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新生ラグビー日本代表、原石たちの検証 エディー流にマッチする「超速」の申し子2人の可能性――山沢拓也&コストリー・インタビュー

THE ANSWER / 2024年6月18日 10時33分

宮崎合宿で新体制が動き出した日本代表【写真:JRFU】

■エディージャパンのキーマン代表合宿インタビュー後編

 ラグビー日本代表が新体制で動き出した宮崎合宿。注目選手のインタビュー後編は、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が掲げる「超速ラグビー」にマッチする期待のメンバー2人を中心に、新たな桜の戦士たちを検証する。高校3年生だった11年前にジョーンズHCに練習生として代表に呼ばれたFB山沢拓也(埼玉WK)は、天性の閃きと創造力あふれるステップ、パスで代表定着に挑む。初選出されたNo8ティアナン・コストリー(神戸S)は、BK級のスピードを武器にする新世代のバックロー(FW第3列)として、どこまで指揮官の期待に応えることが出来るか。超速の申し子たちの挑戦と“桜のジャージー”への思いを聞いた。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 ファン、一部関係者が待望するファンタジスタが、桜のジャージーに戻って来た。

「自分より若い選手がすごく多いですね。でも、代表入りは一言でいえば楽しみという気持ちが大きいです」

 2017年の代表デビューから通算キャップは6。なかなかチームに定着できないシーズンが続く中で、今回の若手、経験者をミックスしたチームで山沢はBK(バックス)最年長グループの29歳だ。深谷高時代から変わらず自分のプレーやチームパフォーマンスに厳しめのコメントが多いが、始動したばかりの第2次エディージャパンには前向きだ。

 誰もが予想しなかった招待状が17歳の高校3年生に届いたのは、2012年のことだった。差出人はエディー・ジョーンズ日本代表HC。深谷高1年から「天才」の呼び名を全国に轟かせていたとはいえ、世界を相手に戦う日本代表への参加は異例のことだったが、指揮官はその奔放でセオリーに捕らわれないフレア(閃き)に、自分の手元で磨き込む価値を感じ取り、練習参加選手という身分で(代表に)呼び寄せた。

 同HCが率いた15年W杯の時は、ひざの怪我で選外。それでも、大学4年でパナソニックワイルドナイツと契約して史上初の大学生トップリーガーになるほど、溢れる才能は異彩を放っていた。国内では多くの関係者が認める存在だったが、16年から代表の指揮を執るジェイミー・ジョセフHCの下では、評価を得られない時間が続いた。

「あまり?み合ってなかったところはありました。ジェイミーが求めていることを自分が出来なかったので、もどかしい部分もありました。コーチがやりたいことを自分が上手くやれなかったのが一番大きかったということです。自分の評価をコーチ陣から聞く中で、23年のW杯へ向けては自分の中でもちょっと難しいなという思いもあった。だから22年に落とされた時は、最終的には納得していました」

 自分自身を納得させた心境を、言葉を選びながら振り返った山沢だが、味方をも欺くような閃きを生かした奔放さと、チームの決め事、ゲームプランを忠実に遂行する選手を求める当時の代表首脳陣の間には考え方の隔たりが大き過ぎた。防御やボール保持力などのストレングスを重視した指揮官にとっては、山沢のフィジカル面での不安定さもマイナス要因だった。山沢タイプの天才肌の選手は、欠点を重視する指導者と、足りないものを度外視しても才能を生かしたいというタイプで評価が大きく分かれる。そして、いつも温厚で謙虚な振る舞いの一方で、自らのスタイルにこだわり、自身のビジョンを持った山沢の秘められた頑固さも、メンバー選考に響いた。

 そんな辛い時間を山沢が過ごす中で、9シーズンぶりに戻って来たジョーンズHCは迷わず閃きを持ったアタッカーをメンバーリストに書き込んだ。

「17歳の頃はSOとして本当にワールドクラスになれるポテンシャルはあったが、怪我や高い期待の中で苦戦していた。でも、昨季はFBとして飛躍したし、FWから最初にボールを受ける役目(SO)もプレーできるので、ジャパンの新しいオプションに役立てることができるだろう」


