話した。

 同社は、アメリカンフットボールの大学生選手との契約にも乗り出している。大学生選手がNFL選手になった暁には、年俸の一定の割合を返してもらうという仕組みだ。プロアメリカンフットボールのNFLの実質的な育成は大学のアメリカンフットボールが担っているという背景がある。

 しかし、大学生はプロ選手として出資を受けるわけではない。2021年から大学生選手がNIL(Name, Image and Likeness)として自らの「名前、イメージ、肖像」によって報酬を得ることが可能になったことを活用しようとしたのだ。ワシントンポストによると、フロリダ大でプレーしていたジャーヴォン・デクスターとビッグ・リーグ・アドバンテージ社は、デクスターが「名前、イメージ、肖像」によって報酬を得られることを活用し、サイン会などに出席することと引き換えに43万6000ドル(約6830万円)のお金を渡したとしている。

 その後、NFLシカゴベアーズの一員となったデクスターは、お金を返済する立場になったのだが、ビッグ・リーグ・アドバンテージ社を相手に訴訟を起こしている。NILに関する契約は、大学在学期間のみ有効で、その期間を越えてのNIL契約は無効であると主張だ。

 新しいビジネスモデルは、NILに新たな規制を設けるべきか、大学生選手がNILに関する正確に契約を理解しているかという懸念よりも先に広がりをみせている。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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