奔放なアタックが持ち味のFB山沢、ジョーンズHCの掲げる超速ラグビーで真価をみせる【写真:吉田宏】

■ポジションはSOではなくFB 山沢本人も「15がメーンになると考えている」

 指揮官の期待にどこまで応えることが出来るのか。ここからの合宿、そして代表戦でのパフォーマンス次第だが、山沢も“恩師”ともいえる指揮官のラグビーには前向きだ。

「2015年大会の頃は、自分がラグビーをしっかり出来る体じゃなかった。だから一観客として見ていた印象ですが、ああやって走り勝つラグビーは深谷高校でもやっていたし、いま実際に代表で数日プレーしても懐かしいなという感覚もあります。代表に戻ってきたというよりも、あのラグビーを自分が出来ることが楽しみだなという感覚です」

 第1次エディージャパンでも、日本選手のスピードやアジリティー(敏捷性)に強みを見出していたラグビースタイルで、ようやくチャンレンジが出来る喜びが言葉に籠る。桜のジャージーで、どこまで閃きを輝かせるかが注目される一方で、本人は、強み以外のエリアでの進化にも取り組もうとしている。

「昨季の埼玉WKは最終的には負けてしまったが、チームとしては試合毎にどんどんレベルアップしていったシーズンでした。でも個人的には、怪我もあって試合の中で伸ばしていきたいものがうまく積み重ねられなかった。具体的には、防御でのポジショニングだったりアタックでも迷いがあるプレーが何回かあった。迷う前に動いて、もっと厚みのあるアタックができたんじゃないかなと思います。決勝もそうでしたが、迷ったが故に結局何も出来なかった、無駄に考えながらやっていました。ジャパンでやるラグビーでも、迷う前に動かないと間に合わないという印象なので、今のモヤモヤした自分にとっては、いいアクセントになるのかなと思います」

 5月30日に発表された代表メンバーのリストでは、山沢の名前は、高校時代からプレーし続けてきたSOではなくFBの位置に記されている。埼玉WKで今季先発出場した9試合中8戦で担ったポジションだ。

「FBがメーンだったのは昨季が初めてでした。それまでは10番をやる中で15でもプレーするという形だったので、メーンでやった時のプレー、考え方は正直まだまだ分からないところだらけです。試合をやることで経験は出来たが、細かいところでのレベルアップをしていく必要があると考えています。SOとは違う間合いがあるので、スピード、アジリティーとかは上げる必要がある。FBとして勝負できるスキルも必要です。ディフェンス、ポジショニングも、もっと学んでいかないと」

 背番号10での山沢に期待するファンも多いはずだが、指揮官も今季実際にプレーを観てきた15番での評価で山沢を選んでいる。山沢自身も「いま代表には信頼できるいいSOも2人いる。エディーさんと直接話してないが、15がメーンになると考えている」と意欲を見せる。

 FBでは、今季は代表を辞退する松島幸太朗(東京SG)、選外となった山中亮平(神戸S)という代表常連組が不在の中で、山沢の閃きがどこまで桜の15番で発揮できるのか。チームに不在のライバルとのポジション争いも視野に入れながらのチャレンジが続く。

 BK(バックス)は、山沢の才能をどこまで代表チームとして機能させることが出来るかが注目される一方で、FW(フォワード)では新鋭No8が、持ち前のスピードを「超速」で生かせるかという挑戦をスタートした。


BK級のスピードが武器のコストリー、「超速」の申し子に成れるか【写真:吉田宏】

■快足No8コストリーは大学の恩師も「抜群に頭がいい選手」と絶賛する逸材

「いままでの合宿とはちょっと違いますね。いつもテレビで観る選手が周りに沢山いたり、リーチさんのような憧れる選手が一緒に練習をしていて、やっぱり雰囲気が違う」

 初々しさ溢れるコメントをしたコストリーは、ニュージーランド(NZ)から岡山・環太平洋大に留学して、昨春コベルコ神戸スティーラーズに入団したポテンシャルを秘めた逸材だ。終わったばかりのリーグワンで神戸Sの8番を背負い続け、桜のジャージーにも手を掛けている。日本代表入りの可能性を持つ選手を集めた2月の「男子15人制トレーニングスコッド合宿」に参加すると、5月の同合宿を経て宮崎で初めて「代表」の肩書を掴んだ。2月の合宿でもリーチらと練習をしてきたが、正式な代表としての練習で、さらに学ぶものがあるという。

「初めて代表という環境で練習をしてみて、競争が激しいと感じます。予想はしていたが、やはりちゃんとそうでした。皆が試合に出たいという気持ちを感じるし、プレー以外の部分でも体のケアなども真剣にしている。すごい実績のある選手でも、練習だけじゃなくて それ以外の時でも競争している」

 大学の恩師で、神戸SのOBでもある小村淳監督が「抜群に頭がいい選手」と絶賛するのも頷ける。インタビューしたのは合宿の練習が本格的なメニューになった合宿5日目の夜だったが、新鋭8番はグラウンド内外の代表選手の振る舞いをしっかりと観察して、様々なものを吸収し始めている。大学4年間を日本で暮らしたとはいえ、インタビューも通訳なしで流暢な日本語を使い、時に知らない日本語があるとすぐさまスマートフォンの翻訳アプリを使って調べるなど学ぶ姿勢も旺盛だ。

 賢さと共に持ち味の快足だが、衝撃を起こしたのは昨年12月のリーグワンBL東京戦だった。日本代表でも快足をみせるBL東京WTBジョネ・ナイカブラが、神戸防御を振り切り独走態勢に入ったが、後方から猛加速で追い付きタックルしたのがコストリーだった。種明かしをすると、加速したナイカブラが自ら足を痛めて減速しおかげもあったが、それでも昨秋のW杯でもスピードで魅せたトライゲッターに、身長192cm、体重102kgのNo8が追い付くとは誰もが想像しない出来事だった。

 こちらも種明かしになるが、実は母国ニュージーランドでは16歳までBKだった経歴の持ち主だ。「でも身長が一気に伸びて、このペースで伸びたらLOをするしかないと思ってポジションを変えたら、そこから成長が止まってしまって」という“ラグビーあるある”で高校時代にNo8に定着した。結果的に、このポジション転向が日本でのチャンスを広げたことになる。来日後も、大学3年では一度FBに転向するなど、そのスピードは健在だ。

 そんな快足No8が、代表選手の中でも一目置くのが同じポジションでも活躍するリーチマイケル(BL東京)だ。

「代表に選ばれて、ずっとプレーを続けている。(テストマッチ)84試合に出ているという数字を見るだけで凄いことです。合宿で実際に細かく見てきましたが、私もこうしたら成長できるかなと学ぶ部分が沢山あります」

先に触れた体のケア、コンディショニングなどの自主管理もだが、コストリーが驚かされたのが、リーチがタイトファイブ(FW第1、2列)のグループミーティングにも参加する姿だった。

「私が参加するかと聞かれたら、大丈夫ですと断ると思います。でも、リーチさんは参加してちゃんと話を聞いている。それがすごいと思いましたね」

 前編でも紹介したように、LOでの挑戦も視野に入れるリーチは、練習メニューだけではなく、スクラムでLOがどう組むのか、どう第1列を押せばいいのかを学ぶために、FW前5人のミーティングにも参加していたのだ。

 期待される自分のスピードと「超速」の親和性については自信を見せるコストリーだが、一方で桜のジャージーを掴むための課題も自覚している。

「超速ラグビーの中で、私のスピードを出して、早く立ち上がって次のプレーにいくようなワークレートを見せていかないと、プレーチャンスは無くなってしまう。そして、強いコンタクト、タックルをインターナショナルレベルで出来る事を証明しないといけない。そこを、この合宿で成長しようとしています。証明できればきっとチャンスがあると思います」

 大型FWを擁するイングランド代表は、フィジカルの強さ、タックルでアピールするには最高の相手でもあるが、コストリーにはもう1つのモチベーションがある。

「イーサン・ルーツ(FL、No8)とチャンドラー・カ二ンガムサウス(同)は、NZでの友達です。2人と代表戦でプレーできれば楽しいですね」

 ルーツとカニンガムサウスはニュージーランドで育ち、イングランドのプロクラブでプレーする若手有望選手だ。共に今年の6か国対抗で代表デビューを果たしている。BK出身だったコストリーがNo8に転向したことも含めて、不思議な巡り合わせでFW第3列として相まみえることになれば、コストリーにとっては最高のデビュー戦になる。

■山沢&コストリー以外にも可能性を秘めた原石たちが招集

 2人の「超速ラグビー」で期待される選手にスポットを当てたが、他にも可能性を秘めた原石が数多く宮崎に集められている。

 スクラムの要となるFW第1列では、PR6人の合計キャップ数は12。代表戦経験者はわずか2人で、平均年齢24.8歳という若さだ。スクラムでの駆け引きなど「経験が物をいう」ポジションともいわれるが、ジョーンズHCは「タイトヘッド(右PR)は若い選手を育てる必要があると感じて選んだ。現代のラグビーでPRは、スクラムはもちろん、他にもタックル、ボールキャリーも出来ないといけない。そのために為房慶次朗(S東京ベイ)、森山飛翔(帝京大2年)を選んだ」と説明する。この6人の経験値で、世界でも屈指のスクラムを誇るイングランドに対峙するのはリスクも大きいが、3年後へのリターンを賭けた布陣といえそうだ。

 将来性では、トレーニングメンバーとして参加するFB矢崎由高(早稲田大2年)が存在感を見せる。ライン参加のタイミング、ボールを持った瞬間の加速力、そして視野も生かしたロングキックと、すでに代表メンバー35人に食い込めるポテンシャルをみせる。ジョーンズHCも「センス、ピッチ上でのコミュニケーション能力も素晴らしい。スピ―ド、勇気あるプレーも持っている」と評価は高い。7月のワールドラグビーU20トロフィーに挑むU20日本代表メンバーでもあるが、そのパフォーマンスを見る限りは、練習生から代表に“昇格”させて、テストラグビーという環境で能力を磨き込むのがベストチョイスだろう。矢崎自身も「U20の仲間と一緒に戦いたい気持ちと、正代表にステップアップしていくというU20代表の目指すものにも緒戦したい」と意欲を垣間見せる。

 5月のコラムでも紹介したWTBヴィリアメ・ツイドラキも父を継いで代表入りしたが、ジョーンズHCは「本当にポテンシャルを持っている選手で、スピードもある。より高いレベルの選手たちと厳しい競争をすることで、彼の良さがさらに磨かれると思う。ラグビーに臨む姿勢はファーストクラスで、良くなっていくしかないような選手」と評価。親子鷹となる代表デビューに宮崎で成長を続けている。

 若手を積極的に選んだ選手に対して、指導陣は経験豊富な顔ぶれを用意している。スクラム担当のアシスタントコーチはオールブラックスで108キャップを誇るPRオーウェン・フランクス。テクニカルアドバイザーのヴィクター・マットフィールドは世界最強軍団・南アフリカ代表LOとして127キャップのレジェンドだ。デイビット・キッドウェル・アシスタントコーチはリーグラグビー仕込みのタックルを落とし込むエキスパートと、多士済々のキャリアを持つ人材を、オーストラリア代表でもジョーンズHCとコンビを組んだ、イングランド出身のニール・ハットリー・コーチングコーディネーターがまとめ上げる。

 ジョーンズHCは「オーウェン、ヴィクターは世界でベストな選手。たくさんの経験を選手に共有させてくれる。コーチ陣は、南アフリカ、ニュージーランド、リーグラグビー、イングランドなどそれぞれの持ち味を統合して日本代表のアイデンティティを作っていってくれるだろう」と世界中から集めたスタッフに期待を込める。若い桜の戦士たちを、経験値は抜群のコーチが磨き上げて、3年後の世界トップ4入りという開花宣言に挑む。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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